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すごい偉い人だった

「断る。俺には俺の予定があるって言っただろ。何より、今はクゥのそばにいてやるのが、俺がやるべきことだ」


ジークから差し伸ばされた手を払いのけて、今にも襲い掛かりそうになっているクゥリルに近付く。そして、いつものように頭を丁寧に撫で上げる。


「旦那様ぁ……」


一撫でするたびに落ち着きを見せ、安堵した顔になっていった。


「ダメか……。残念だ、貴様を口説き落とすには別の手段が必要そうだな」


それを見るジークは残念そうにもせずに、ただ意味深にニヤっと笑う。


「話がそれてるが、それでこの状況一体どうするつもりだ?」

「ああ、そうだな。本来であれば、騒ぎを起こした者は適当に懲らしめてやろうと思っていたのだが、気が変わった」

「気が変わったって……、いったい何様だ……」

「まずは此度の裁定だが……店主よ、此奴から奪った物を全て返すのだ。ちょろまかすことは許さぬぞ」

「は、はいぃ!」


そう威圧すれば、奴隷商は急いで俺から奪った物をその場に並べ始める。

腕飾りに指輪、あとその時着ていた衣服等々、とりあえず失ったものはこれで全部あるようだ。


「これで全部か? 正直に答えろ」

「こ、これで全部です。まとめて売りに行こうとしておりましたので……っはぅ」


あまりにも自然に犯行の自白をしているが、奴隷商本人は不本意だと言うばかりに自らの口を押えるも既に遅い。

なるほど。丁度売りに出歩いていた時にクゥリル達と遭って、この結果になったというわけか。


「では店主よ、貴様はもう用済みだ。即刻去れ」

「は、はいぃ!」


ジークが命じれば、奴隷商は一目散にその場を去って行く。


「あ! まだ、旦那様を襲った分殴ってない!」

「どうどう、俺は大丈夫だから。心配してくれてありがとう」

「むぅ……」


膨れっ面になってるが、撫で続ければ機嫌も良くなるだろう。 ……少し顔が赤い? 気になって額に手を当てると熱があった。


「それで、次に貴様等だが……」

「クゥ、まだ熱あるよね。大丈夫?」

「ん、大丈夫」

「おい、聞いておるか?」

「……アンリ。こんな状態でクゥを連れまわすって何考えてるの」

「え、いや。ボクは止めたんだけど、クゥがどうしてもって……」

「それでもちゃんと止めてくれよ、なんの為の勇者だよ」

「いやいや、勇者関係ないよね!? もとはと言えば、旦那さんがいなくなるから……」


「ええい! 聞かんか、貴様等!」


少し無視しただけなのに、そこまで叫ばなくてもいいじゃないか。

多少はこれでクゥリルの気も晴れただろうし、これ以上ジークの気を損ねると何をするか分からないからちゃんと聞いてやろう。


「あー、はいはい。聞いてるよ」

「チッ、こういう時に我の力が効かないのは面倒だな……。まぁよい、次は貴様等についてだ。……街なかであれ程の騒ぎを起こしたのだ。ただで済むと思ってるわけではなかろう?」


どういうものか知らないが、警邏隊と言うのにまで被害が及んでるわけだから、普通に考えたら捕まるな。そうなる前にここから逃げてしまえば大丈夫だろうが。


「た、確かに……。くっ、ボクがちゃんと止められていれば……」


ただ、勇者であるアンリはその罪悪感に胸を痛めているようだ。


「そこでだ、我と取引をしようではないか」

「取引?」

「ああ、その通りだ。このままでは勇者と言えど、ただの犯罪者だぞ? もう知ってるかもしれぬが、ここでは教会などただ祈るだけの場所でしかない。頼ることはできぬぞ。さぁ、勇者を名乗る娘よ、どうする?」

「うぅ、どうしよう……」


勇者って何でも許されるわけじゃないのか。どこぞのゲームでは民家を荒らしたり、略奪したりするのにな。


「そんなのどうでもいい。私は旦那様と一緒に旅行するだけ。……邪魔する者は全て蹴散らす」

「ではクンロウ族の娘よ、たしか貴様等は番いを最も大事にする慣習を持っていたはずだな。ならば、ダンナを解放してほしければ……わかっておるな?」

「ぐっ……」


ジークはまるで二人の弱点が分かってるかのように、話を自分の都合の好さそうな方向へ持っていこうとしている。俺は良いとして、クゥリルまで好きなようにされるのは嫌だな。


「ジーク。その前にお前がどうこうできるのか?」

「ああ、我はこの地の領主と仲がよくてな。我が一言いえば、此度の件も見逃してやれるぞ」


分かっていたが、やはり身分が高かったか。一領主に言付けできるってことはかなりのお偉いさんなんだろうな……。


「なんだったら貴様達をまとめて保護してやろう。どうせろくでもない方法でこの国にまでやってきたのだろう? ならば、その身も保証してやろうというのだ」

「なぜ、俺たちがこの国のものではないと思った?」

「勇者が居て、さらにはクンロウ族までいる。これ以上ない証拠ではないか。むしろバレないとでも思っていたのか?」


そりゃそうか。勇者なんてそう何人もいてたまるか。


「あー……、じゃあその取引に応じれば色々都合をつけてくれるわけか」

「その通りだ。あと、ついでに言えばこの取引に応じなければ、この国……大陸から出る事は叶わぬぞ」

「は? どういう意味だ?」

「この国は今、鎖国状態にある。故に中央に行く方法も、教会を頼ることも現状は無いに等しい。しかし、我に協力すればそれら諸々を解決しようではないか。」


鎖国って……。それに教会もどう関係してるのか分からないし、何がどう関係あるんだ。あと、それを何とか出来るジークもどれだけ偉いんだよ。


「……どうやって海を渡ってきたのか、それは気になるところではあるが、後で追々利かせてもらうとしよう。それで、どうする?」

「ホントお前、何者だよ……」

「何者……か。いいだろう、特別に教えてやる。我が名はジークフリート・アイン・ドラグニア。女神に選ばれし覇者であり、このドラグニア帝国の次期皇帝である!」


まさかの、次期皇帝様だった。

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