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奴隷になりました。

薄暗い部屋の中。

見慣れぬ屋内で俺は目を覚ました。


いつの間にか着ていた服がボロの布切れの様な、服と言うにはあまりにも粗雑なものとなっており、さらに首には鉄の輪も付けられ、檻の中に閉じ込められていた。

周囲を見渡すと他にも同じような檻が複数あり、同じくボロの布切れを着た人が入っている。


つまりはそういうことだ。

俺は奴隷として捕まってしまったのだろう。


「はぁ……、やっちまったなぁ……」


最後に聞いたセリフを思い出し、あの時少しでも信じてしまったことに今になって後悔する。

クゥリルの存在が奴らにばれなかったのは不幸中の幸いと言うべきかもしれないが、そのクゥリルが入ったままのアイテムバッグをその場に捨てられてしまったのが痛い。


あの中に入ってしまったら自力では出ることはできない。最悪の場合、その中で人知れず餓死してしまう可能性がある。……こればかりは運よくアンリに見つけ出してもらえることを祈るしかない。


グランドダンジョンマスターといえど、ダンジョン内でなければただの人と変わらない。もしかしたら身体強化をすれば抜け出せるかもしれないが、そこまでするのにどれだけポイントを消費すればいいのか分からない。

そんなどうしようもない状況をしばらく待っていたら奥の方から話し声が聞こえてきた。


「……ええ、はい。そ、それはもう選りすぐりの奴隷が揃っております。ど、どうぞこちらへ」

「どれ、見せてもらおうか」


やって来たのは俺を捕らえた奴隷商の男と、ハードボイルドという言葉が似合いそうな強面な男。何やら怯えながら接客する奴隷商は部屋の中を照明で照らし、客と思われるハードボイルドに部屋の中の奴隷たちを薦める様に案内していく。


一つ一つ檻の前まで近寄り、奴隷商は「この奴隷は力があり……」とか、「こっちの奴隷はまだ若いですが……」など説明をするも、ハードボイルドが品定めをするように商品である奴隷の前まで立つと、どの奴隷も怯えて檻の奥へと後退ってしまう。

奴隷商はその様子に手に持った鞭で地面を叩き、前に出ること指示するも、一様に身を震わせて怯えてしまい、奴隷商を困らせていた。


「貴様等、しっかりと前に出ろ! す、すみません、こいつらには言い聞かせてるはず

なんですが……」

「よい、仕方のないことよ。それよりも向こうの奥はよいのか?」


ハードボイルドがまだ案内していないこちらに気が付くと、奴隷商は肩をビクッと震わせてオドオドと口を開く。


「あ、あれは今日入荷したばかりで、お客様の望むような奴隷にまだ仕上がっておりません。それに、どういうわけか奴隷紋も受け付けなかったので、無理に言う事をきかせるのも難しいです。今は仕方なく隷属の首輪を使っておりますが、お客様に提供するようなものではないかと……」

「関係ない。我が見たいと言っておるのだ、良いから見せろ」


ハードボイルドの圧のある一言で奴隷商は「は、はいぃ!」と情けない声を上げ、慌ててこちらの檻まで近寄ってくる。


近くで見たハードボイルドは顔が濃いのもあって、その強面顔から怯えるのも仕方のないことかもしれない。俺的には洋画の主人公を張れるぐらいにはカッコイイと感じた。


「その、こいつは……」

「そこの人、助けてくれ! 俺はこいつに捕まって無理矢理奴隷にさせられたんだ!」

「ッ! このっ、奴隷風情が!」


もしかしてこの人なら助けてくれるかも、と思い助けを求め声を上げた。

それに奴隷商は鞭を振り上げ、俺に向かって振るおうとするが、ハードボイルドが腕を上げ制止させる。


「その話は本当か?」

「ああ、本当だ。道に迷ってたところを後ろから思いっきりやられて、気が付いたらここに閉じ込められてたんだ」


こちらの言い分に奴隷商がこちらを睨みつけて来るが、ハードボイルドの問われるとすぐさま目を泳がせた。


「その話が本当なら違法奴隷という事になるが……。店主よ、どうなのだ?」

「アワ、アワワワワワ……」


言及された奴隷商は腰を抜かしてその場にへたり込んでしまった。その様子にハードボイルドはため息をつき、こちらに向き直す。


「貴様、名は何と申す?」

「あー……名前かぁ……。名乗りたいのは山々なんだけど、ないんだよね」

「名前がない?」


名前がないってやっぱり不便だ、これから先も旅をするなら偽名でもなんでも考える必要あるかも。

そう考えていたら奴隷商が突然、「そ、そうなのです!」と声を上げだした。


「こいつは生まれついての奴隷で虚言癖があるのです! 前の所もその虚言癖で戻ってきたばかりで、再調教する所だったのですよ。は……ははは……」


はじめに言ったことと内容が食い違ってるが、引きつった笑顔を作って無理に押し通そうとしている。

名前がないのは本当のことだが、まさかそれを理由にされるとは……。


「ふむ、店主の言う事にも一理あるな」

「そ、そうでしょう。所詮は奴隷の言う戯言です」

「待ってくれ。確かに名前はないが、俺は奴隷じゃないぞ。いや、今は奴隷かもしれないがそれはこの奴隷商に捕まってからで……」

「そんなことより、貴様は我が怖くないのか?」

「はい? なんでそんな突然……。……たしかに見た目はちょっと、いや結構な強面だと思うけど、特に怖がるほどでもないんじゃないかな。俺的にはカッコイイと思うし」


俺の答えに満足したのか、急にハードボイルドは声を上げ笑い出した。


「クク、ククク。そうか我がカッコイイか。……面白い。店主よ、この奴隷を貰おうか」

「は? あ、あのよろしいのですか?」

「かまわん。これは、いい掘り出し物を見つけた。さぁ、店主よ、速いところ取引をまとめようじゃないか」

「は、はいぃ!」


どうやら気に入られたようだ。俺としては奴隷として買うのじゃなく助けて欲しいのだが、何を言ってもただ笑うだけで、「そうか、そうか」と一人で頷いて、勝手に納得してしまっている。

その後、奴隷商と共に奥に戻り、しばらくすれば取引成立したのか、戻ってくるとこの奴隷商の店から追い出されるように外に出された。


もちろん隣には、満足気に表情を浮かべた強面なハードボイルドも一緒だ。

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