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早くも問題発生

ダンジョンを出ると、そこは不自然に拓けた木々に囲まれた場所だった。

周囲には長年放置されたような残骸と焚火をしたような跡が残っており、ダンジョン攻略に挑んでそのまま帰らぬ人となったのだと簡単に想像できる。

森の方には人が行き来したような獣道が残っていたので、俺たちはその獣道を進むことにした。


乾燥した寒い地域だったファグ村周辺と違い、ここは雪が降っていたような形跡もなく、ベタっとした湿気がまとわりつき、少し……いや、かなり暑い。

隣を歩くクゥリルもその暑さに結構な量の汗をかいている。


「暑いなぁ……。クゥ、こまめな水分補給を忘れずにね」

「…………ん。……わかった」


水筒を取り出して渡すも、調子が悪いのか少し遅れてから受け取って飲み始めた。

夏でもここまで暑いと思う日はなかったし、仕方のないことかもしれないが気丈にふるまっているのが気になる。


「あ、ボクにもちょうだい。それにしてもこっちはホントに暑いね」

「はいよ。暑いって割には元気そうだけど、アンリが普段いる場所はどうなの?」

「んー、そうだね、クゥたちの村が異様に寒いぐらいで夏場ならだいたいこんなものだよ。ただ、ここは向こうと比べると大分ジメジメしてるかな」


やっぱりあそこが普通より寒いのか。それにしてもまだ春前だというのに夏場並みの暑さなのは、東の大陸は熱帯気候なのか? これなら何かしら涼しくなれるものでも用意すればよかったよ、普段から寒いか涼しいかだから忘れていた。


そんな暑い中をさらに歩く事数時間。

獣道を抜けた先には人通りのありそうな場所へ出た。車輪の跡があることから、まだ使われている道だろう。


「ようやく道らしい道になったな、この道をたどればとりあえず人里には着けるはず……」

「やった! これで教会に立ち寄れる! それに場所も分かるし、助けてもらえるよ」


何やら教会に行くことが決まってるようだが、こっちじゃ教会の権威が無かったんじゃないのか? そんな疑問を思いつつもこの暑い中でもはしゃいでいるアンリに訪ねる。


「ねぇ、アンリ。教会ってそんな、どこにでもあるもんなの? 東じゃ無いんじゃなかったの?」

「? 何言ってるの? 辺境でもない限り普通あるでしょ。それに教会が無かったら村どころか国を建てても認められないしね」


普通なのか? 宗教国家とかならそうなのかもしれないが、前世が無宗教だったからいまいち分からないな。この世界の国ってどうなっているんだ。


「そうなのか。でも、俺が教会寄っても大丈夫なの? そっちでいうところの邪悪なるモノなんだけど」

「うっ……。た、多分どうにかなるよ。クゥとの約束もあるし、ボク自身がクゥに勝つまでは教会にだって手を出させないことを誓うよ」


何も考えてなかったのかい。まぁアンリがそこまで言うなら信じてあげよう。最悪クゥリルの力があれば簡単に逃げれるだろうし。


「まぁいいや。クゥ、いざという時は頼りにしてるよ」


呼びかけるが返事はない。

不思議に思って「クゥ?」と再度呼びかけ、振り向くと、クゥリルが力なく倒れ掛かってきた。


「クゥ!?」

「わわっ!? どうしたのクゥ、大丈夫!?」


慌てて体を支えるもその顔色は非常に悪く、吐く息も荒く、額に手を触れると火傷しそうなほど熱かった。


まさか、あの時の毒がまだ残っていた? いや、時間も大分経っているし解毒ポーションも飲んでいたからそれはないはず。……だとすれば、ここまでずっと無理をし続けていて、それがこの暑さで一気にそれが押し寄せてきた? それとも何かしらのこの地域特有の病気か?


「と、とりあえずポーションだ。ほら、クゥ、ポーション飲んで」


ポーションを取り出して飲ませるも、一向によくなる気配はない。それどころか苦しそうに呻きだして、更に悪化したようにも見えた。


「ああクソ、これじゃダメなのか。せめてこの熱だけでも冷やせはしないものか……」


万能と思っていたポーションも役に立たなかった。

体を冷やそうにも、冷やすためのものは用意してない。今からダンジョンに戻って氷を用意しようにも、俺の足じゃ時間がかかり過ぎる。何かいい手はないかを考えるも、クゥリルが倒れるという初めての事で、思っている以上に動揺して何も思いつかない。


「冷やせるもの……ッ! そうだ! 今から川、見つけてくるからそこで待ってて!」

「いや、ちょ、ま、待て!」


呼び止めるもすでに遅く、アンリは森の奥へと駆けていった。


「あの馬鹿、それなら俺とクゥを抱えてダンジョンまで戻ればいいものを……。それにこの状況どうするんだよ、身を守る魔道具はあるけど武器は持ってきてないぞ……」


この暑さではすぐに温くなってしまうがこの際仕方ない、飲み水を使ってクゥリルの額を冷やす。アンリが返って来るまでの間はこれで代用して待つしかない。




適度に汗を拭きつつ、見守り待つこと数十分。

遠くからカパラカパラ、ガタゴトガタゴトと、馬車が走ってくる音が聞こえてきた。


思わず立ち上がって見に行こうとするが、


「行かないで……うぅ……だんなさ、まぁ……」


ぎゅっとクゥリルが手を掴んだまま離してくれなかったので、それはできなかった。


「大丈夫だよ、クゥ。そばにいるから」


頭を撫でて落ち着かせる。このまま待っていれば馬車が通るのはわかっている、なので待つことにする。

とはいえ、それでいいのだろうか、とふと頭に過った。

やってくるのが善人ならまだしも、もしも悪人ならこの状況は不味い……。


考えた結果、俺はクゥリルをアイテムバッグの中に隠して対応することに決めた。


「クゥ、しばらくこの中で待っててね」


ハッキリとした返事はないが、ぎゅっと握りしめていた手が緩やかになったので了承と受け取り、アイテムバッグの中へと入ってもらった。


「すみませーん!」


森から出て馬車の方に向かって声を上げると、深めに帽子をかぶった御者の男性がこちらに気付き、その場に馬車を停めてくれた。


「おや、どうされましたか?」

「あー、その旅の者なんですが、道に迷ってしまって……」

「それはそれは……大変でしたね。もしよければ、この先の街までお送りしましょうか?」

「いいんですか? その、今は手持ちが無くてお礼も返せそうにもないのですが」


多少疑ってかかるも、ニッコリと笑い返してくる。


「ここは旧街道ですからね、迷ってしまうのも仕方ないことですよ」


よかった、何か胡散臭い感じはしたが、どうやらいい人そうだ。

あ、でもアンリのこともあるからな、どうしよう。


「おや、どうかされましたか?」

「それがそのー……ッ!?」


(アンリ)を待っていることを言おうとした直後、頭に重い衝撃が走った。

唐突な衝撃に抵抗もできず、その場に倒れてしまう。


「ふん、馬鹿な男だ。わざわざ奴隷商に助けを求めるとはな……。おい、さっさとソイツを荷台に放り込め」

「へい、御頭。でもコイツ、本当に何も持ってないみたいですね。あるのはこのちっさい布袋だけみたいです」

「そんなものなど捨ててしまえ。このあたりでは見ない上質な物を着ているのだ、旅の者なのも本当のことなのだろう。それだけで十分だ」


薄れゆく意識の中、そんな会話が聞こえた。

最後に投げ捨てられたアイテムバッグを目に意識を手放した。

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