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ファグ村、身も心も曝け出す

「遅かったか……」


クゥリルの槍は確かにダンジョンコアを貫いた。

しかし、その先の変態紳士の持つ装置まではたどり着かなかった。正しくは装置から迸る光により、突き刺さるはずだった穂先から消滅していった。


消滅したのはそれだけでなく、ダンジョンコアによって生み出されたもの全てで、つまりそれは、俺のはもちろんクゥリルの身に付けたモノ全てが消え去り……、簡潔に言うと全裸だ。


ダンジョンコアに関係ない腕飾りなどはそのままだが、アイテムバッグも消えて、中にあったものが散らばっている。


「なぜだ……なぜ消えてない……」


わなわなと震えた全裸の変態紳士にもダンジョンコアと同じように胸に穴が開いていて、


「あが、あがががががが」


突然痙攣し出すと体中にヒビが広がっていく、そしてヒビ割れたところから身体がドロドロと溶け出し、地面へと吸い込まれていった。


「これがダンジョンマスターの最期なのか……」


いずれ来るだろう自身の最期の瞬間を想像して身震いしてしまう。何かを感じ取ったのか、クゥリルが心配げに近寄ってくる。


「旦那様……」

「クゥ……。ありがとう、大丈夫だよ。だから、まずは服を着ようか」


身を隠すもの何一つ纏わず、獲物を狙うかのような目でにじり寄っているが、とりあえず姿を視線から外してから、ダンジョンコアを使って服を出す。


「必要ない、ちょうどいい」

「えーっと、何がちょうどいいのかなー?」


とぼける様に答えるが、それを逃すつもりは無いみたいで両手を掴んでくる。


「それはもちろん、子作り!」


ああ、うん、そうだよね。ずっとアプローチしてきたもんね。


「……クゥの言いたいことはわかった。だけど、まずは村に帰ろう? こっちは終わったけど、村の方は今頃モンスターの大群が押し寄せてきてるはずだよね?」

「皆なら心配ない、それに今帰ったとしてももう間に合わないよ」


確かにクゥリルの言う通りだ。行きで三日はかかったのだから、ただ帰るだけだとしても二日ほどかかるだろう。今更帰ったところで間に合うとは思えないが、今ここで流れに身を任せるのは危険だと、俺の中の直感が告げている……!


「……ねぇ、これが終わったらって言ってたよね」

「あーアレだ、ホラ。遠足だって帰るまでが遠足っていうよね。ダンジョン合戦も帰ってようやく終わりだよ」

「なにそれ? そんなのわたし知らない。……旦那様、わたし、もう我慢できないよ……」


苦し紛れも引き延ばそうとするも終わったらと行った手前、必死に懇願してくるクゥリルに罪悪感が押し寄せる。しかし、ここで諦めたらクゥリルの為にもならない。


「ぐっ、我慢させてきたのは悪いと思ってるけど、これでもクゥのことを思って言ってるんだ。……聞いた話だけど、クンロウ族って本来成人してもすぐに番いを作ることはないんだよね」


クンロウ族の女性が番いを得ると、身籠るためにも狩りをしなくなる。

その後も子供を家を守るため狩りをすることはなく、その為か番えるまで短くても五年は独身を貫くようで、それもあってクゥの番い宣言は異例中の異例だった。


そもそも成人してすぐに村長の座に就くことも、村の外で尚且つ弱者である俺を番いとすることも、その全てが異例尽くしで、村人一同が「この村長(クゥリル)なら仕方ない」と呆れられている。


「本音を言えば、クゥに求められるのは嬉しいし、俺だってクゥが大好きだからそういう関係にもなりたい。だけど俺のせいでクゥの大好きなことをできなくなるのは嫌なんだ」

「わたしは別にいい。旦那様がいれば、狩りができなくても……いい」

「本当にいいの? 村長の座も譲らないといけないし、これまでと同じように狩りができなくなるんだよ」


クゥリルの眼をまっすぐに見つめて、問いかける。


「…………うん」


妙に間はあったものの、例え大好きな狩りができなくなっても良いという確固たる意志が見えた。

……ここまで決意されたら折れるしかないじゃないか。


「クゥ……」

「……旦那様」


互いに小さく呼びと、顔を近付け合い――


「クゥ! 大丈夫!?」


――割り込むようにアンリが、あれほど変態紳士に望まれていたはずの勇者が何故か今になってやってきた。


「ってえぇえええ!? な、な、なな、なにやってるの!?」


まぁ目の前で男女が素っ裸で手を握っていたら驚くのも無理はない。突如として現れた様子からすると、例のダンジョン帰還用アイテムを使って戻ってきたのだろう。


「あー、アンリ。何故来たんだ? 予定ではまだしばらくは来ないようお願いしてたと思うんだけど」

「え、あ、その。……ま、まずは服を着ろぉ!」


顔を赤面させて怒鳴ってくる。年齢相応にウブと言った所か。

仕方ないのでクゥリルにだけ聞こえる様、「やっぱり、戻ってからだね」と小さく呟く。


「……」

「……えーっと、クゥ? 手を離してくれないと服が着れないんだけど……クゥ?」

「ほらクゥ、早く服着て! ……あれ、どうしたのクゥ?」


アンリの登場から反応を見せないクゥリル。しばらく押し黙っていて一向に手を離そうとしていない。


「う」

「「う?」」


ようやく一言発したと思えば、


「うぇぇえん。アンリが邪魔したぁあ!!」


大声をあげて、泣き出した。


「ええ!? ボ、ボクのせいなの!?」


大粒の涙を流して泣き続けるクゥリル。それをどうにかして慰めようと、アンリがあたふたと困惑している。


「ご、ごめん、クゥ! ボク何かしたかな? ねぇ、泣いてないでどうしたらいいか教えてよ。うぅぅぅ、旦那さんも見てないでどうにかしてよぉ!」


――相手のダンジョンコアの吸収を確認。


どこからともなく、あの機械的な音声が頭に響いてきた。

このタイミングなのかよと思いつつ、頭に響く声を無視してこの状況を収めるための術を考える。……まずは何とかして泣き止んでもらわないと。


――ダンジョン合戦を終了します。


「クゥ、お願いだから泣き止んで。ボクにできる事なら何でもするよ」


――……。


「うぇええぇぇぇ、ひぐっ、だんなざまぁ、だんなざまぁあぁあ!!」


――……。


「よしよし、落ち着いて。大丈夫だから、ちゃんとクゥのいうこと聞くから」


――……条件事項の達成を確認。全ての事項を満たした為、昇格工程を実施します。


流れる音声を聞き流していたら、急激に意識が遠のいて行く感覚に襲われる。


「あ、れ……?」

「ええ!? 旦那さんもどうしたの!?」


立つことすらままならなくなり、泣いているクゥリルに倒れ掛かる様に意識を失った。





目を覚ますと、真っ白い空間にいた。

辺りを見渡すが何もなく、ただ俺だけがポツンと世界に取り残されているようだ。


「ほう、まさかあの地からのモノが来るとは……少々意外だな」


誰もいない空間に、無駄に荘厳な男の声が聞こえる。


「まずはオメデトウと言っておこう。貴様は無事にダンジョンマスターの役目をこなし、見事昇格条件を満たした」

「あー……、随分と懐かしいが、これはアレか」


自称神、いや邪神呼ぶべき存在か。


「ふはは、邪神か。確かに奴らから見れば邪神と言えるだろうな」

「また勝手に心の中覗いて……、邪神じゃなければなんだって言うんだよ」

「好きに呼ぶがよい、この世界で名前などあっても無意味なものでしかない」


好きに呼べと言われても困る。そもそも俺以外のダンジョンマスターはこいつの存在って何て呼んでいたっけ?


「他のモノには正体不明、X(エックス)、謎の存在等と呼ばれもしているな」


何かこれを神扱いするのは嫌な気はするし、短めのエックスでいいや。


「それでエックスさん?は一体何の用で俺をこんなところに?」

「先ほども言っただろう。貴様は昇格の条件を満たしたと、わかり易く言えば進化だ」


いや、進化って言われてもわけがわからない。

そもそも突然ダンジョンマスターにされたことも意図不明なのに、その上進化っていったい何にだよ。


「これより貴様はより上位の存在である、グランドダンジョンマスターへと至る」

「グランドダンジョンマスター…………ダサい……」

「ダサくて悪かったな。――グランドダンジョンマスターとはそのままの通り、ダンジョンマスターの上位種だ。貴様で二人目となる、栄えある存在だぞ」


二人目って、意外と少ないな。DMランキング四位だったけど、進化にはランキング関係ないのか。しかし、栄えがあっても何の恩恵があるんだ、それよりもダンジョンマスターの意義を教えてくれ。


「慌てるな。貴様は晴れて上位存在となる、故にこの世界についても説明してやろう」

「ようやくなのか。今まで村までしか広がってなかったけど、いきなり世界って……。急に舞台が大きくなったなぁ……」

「ははは、舞台か、良い得て妙だな」


何やら急に気分を良くしたようだが、急に使命とか言いだしても聞く気はないからな。


「そうだな、舞台が大きくなろうとも貴様のやることは変わらん。これまで通り好きに生きるがよい」


……初めの時と比べるとやけに反応してくれるな。前なんてこっちの言葉を聞く気もなく離しを進めていたのに、どういった心境の変化だよ。

あれか、二人目って言ってたってことはそれまで一人でずっと待ちぼうけ食らってたのか。

まぁ説明不足過ぎて、進化することがまずないんだろう。俺だって何でここにいるのか分かってないし。


「準備はよいな」

「え、準備って――ッ!?」


そう問いかけるや否や、全身に激痛が駆け巡り、身体が変質していく感覚に襲われる。

更には頭の中にまで異物を入れられるような不快感と共に、膨大な量の知識が一気に流れ出した。

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