ファグ村、防衛戦
今の状況を簡単に説明しよう。
西の最果てでもあるこの終わりの大地に、モンスターたちがこれでもかと言うほど絶賛集結中だ。
この前やらかした結果が予想以上にヘイトを集めてしまったようで、大小様々なモンスターが見渡す限り広がっており、中には面白半分で送ってきたと思われるのもいる。見た目からして奇抜なモンスターやどこぞのマスコットキャラだってのもいるしで、明らかに遊び目的なのも混じっていた。
後輩君が見た“DMちゃんねる”の流れから、実況・観賞目的が半分ぐらい占めてると言っていたので、多分それらがそうなのだろう。そう考えると見た目以上には敵は多くないようだ。
現状それらの大群は放置でいい。わざわざ蹴散らしに出る理由もないので、村人たちにはしかるべき時に防衛できるように待機してもらっている。
一部の血気盛んな村人達は、この状況にこちら攻め込んで全部ぶっ倒そうと意気込んでいるが、それにはクゥリルの止めが入った。
ダンジョンが生み出したモンスターだと、どんな特殊なモンスターが出てくるかもわからない、少数であれば対処できると思うが、流石にこの数を打って出るのは悪手だろう。
それに、この日の為に用意した防衛設備を活用して欲しいってのが本音だ。
「おいおい、オレたちゃいつまで待たなきゃいけねぇんダァ?」
「あー……お義父さん。何度も言ってるけど後輩君から情報が来ないことには何とも言えないよ」
「んなもん関係ネェ! 狩場が荒らされて黙っていられるカァ!? おい、クゥ! お前はどうなんだ、村長のお前が黙って見てろって言うのか!?」
「向こうはまだこっちに入って来てない、手前で様子見てるだけ。気にするだけ無駄」
そう、モンスターが集結しているのは、この終わり大地への入口と言える川。
冬じゃなければそもそもこの川に阻まれて来れないのだが、こればかしは時期が悪かった。
けれど、周囲が森に囲まれている以上、自然と集まれる場所は凍った川だけであったのはわかりやすくてよかった。
何度かこっちに来ようと先行したモンスターもいたが、一足森の中に踏み入れれば、現地の野生生物に襲われて少なくない被害を出して引き返していた。
年々冬の寒さが落ちてきたことによる弊害……冬眠することが無くなった野生動物たちが、こうもいい方に動いてくれるとは思っても見なかった。
ここの生き物って強かったのだな、伊達に終わりの大地と呼ばれるわけだ。……それを毎日狩って暮らしてるクンロウ族って、やっぱおかしい。
そんなわけで、向こうからしたら何が潜んでいるのか分からない状態からか、数が揃いきるまで機会を窺っている。
何か動きがあるとしたら、“DMちゃんねる”を通して全体に伝えられる。こちらとしてはそれを来るのを待っているだけでいい。
一応は村周辺に設置された村お手製の罠もあるので、無駄に警戒して疲弊することもなく、気楽なものだった。
「そろそろ来るみたいっすよ、先輩!」
「おっ、ようやくか。それじゃあ配置につては後輩君に任せるとして、準備を始めよう」
「あの、ちょっと待って欲しいっす。その、先輩には耳に入れて欲しいことがあるっす」
後輩君が少し口ごもって、今の今まで動きがなかった“変態紳士”のことを伝えてきた。
変態紳士はこの日までずっと準備をしてきたようで、それがようやく終わったということ。そして今、集まっている者たちを鼓舞するかのように、堂々と攻めることを宣言した。
この数になってもまだ攻めて来なかった裏には、一番の不安材料である勇者という存在があったようで、この変態紳士はその勇者を一手に引き受けるといった。
一体何をするのかと言うと、『ダンジョン合戦』を行うというものだった。
それはダンジョンとダンジョンをぶつけることで発生するもので、ダンジョン同士で対決することができる唯一の機能らしい。この勝負はどちらかのダンジョンコアを破壊するまで終わらない、負けてしまえば相手のダンジョンに全て奪われてしまう、命懸けの決闘だった。
その合戦を行えば、嫌でも勇者をこっちに向かわせなければならなくなる。例え地上のモンスターの大群に向かわせてしまえば、その間に潰してしまえばいいだけの事と、自信満々な書き込みがあったという。
流石と言うべきか、DMランキング2位の実力を誇る変態紳士の執念は常軌を逸していた。
そんな機能を知っていても、普通は実際にやるなんて馬鹿げている。
ダンジョンをぶつけるって簡単に言っても、近くにあるとも限らないし、ぶつけるまで伸ばすってだけでもかなりのポイントを消費するはず。
「まさかそんなことをしてくるとは、コテハンの通りぶっ飛んだやつだな。……さて、どうしたものか」
「地上の方は任せてくださいっす。先輩のことは忘れないっす!」
「おい。なぜ負ける前提なんだ」
「冗談っすよ、冗談。でも、地上の方は本当に任せて欲しいっす。新しくなったガーディ三世とここの人たちと連携すれば大丈夫っす!」
いつの間にか三世になっていたのか、二世はどこ行った。
「だから先輩はクゥリルさんと一緒に変態紳士を倒してくださいっす!」
「ホントに大丈夫か? クゥが居るのと居ないとでは違うと思うが」
「ふふふ、実はあの中に僕のモンスターも潜り込ませているんで、おおかた戦力把握できてるんすよ。それをもとにフィリアさんと、どう防衛すればいいのか、誰にどう任せればいいのか、作戦もバッチリ計画済みっすから、クゥリルさんがいなくても心配ないっす」
後輩君の中ではもう勝ったも同然と思っているのか、その様子は自信に満ちている。まぁフィリアさんが付いているなら、そこまで悪いことにはならないだろう。
「そこまでいうなら任せよう。……えーっと、お義父さん、そういうことなので後輩君の指示に従ってもらえる?」
「ハァ? なんでこんな若造のいうこと聞かなきゃならねぇんだ?」
「……クゥ、お願い」
こういう時のお義父さんの扱いはクゥリルに任せるのが一番。
早速、クゥリルがお義父さんの前にでて、ビシっと指を刺して言い放つ。
「お父さん、村長命令……コーハイとフィリアのいうことをちゃんと聞くこと」
「しかしクゥ、テメェより弱ェヤツの言葉聞いても無駄じゃねぇか」
「なんと言おうと、これは絶対。意見あるならわたしに挑む? 戦う前から退場することになるよ」
「チッ、ワカッタよ。聞けばいいんだろ、聞けば!」
それから村の広場にみんなを集めてもらってから、後輩君は指示を出していく。お義父さん以外はすんなりと後輩君の言うことを聞いているのが意外だった。
作戦を言い伝えると、気軽な感じで「コーハイ、これが終わったら酒用意しといてくれよ。もちろんお前の奢りな!」とか「コーハイ、お前の作戦信じてるぞ。あ、でもミスするたびに一品追加な」などと揶揄われている。
こういう時だからこそ知ったが、疑似狩場の提供や毎日のポイント交換とかで積極的に交流しているのもあって、けっこう慕われているのだな。
俺に気軽声を掛けてくる人……? そんな人いません。
村長の番いだけあって一応は尊敬されている、と思う。けど立場上気軽に声を掛けて来る人なんていない。お義父さんのそれは気軽と言うより、仇を見る様な感じだから違うし、やっぱ遠慮なく接してくれるのは子供達ぐらいなものだ。今の状況が落ち着いたらお菓子でも振舞ってあげよう。
「よし、それじゃあクゥ、向こうは後輩君に任せて俺達はダンジョンで待ち構えておくか」
「旦那様、今変なこと考えてなかった?」
「ナンノコトカナー? ほら、早く戻らなきゃ。いつ来るかもわからないんだし、善は急げだ」
訝しむ目でジーっと見てくるクゥリルから逃げるように、自身のダンジョンへと戻るのであった。




