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ファグ村、やらかす

「せ、せせ先輩、大変っす!」

「うちに来るなんて珍しいな、一体どうした後輩君」

「どうもこうもないっすよ、先輩何てことしたんっすか!? ヤバイっすよ、マジヤバイっすよ!」


血相を変えてやってきた後輩はまくし立ててくる。けれど俺の記憶ではここ最近何かした覚えはない。毎夜クゥリルがアプローチしてくるのに対して、攻防を繰り広げてるくらいなものだ。


「何もしてないけど? むしろ、忙しいそうにしてるのは後輩君だけじゃないか」

「そうじゃなくって、先輩が勇者になんかしたんすよね!? じゃなきゃこんな荒れることないっすよ」


そう言った後、”DMちゃんねる”を見るように指示してくる。言われるまま一つの報告スレを見ると、そこには「勇者が生きてた!」「トラップが通用しない」「すでに10か所以上やられてる」等々、アンリの活躍が書き連なれていた。


「へぇー、アンリ頑張ってるみたいじゃん」

「そういうことでもないっす! これ絶対先輩が何かしたに決まってるっすよね!」


何も知らない素振りを見せるけど、全く信用していないような目で見てくる。

心外だ、流石の俺でも直接勇者の手助けになるようなことはしていない。せいぜい攻略のヒント――時間をかけてしまえば、逃げられてしまうってことを教えたぐらいだ。


「特にコレ! ここに書いてる勇者が持ってい魔道具とか、すっごい見覚えあるっす!」

「ははは、流石にダンジョン攻略用アイテムなんて渡したりしないよ。似たようなものをどっかで手に入れたとかじゃないの?」

「そんなわけないじゃないっすか! 後で知ったすけど、こんなポイント高い物なんてそうそう売ってるわけないじゃないっす!」

「そう言われてもなぁ、知らないものは知らん。なあクゥ」

「え? あれ、あげちゃダメだったの?」


……え、嘘。アレ渡しちゃったの? 聞いてないよ。

クゥリル的には良いことしたつもりなんだろうけど、流石にこれは予想外。


「やっぱり先輩が原因じゃないっすか! もう、スレでは裏切り者がいるとかって騒ぎになってるんすよ、どうするんっすか!?」

「どうするも何も、これはやっちゃったなぁ」

「ごめんなさい、旦那様……」


珍しく落ち込んで、尻尾をシュンと項垂れさせている。


「うんまぁ、これは不幸な事故だった……、たぶん黙っていれば、気付かれることもないんじゃないかな。アンリのことは俺たちとは関係ない、いいね」


別に怒るつもりとかはない、やってしまったことをとやかく言うより、落ち込むクゥリルを撫でて慰める。

その様子を見て後輩君は「はぁ」と盛大な溜息をついてきた。ため息をつくと幸せが逃げて行くぞ?


「クゥ、遊びに来たよ!」

「ゲェ、勇者!?」


噂をすればなんとやら、丁度アンリがやってきた。


「人の顔見るなり何さ。コーハイ、討伐されたいの? あ、旦那には……はい、これお土産ね」

「ああ、そこに置いといて」


かれこれ何度目だろうか、今ではこうやってお土産持ってきて、何度も遊びに来るようになっている。

それに来るたびにお土産として謎の石の欠片を持ってきてるけど、これさっきの話からすると、おそらくダンジョンコアの欠片(戦利品)なのだろう。

普通にポイント変換できてたのは不思議だった、けど、色も質も様々なモノだし、各地のパワーストーンとか、そんなものだと思っていた。……ダンジョンコアって人によって違うんだな。


「あれ、どうしたのクゥ? 何か元気ないみたいだけど」

「アンリ……、それがね、アンリに渡したヤツ、ホントは渡しちゃダメだったヤツだったの……」

「え、あー…………。こ、これは返さないよ、もうボクのだし!」


クゥリルが申し訳そうに言うが、返すつもりはないようだ。

まぁそうだろうな。今まで困ってたことが全部解決してたのに、今更手放すことなんてできるはずないよね。


「それはもういいよ。別にこっちには関係ないことだし、どうせ誰が渡したか何てバレりゃしないからね」

「え!? ちょっ、これって!? あわわ、マズいっす!」

「いきなり大きな声を上げてどうした」

「ここが特定されたみたいっす!!」


は? なぜそうなった。フラグ回収早過ぎだろ。

スレをのぞいてみると、後輩君の言う通り「勇者の拠点特定した!」と書き込みがあり、その続きに、ここのことを示す、西の終わりの大地ということまで特定されていた。


一般的にここには何もないところだから、村があるなんて知られていないし、そんな場所にあるとしたらダンジョンぐらいだと、一気にスレが加速していっている。

これは本格的にここのことがバレるのも時間の問題かもしれない。


「そういえばアンリ、それ何? さっきから気になってたんだけど、新手のアクセサリー?」

「ん? 別にそんなものつけた覚えないけど、どれ?」

「あー! それ、モンスターっすよ! しかも長距離探索用のヤツっす!」

「なるほど。これで位置特定されたのか」

「悠長なこと言ってる場合じゃないっすよ! 何か手を……」

「よし、クゥやっちゃって」


後輩君が何か言おうとしていたが、とりあえずクゥリルに指示する。アクセサリーに擬態していた昆虫型のモンスターは槍の一刺しで倒されたが、


「……って、何やってるんすか! そんなことしたらここにいますって言ってるようなもんじゃないっすか!」


これで大丈夫だろうと思っていたけど、後輩君がさっきから煩い。


「えー……、早くいってよ、でもやってしまったのは仕方ないし、嘘情報でも書き込めばごまかせるでしょ」


仕方ないのでパパっと端末を操作して、スレに書き込みを行うことにした。

初めて書き込んでみてるが、脳波で操作なのか頭に浮かんだ内容が文字となって出てくる。


えーっと、”それはないだろ、昨日東の方で見たから間違いだろ”っと。


「ちょちょっちょ、ここ匿名板じゃないんすよ! あーもうこれはダメっす……、どうしようもないっす……」


スレを見てみると、名前の欄がいつもの“名無しのダンジョンマスターさん“ではなく、“DMランキング4位様“と書いてあった。

あ、意外とランキング上がってたんだ。そりゃそうか、よそ様のダンジョン潰して、そのポイント奪ってたってことだからなぁ。


火消しようと思ったが、結果的に燃料を投下してしまったことで、スレの勢いはさらに増し、


「嘘乙」「この状況で嘘流すとか、お前が裏切りか?」「あれ、ちょっと待って、今のランキング4位って……」「マジかよ、そこって【愛の巣】じゃないか」「え、ってことは、まさか相手って勇者!?」「勇者に加担するとか最低だな」「うおおぉおおお、許せん許せん(略)許せん」「うわ、変態が発狂した」


と、いったような流れで次々とヘイトが集まってしまった。


「……やっちまったぜ!」

「なんでそんなやり遂げた顔なんすか!」




それから、手遅れなのは仕方ないと諦めて、スレの流れを見ながら今後について話し合った。


スレの方では盛りに盛り上がって、俺のことを危険視する声からか、有志を募ってダンジョンを潰そうと画策している。その為、今では鍵付きの専用版が建てられて、俺はその内容は見ることはできない。

しかし、それについては特に問題はない。向こうからしたら別のダンジョンマスターが関与しているなんて思うはずもないので、後輩君を通せば情報は筒抜けだった。


問題があるとすれば、例の変態紳士だ。何気にDMランキングが2位なのも驚いたが、アレだけはどう出てくるのかハッキリしなかった。

他のダンジョンマスター達は、ダンジョンがある場所にモンスターを送り込んで物量で攻めてくるような話をしているのに、変態紳士だけは「直接殺してやる」と物騒なことを残している。まさか、直接乗り込んでくるわけないよね?


悩んでいても仕方ないので、できる限り対策できることはしていこうと思う。そもそもこの村に住んでる人たちが強すぎるし、立地環境的に攻めてこられても大丈夫だろう。


後はアンリについてだが、アンリにはしばらくここには来ないようにお願いした。

騒ぎの元凶でもあるし、何よりこれがダンジョンマスターの間だけではなく、アンリが所属しているという教会に知られると、さらに面倒ごとになりそうだからだ。


アンリはそれに対して不満そうに言葉を漏らしていたが、一応わかってもらえた。

代わりにダンジョンに一瞬で戻れるアイテムを要求されたけど、むしろバレにくくなることを考えると、こちらにも都合いいので、それを渡して帰ってもらった。


ちょっとした手違いで大変なことになってしまったが、まぁ何とかなるだろう。


そう高を括っていた。……それがまさかの結末を迎えるなんて、この時は誰も思いもよらなかった。

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