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勇者、栄光への軌跡

「はぁ……」


勇者でもたまにはため息もつきたくなる。

報告の為、教会に戻ってみれば開幕早々に怒られるわ、泣かれるわで大変だった。


確かに成果もあげれてないのも、半年間連絡とってなかったのも悪かった。でも、そんなに怒らなくてもいいじゃないか。

剣を折ったこともさんざん説教するし、由緒あるとか言われたけど、違いなんて全然わかりやしない。ボクにとっては剣は剣、斬れれば何でもいいよ。


ようやく解放されたころには、すっかり気が滅入ってしまった。こういう時こそ身体を動かしたいけど、街中じゃそういうわけにもいかない。

ああ、狩りは楽しかったなぁ……。はやくもあの村が恋しくなってきた。


「あー、ダメダメ。こういう時こそ明るくしないと! ……よし、久しぶりの街だし何か美味しいものでも食べよう!」


久々の街を歩き回るけど、やっぱりあの村とは全然違う。ここには出店もあるし、人の往来が賑やかで活気があふれている。

ただ、あそこでの食事に比べると、物足りない気はする……。やけに美味しい物ばかり出てきたからなぁ。


「街に来たと言ったら、やっぱ酒場だよね」


勢いよくドアを開けて、酒場へと入る。

ここで得られる情報には小さな噂話から大きな問題まで、中にはそこからダンジョンにつながる情報もあって、ボクにとっては大事な情報源と言える。


「おやっさん、ミルク1つ!」

「嬢ちゃん、ここはガキが来るところじゃ……」

「なに? またそれやるの?」

「おっと、アンリの嬢ちゃんだったか。しばらく見ねぇと思ってたが無事だったんだな」

「ボクを誰だと思ってるの? 教会が誇る勇者だよ、そんな簡単にやられるわけないじゃないか」


胸を張って答えると、ガハハハと盛大に笑われた。そして詫びるように「そうだったな」とミルクを出してくれた。


このオッサンは初めて来たときにはガキ扱いされ揶揄われたが、ひと悶着あった後何かとよくしてくれるようになった人。酒場のマスターだけあって、色んな情報を知っているので何度もお世話になっている。


「おやっさん、ここ最近変わったことある?」

「あぁ、そうだな……お前さんが死んだっていう情報が流れてたが、これはデマだったな。後は平和なもんだなぁ、ダンジョンについて聞きたいならギルドに行くといい、何やらダンジョンからモンスターを捕まえる依頼を出してるくらいだしな」

「えぇー……、モンスター捕まえるって馬鹿じゃないの? まぁいいや、後でギルドに寄ってみるよ」

「しらくはここにいるのか? なら、気になる情報でも手に入ったらまた教えてやるよ」

「うん、ありがとう」


お礼を告げれば、おやっさんは忙しそうに酒場の仕事に戻っていった。

まだ昼下がりだというのに、この酒場の中は賑やかもので、人がたくさんいる。ミルクを飲みながら、この雰囲気を楽しんでいたら、ふと気になる気配を感じた。


「ねぇ、そこのキミ」

「え……、お、俺ですか?」


ああ、やっぱりそうだ。

今まであの村にいたから、あまりにも当たり前過ぎて見逃すところだった。


「……お前、ダンジョンマスターだよね。なんで邪悪なモノが平然とこんなところにいるの」

「!?」


自分の正体を当てられたことに驚いたのか、男はわかりやすいぐらい慌てている。


「な、な、何を言ってるんだ! そんなわけないだろ! いったいどこにそんな証拠があるんだ!?」

「ボクは勇者だからね。言い逃れはできないよ、勇者の本能がお前は邪悪なモノだと言っている」

「ハァ? ウソだろ、勇者って死んだんじゃなかったのかよ!?」

「お生憎様、ボクはそう簡単に死ぬような体をしてないからね……。さぁ表に出ろ!」

「ヒッ……!」


情けない声を上げた邪悪なるモノは、慌てて人や物をかき分け、外へと逃げ出した。


突然の荒事に賑やかだった場が一気に静かになる。

おやっさんには申し訳ないけど、今は邪悪なるモノを倒すのが優先、ボクはこの場を後にして邪悪なるモノを追いかけた。


外に出ると、意外にも邪悪なるモノはその場にいた。


「ひひ、遅かったな。俺はまだまだやりたいことがあるんだ、こんなところで終われるかよ! ……それじゃあな勇者さんよぉ!」


丁度懐から何かを取り出そうとしているところだったようで、そういうと、懐から取り出した何かを頭上に掲げる。

すると、それが光り出し、光が収まった頃には先ほどまでここにいた邪悪なるモノがその場から消え去っていた。


「なっ、消えた!? …………いや、まだ感覚がある。うん、そこまで遠くないし、これなら追える」


自分の中の感覚を信じ、ボクは邪悪なるモノが逃げ去ったところを目指して駆け出した。




邪悪なモノの気配を頼りに、ダンジョンがある場所を目指して走ること数十分。

見つかりにくいところではあったが、ダンジョンは街の近くにあった。


「見つけたぞ! さぁ、観念して出てこい!」


わかっていたが、出てくる感じはない。

いつもならここで前口上を長々と垂れていたが今は時間が惜しい、悠長にして居たら逃げられてしまう可能性がある。


あの村でダンジョンマスター本人から聞いた話では、侵入されている途中でも、ダンジョンを切り離すことで、逃げ出すことができるというものだった。


そして、それはすぐにできるものでもなく、早くても三十分時間を要する。だから、あまり時間をかけていられない。

一気に突っ走っていきたいところだけど、このまま無策で突っ込んでも罠に引っかかって時間を稼がれてしまう。


「……早速だけど、クゥから貰ったこれを試させてもらうよ」


クゥから貰った、と言い聞かせるが、実際は今倒そうとしている同じ邪悪なモノが生み出したもの。邪悪なモノを倒すために邪悪なモノの力を借りるのは少し抵抗ある……けど、勇者の使命を果たすためにも、この際目を瞑ろう。


「えーっと、これが“トラップ見つける”君で、こっちが“ミチヲタドール”だっけ」


クゥからのお古のアイテムバッグから取り出したのは、頭から被るようなメガネのようなものと、手のひらサイズの木のような草でできた人形。

少し不格好になるが、それらを身に着ける。


「どれどれ……って、凄い、全部丸見えだ!」


罠があると思われる場所が、この魔道具越しに赤く見える。これなら罠を気にせず、楽々進むことができる。


……いや、浮かれるにはまだ早い。これが本当かどうかもまだわからない。


「“とりもち”トラップ……? よくわからないけど、これで確認しよう」


もし本当に罠が見抜けるなら、この“とりもち”トラップと言うのが起動するはず。

一応“とりもち”っていうのが射出する罠らしいので、どこから来ても大丈夫なよう、構えてから起動方法である床のスイッチを踏む。


カチっと音をがなると、ドバババと壁や天井のいたる所から、白い物質が飛んできた。


これが“とりもち”……! あのくっ付いてくるだけのよくわからないものは“とりもち”って名前だったのか……。


前にも一度、どころか何度も引っかかったことのあるトラップを回避する。これには叩き落そうとして嫌な思いをしたからね。


「うわぁ……わかってたとはいえ、やっぱ、これは気持ち悪いなぁ」


でも、これでこの魔道具が本物だとわかった。

意気揚々と奥に進み、今度は“とろろ”トラップっというものがあったので、これも試しに起動してみる。


どうやら落とし穴タイプのようなので、起動したらすぐに飛び退く。

大穴が開いたそこには、白濁とした粘り気がありそうな何かが詰まっていて……、この匂い……、ああ、これが“とろろ”っていうヤツだったんだ……。


思い出しただけでも鳥肌が立ってきた。

ねばねばするし、かゆくなるし、あの時はホント意味が分からなかった。仕留めるためじゃなく、足止めって目的を考えるとこれ以上にない手段かもしれない。


…………はぁ、気を取り直して、さっさと先に進もう。


その後も罠が大量にあったが、その全てを避け、いくつもの分かれ道もあったけど、この人形の指し示す方向に進むだけで、どんどん邪悪なるモノに近づいて行っていることが感じられた。


罠が通用しないことに気付いたのか、モンスターも沸くようになっていたが今のボクには通用しない。あの村でいかに早く狩り取るか、素早く仕留めれるようやってきたからね。


気付けばあっという間にダンジョンの奥へと辿り着き、最後の部屋で待ち構えていたのは、とても巨大なゴーレムだった。

ゴーレムにしては、ゴツいというよりシュッとしているし、配色も白と青と赤で明るい感じで一瞬彫像かと思った。


「へぇ、中々強そうだね。うん、やっぱりこれぐらい強そうじゃないとね」


流石にここまでくれば、もう逃げられないはず。

それなら、じっくりとこいつを倒して終わりにしよう。


「ボクは勇者アンリ! 女神マキナ様の名のもと、正々堂々を以てお前たちを倒す!」


邪魔くさかった魔道具をアイテムバッグにしまってから、前口上を述べ、剣を突き付ける。

それに反応したのか、ゴーレムの眼が赤く光り動き出す。


見た目の割には軽快に動きを見せるゴーレムは、光る剣と盾を携えて斬りかかってきた。

この重量差では、流石に正面からぶつかるわけにはいかない。


右に回り込むように、躱してからその胴へと斬り返す。

しかし、ガキンと言う音が鳴るだけで、薄っすらと傷をつけることしかできなった。


「思った以上に頑丈だね……、まぁあの村でも頑丈なヤツはいたし、このぐらい何てことないけどね」


剣を正面に構え直して、ゴーレムを見据える。


今までのボクだったらただ力任せに剣を振るうだけだった、あの硬い装甲も全力を出せば、無理矢理突破することもできると思う。

けど、そんなことをすればまた剣を折ってしまうかもしれない。だから、ここはあの村で得た経験を活かしていこう。


「まずは、相手の動きをよく見ること……」


ボクの五倍以上はある巨体でありながら、素早く動くさまは、一般的なゴーレムと大きく違う。だけど剣の振り方はめちゃくちゃ形がなっていない、それに盾を持ってるからか重心が左に偏っている。

胴体部分のゴーレムと同じように堅かった、けど、速く動けるってことはその分関節は脆いはず。


ならばまず狙うとするとするなら、邪魔になりそうな盾を持つ左腕。


狙うべきところを定めると、相手の攻撃に合わせて一気に走り出す。

ゴーレムは一応反応しているものの、ボクの速さについて来れず、何も無い空間へと空振りを繰り返して、簡単に隙をさらしてくれる。


距離を詰めると盾を前に出して防ごうとするが、それを乗り越え、伸びきった左肩の関節部へと全力の一撃を叩き込んだ。


ズパンと軽快な音を立てると斜めにズレて、遅れるようにズシン……と重低音を立てて左腕が地面へと落ちた。

思った通り関節部は他のところより脆い、これなら問題なく行ける。


「さぁどんどん行くよ!」


勢いづいたボクは今までの苦汁を発散するように攻め続け、気付けば最後の守りであるゴーレムを倒していた。

途中首を落とした後も動いていたのはびっくりしたけど、その時にはまだ発散しきれてなかったから丁度よかった、それに最後はバチバチと音を立てて爆発したのが、気前がよくて凄いスッキリした。


スッキリしたところで、ようやく奥へ進み邪悪なるモノがいる部屋へとたどり着いた。

これまで散々ひどい目にあってきたけど、今日でそれが報われる。そう思いながら、部屋の中央で震えている邪悪なるモノへと剣を向けた。


「さぁ、最後に言い残すことはある?」

「ふ、ふざけるな! 俺が何をしたって言うんだ! 俺は誰にも迷惑もかけてきてない、ただの善良な人間だぞ! そんな無抵抗な人間を殺すのが勇者のすることなの……カハッ!?」

「悪いけど、お前達は人間なんかじゃないよ」


せめてもの情けで一太刀のもと終わらせる。

斬られたそれは人の形を失い、ドロドロに溶けて消え去った。


やはりこれは人ではない。後に残るのは、静寂と真っ二つに割れた邪悪なるモノの残滓(ダンジョンコア)


さて、これはどうしよう。

前に持ち帰って売ったら、市場を混乱させるなって怒られたし、かといって教会に納めたら納めたで、神聖な教会にそんなものを持ち込むなとか言われたからなぁ。


……あ、そうだ。これあの村への土産にしよう。

うんうん、それならだれも文句言わないよね、ボクって冴えてる!

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