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ファグ村、年初めの儀

前夜祭が終われば、次の日には年初めの儀が始まる。


前夜祭が狩人の祭りとするなら年初めの儀はみんなが楽しむ祭り、冬の間貯めた食べ物や交易で手に入れた酒を一気に開放する日。


ただし、それは去年までの話で今年からはダンジョンマスターの能力がある。それにより多彩な料理に酒類、贅の限りを尽くせる。

今となってはこの日ぐらいしか俺の活躍する場がないと思う。


同じダンジョンマスターである後輩君も同じことができると思うが、わざわざそんな面倒なことはしない。

なぜなら年初めの儀が行われる場所は村中央の広場で後輩君のダンジョンは村の外と言っていい場所にあるからだ。


この村では立場が高い人――つまり、強い人から順に中心部にある家に住むことが許されている。

もちろん村長であるクゥリルと住んでいる家が最も中心にあり、そこにある俺のダンジョンが一番近いことになる。

ゆえに俺のところを使うのが必然というわけだ。まぁ、狩りの終わりに寄る分なら後輩君のところが便利なんだけどね。


クゥリルが壇上に上がり、村人たちが集まっている中を見渡して、


「みんな、今年も春が来たよ! 去年は旦那様が来て最高の年だった、そして今年も旦那様がいるから最高の年になる!」


年初めの儀の宣言をする。

何故わざわざ俺を引き合いに出すのだろう、一緒に壇上に上がっているので視線が集まってきて恥ずかしい。


「みんなも十分わかってると思うけど、どんどん暮らしやすくなって、面倒なことも減った。何より村の中で狩りもできるようになった。それもこれも全部、旦那様がこの村に来てくれたおかげだからね!」

「「「ワアアアァァアァァアア!!」」」


一気に湧き上がる歓声。それから「アリガトー!」とか「英雄の旦那さんバンザーイ!!」など様々な言葉が飛んでくる。

しかし、ほとんどが俺じゃなくて後輩君の成果という事実。いや、でも後輩君をここに連れてきたのは俺だし、俺の手柄でいいのか?


「今日は特別に旦那様の料理振舞ってあげるから感謝して食べてね」


広場に並べられた料理は今まで以上に厳選した、質も量も申し分ない料理の数々だ。去年行った宴会では偏りと出しすぎがあったが、今年はそれを踏まえて用意した。


早速始まったこの年初めの儀という名の宴会。各々が料理を取り、ジュースや酒を飲みながら去年の出来事を振り返っている。


その中でまだこの空気に馴染めないのか、アンリは戸惑ったかのようにキョロキョロと周りを窺っていた。

そんな様子に一人の若い男が声を掛けだした。


「アンリさん、この村どうですか?」

「え、ああ、うん。とってもいいところだね」

「それはよかったです。……ところでアンリさんには想い人とかいたりしますか? 僕の番いになったりしませんか?」

「ふぇ?」

「あ、抜け駆けはズルいぞお前! アンリの嬢ちゃん、そんなやつよりオレのほうを選んでくれ、こいつより強いぞ!」

「待て待て、アンリちゃんが困ってるじゃないか、ここは年上である俺に任せるべきだ」


一人どころかぞろぞろと、番いがいない男が集まり出してくる。

あれだけ言い寄られれば混乱するだろうなと思っていたら、案の定アンリはこの状況が理解できず、今度はアワアワとしていた。


「どうなってるんだ、アレ……」

「アンリは前夜祭で勝ち上がったからね、こうなるのは仕方ない」

「強い人ほどモテるってわけか……。あれ? でも初め来たときはそうでもなかったのになんで急に?」

「あの時は勇者の力ありきだったよね、でも昨日はアンリ自身の強さが知れ渡った、だからアプローチし始めたと思う」


そういえば勇者の力無しの時だとクゥリルに一瞬で敗北してたな、それで弱いと勘違いされていたのか。


「じゃあ、後輩君は? 良い勝負してたけど、言い寄ってくるような人いないね」

「コーハイは自分の力じゃないからね、コーハイに言い寄る奇特なのなんてフィリアぐらいじゃない?」


何やら少しトゲがある言い方な気がする。親しい感じなのに、どこか警戒してるような、二人の関係に何かあるのだろう。


「む、そろそろ止めないと……。旦那様、わたしアンリ助けに行くね」

「ああ、行ってらっしゃい。こっちのことは気にせず、そのままアンリと食べ回ってきていいよ」


クゥリルはと一度ハグして「わかった」と返してからアンリの方へと駆け寄った。すると、集まっていた男たちが蜘蛛の子散らすように離れていく。

そして顔を赤く涙目になっていたアンリを慰めるように頭をポンポン撫で。落ち着いたところで手を引いて料理のある方へと向かっていった。


さて、こちらはこちらで楽しむとしよう。


「よう、後輩君、フィリアさん」


挨拶すればフィリアさんが一礼で迎えてくれる。それに遅れて後輩君が食器片手にこちらに気付いた。


「あ、先輩。どうもっす! これ美味しいっすね、今度オススメ教えて下さいっす」

「あら、英雄の旦那さん。村長は良いんですか?」

「アンリがいるから大丈夫大丈夫。そういやフィリアさんってクゥと親しい気がするけど、何かあったりした?」

「うふふ、この村ではみんな親しい間柄ですよ。まぁ強いて言えば村長がこーんな小さい時はいっつも私の後ろにくっついて回っていたってことぐらいかしら」


手で表現してくれているが、その大きさはもはや小動物の域となっている。

子供の時からのお姉さんって立場から見ればそんなものなのかもしれないが、誇張しすぎじゃないかな。


「……あの頃のクゥリルちゃんは本当可愛かったわぁ、いっぱいやんちゃしてたわねぇ」

「その話、詳しく聞かせてください」

「先輩、食い気味っすね。あ、僕も知りたいっす!」

「あらあら、それじゃあクゥリルちゃんの秘密いっぱい教えてあげちゃうわぁ」




とても有意義な時間だった。

クゥリルが幼い頃の秘蔵話の一つや二つ、三つ四つ……とりあえずたくさん聞く事ができた。


「なっ、な、なんっ、旦那様!! 一体その話どこまで聞いたの!?」


途中、クゥリルとアンリがやってきて中断となってしまったが、こんなに焦ったクゥリルの顔を見れたのも一つの収穫だ。


「フィリア! 他に変なこと言ってないよね!?」

「うふふふ、少し昔話をしてただけよぉ」

「うー……旦那様ぁ、フィリアから聞いたことは全部忘れて……」

「……ごめん、クゥ。無理だ」


そこまでショックを受けるほどではないと思う。人間誰しも恥ずかしい過去と言うのはあるものだ、ちょっとばかしやんちゃな子供時代があったほうが俺的に良い。


「ほらほら、村長。そろそろお役目ですよね」

「むぅ、だけど……」


村長としての役目、今年は新成人となるものがいないので祝辞をする必要はないが、村長自らが一人一人未成年の元に行って相手をしてあげるのが慣例らしい。

主に子供たちが村長に全力をぶつける、村長はそれを全身で受け止める、最後には成長したことを褒めて、撫でてあげるといったことをする。


「じゃあ俺も一緒について行く? それなら、気にしないよね」

「そ、それもダメ! 旦那様が撫でていいのはわたしだけ! わたしが見てるところじゃ絶対にダメ!」


どうやら俺がついて行くと撫でることは決まっているらしい。これは時々隠れて子供たちの相手をして、撫でてあげてるのがバレているな。


「……アンリ! アンリが見張ってて」


悩んだ結果、クゥリルが出した答えはアンリだった。


「え、ボクが?」

「うん、フィリアが変なことはなさないか見張ってて」

「えと、わかった。ボクに任せて」


それから何度も何度も「お願いね」と念を押してから子供たちの元へと向かっていった。

その後ろ姿は尻尾まで項垂れており、漂ってくる悲壮感からこれ以上昔話をするのはやめておいたほうがいいと判断するしかない。


「あ、そうだ。そういえばアンリのあの大爆発もとい自爆って魔法でいいの?」

「そうだよ、ボクが使えるのってアレと火球しかないんだよね。まぁそれすらも制御できないけど……」


勇者という割にはレパートリーが思ったより無かった。それより制御できてないって、魔法が苦手なのはわかったが勇者としてそれはいいのだろうか。


「でも自爆とかズルいっす、なんで無事なんすか!?」

「ちょっと、アレが無事に見えたの? すごく痛いんだからね」

「そんなの知らないっすよ。けど、もうわかったすから次は勇者さんに勝って見せるっす」

「へぇ、面白いね。いいよ、何度でも相手してあげる」


自爆って痛いで済むのか。

しかし、好戦的な感じではあるが、前と違って二人の間には険悪な雰囲気が無い。


クゥリルの狙い通り、勇者も後輩君も敵対的な意識が薄くなったのだろう。本能的なものはまだ残ってるものの、ふざけ合うほどでしかないので問題もない。


これは戻ってきたクゥルリに何かご褒美を考えてあげなければ…………最近は勇者がいて全力で撫でてあげる機会がなかったからな、さっきの詫びも含めて全力で撫でてあげよう。うん、それがいい。


……あぁ、シッポが恋しい。

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