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ファグ村、不穏な気配……

前夜祭、それは年初めの儀を行う前、冬の間に貯まった鬱憤を晴らすための祭り。

冬は狩りもできず毎日雪かきに追われる日々を過ごす為、年が変わる前に気分を一新させる目的で行われた催し事だ。


村中の狩人たちが集まり、誰が強いのかを戦って決めるという単純なもので、その日の結果によっては村での立場も変わることもあるらしい。


まぁ、今年からは村の中で狩りもできれば雪かきをする必要もなかったので、前夜祭の必要ないんじゃないかなぁと思ってしまったのは胸の内にとどめておこう。


「まさかそれに出るの?」

「そのまさかっす! あ、もちろん出るのは僕じゃなくて僕の作ったモンスターっす」


まさかのモンスター(代理参加)

それいいのかと疑問に思ったが、意気揚々と準備してるようだし、問題ないことは確認済みなのだろう、どんどんこの村に馴染んで行ってるな。


「で、どんなもの作ってるんだ?」

「見ていくっすか? ちょうど今もその試作型を試してるところっす」


クゥリルには悪いが、そっちの方は後で見に行けばいいだろう。


「そうだな、せっかくだし見せてもらおうか」

「じゃあこっちに来るっす、専用の部屋を作ったっすからそこで見るっす」


また新しい部屋を作ったのか、どんどん後輩君のダンジョンは広くなっている。

そのほとんどは主に村人たちの為に用意した疑似狩場や闘技場で、広場や休める場所も多く用意されているし、これはもう小さなアミューズメントパークぐらいになってる気がする。


そういうわけで後輩の後をついて行くと、たどり着いたのはそれなりの広さの部屋。

壁にはモニターのようなものが並んでおり、ダンジョン内を映しており、警備室のような感じとなっていた。


「今戻ったっす」

「あ、遅いよコー君」


灰色の髪を一つに束ねたおさげの女性がいた。

見た限りクゥリルよりも年上の20代半ばあたりで、お姉さん的な雰囲気をしている。


ちなみにクンロウ族の人たちは皆、紫色の瞳を持っている。髪の色もそのほとんどが灰色で、濃い灰色もいれば淡い灰色もいる感じで、濃淡の差は結構ある。

彼女はどちらかと言うと濃い感じの灰といった所だ。なお白色の毛髪は大分珍しく、クゥリル以外には数人しかいない。


「えーっと、この人は?」

「よくぞ聞いてくれたっす、こちらは僕の協力者のフィリアさんっす! 一緒に最強モンスター作りの研究をしてるんすよ」

「あ、英雄の旦那さん、いらしてたんですね。私はフィリアです、村長の手前話す機会はありませんでしたが、どうぞお見知りおきください」


あ……うん、まぁクゥリルが意図的に番いを持ってない女性を近づけさせてなかったのは薄々気付いていたが、やっぱりそうだったか。


「なんかクゥがゴメンね」

「いえいえ、お気になさらず。あの村長がこんな風になるなんて……私も他のみんなも楽しませてもらっています」

「さぁ挨拶も終わったんなら早速こっちを見てみるっす。丁度いい感じに始まりそうっすよ」


後輩君が一つのモニターを指差している。そのモニターには俯瞰視点であるモンスターを映し出していた。


「これは……オオカミ? オオカミ型のモンスターってこと? ドラゴンじゃないんだ」

「その通りっす、もうドラゴンなんて古いっすよ。今どきはどんな状況でも戦える万能型じゃないといけないっすからね。そのニーズに合わせたのがこのコっす!」


確かに言ってることはわかるが、ドラゴンと見比べるとやはり迫力が足りない。

大きさも目測2メートルぐらいか、尻尾を含めても3メートルあるかないかで、どう見ても一介の中ボスぐらいにしかならない気がする。


「あ、今弱そうって思ったすね、じゃあこのコの勇姿を見るが良いっす」


少しすると、モニターの隅、草陰のところから一人のクンロウ族が姿を現した。

既にオオカミ型モンスターもそれに気づいているようで、身を屈めて様子をうかがっている。


気付かれていることを悟ったクンロウ族は手に持った槍を突き刺すように構え、草陰から飛び出す。

一気に距離を詰めて突き刺そうとするクンロウ族。しかし、オオカミ型モンスターは身を翻して回避して見せると近くにある木を蹴って反撃に出る。


突いた槍をそのまま薙いで迎撃しようとするも、寸でのところでバックステップされて空振りに終わった。

今度こそ飛び掛かった、と思いきやクンロウ族の背後にある木まで一飛びして、立体的な機動で何度もフェイントを繰り返している。


その不規則な動きに翻弄されたクンロウ族は何度も空振りを繰り返し、最後には隙を突かれてしまい、致命判定の一撃を貰って疑似狩場の外へと吹き飛ばされてしまった。


「どうっすかスゴイっすよね。最近の試作型の中では中々の撃破率を誇ってるんすよ」

「確かにすごいっちゃ凄いけど、なんか動きがメタってない? 相手の動きが分かってるかのように感じたよ」

「よく気付いたっす、実はこのコ、学習型のモンスターなんすよ。このダンジョン起きた戦闘がこのコを強くする仕組みっす」

「……つまり、相手からしたら初見でも、こっちは相手の動きに合わせて弱点を付けるモンスターにしたと?」

「そうっすね」

「ん~……それって何かズルくない?」

「勝てばなんぼのものっす、フィリアさんもそれで大丈夫って太鼓判押してくれたっす!」


クゥリルの戦い方を思い返してみるが、普通に不意打ちとかするし勝つためには割となんでもしていた気がする。


「まぁいいんじゃない? 試作って言ったけど、これから何をどうすんだ?」

「それじゃあここからは……フィリアさん、お願いっす」

「はぁい、それでは英雄の旦那さんもいますので、今日は詳しく見ていきましょ」


待ってましたと、言わんばかりにフィリアさんが一歩前に出てきた。

一体何をするのかと思っていたら、後輩君がモニターの一つを先ほどの戦闘を再生し始めて、それを見ながら解説してくれるようだ。


「はい、そこでストップ。見てわかるように、ここに無駄があるわよね? その為次の一撃を回避しきれてないわ、要修正点ね。さらにここ…………それに…………」


……

…………

………………


話について行けない。


再生した映像を何度も止めたり戻したりして、先ほどの戦いを見せられているのだが、モンスター視線だとどうとか狩人目線だったらこうとかで、更に効率が~反応が~と色々と言っているが全然頭に入ってこない。

隣で後輩君はウンウンと頷いて、メモを取ったり質問したりしているが、俺からすれば何がどう違うんだと思うばかりだ。


解説が始まってからずいぶん経ってる気もするが一向に終わる気配がない。

早く終わらないかなぁと思い始めていた時、今を映しているモニターの方、オオカミ型モンスターが待機してたところに新たな挑戦者がやってきたようだった。


「あ、話の途中悪いけど、あっちのほう、また何か来たみたいだよ」

「そうみたいですね、それでは続きはこれを見てからにしましょう」


あぁ、どうやら最後まで逃さないつもりだ……。ここの人たちって一度狙った獲物は絶対見逃さないって執念が見えるよ。


「うぇっ!? ふぃ、フィリアさんこれって!」

「あら、まぁ……」


一体どうしたのだろうとモニターを注視しみると、そこにいたのはクゥリルだった。

どうやらアンリとの一戦が終わったのか、狩りの方に移って来たみたいだ。


「なんだ、クゥじゃないか。いったい何そんなに驚いてるの?」

「いやいやいや、だってクゥリルさんっすよ! 勝てっこないっすよぉ……」

「あらあら、コー君ったら……。ほら、落ち込んでないでどこまでできるか見てみましょう。ね?」

「はいっす……」


まるで年上の姉が下の子をあやすように撫でている。

この様子は…………いや、今はクゥリルの方を集中しよう。どことなく青春っぽい(不穏な)気配を感じたが気のせいだ。そう、絶対に気のせいだ。


察知能力に長けているモンスターはクゥリルが近づく前に気付き構えているが、クゥリルは何てことないように自然体で姿を現した。


様子を窺っている、と思いきや瞬きした次の瞬間にはもう間合いを詰めていた。

それになんとか反応するモンスターも少し焦りを見せるかのように距離を取ろうと急いで三角飛びで木から木へと飛び移っていく。


まるで面白い獲物を見つけたと、それを楽しむかのように追いかけるクゥリル。

モニターに映している映像もそれを追いかけて、


――え?


途中クゥリルと眼があった気がした。


モニター越しだというのにしっかりと眼が合い……いや、流石にそっちからじゃ見えないし、これはただの偶然だ。


だと言うのに、まるで誰かに見せるかのように動きにパフォーマスが加わっていて、フェイントを織り交ぜて攻めようとするモンスターの動きをあっさりと見抜いて、華麗に倒してしまった。


「あああぁぁ……やっぱり勝てなかったっす……」

「やっぱり村長は凄いわぁ、あの無駄なように見えて一切無駄のない身のこなし……、どうすればあそこまで強くなれるのかしら」


余程悔しいのか地面に手を付け、落胆する後輩君。対してフィリアさんはその強さの方が気になっているようで、クゥリルを見る眼差しがより一層と強いものとなっていた。


その様子に、他の村人たちとはどこかズレているような、小さな引っ掛かりを感じる。


「フィリアさん、一つ聞いていい?」

「あら、何かしら?」

「どうして後輩君のお手伝いを? まさかとは思うけど、妙なことを企んでないよね」


そう訊ねると、フィリアさんはこちらを振り向き、微笑み返した。

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