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ファグ村、クンロウ族を知る

今目の前にいる赤髪赤眼の少女――勇者は不満をぶつけるように地団駄を踏んでいる。

犬歯をむき出しにこちらを睨みつけ、地面を踏むたびにそのポニーテールにした長い髪が揺れて今の心境を表してるように荒ぶっていた。


間にクゥリルがいるおかげで冷静に保ててはいるがこの子も威圧がスゴイ。あと振動も。


「さぁ観念して大人しくその首を差し出せ!」

「勇者様、ダメです! 絶対に手を出してはいけません!!」


商人が必死に勇者を抑えようとするも止まる気配はなく、


「……旦那様もういい? コイツやってもいいよね?」

「いやいやいや、ダメだからね。勇者がどんな役目か知らないけど、手を出しちゃダメってことはわかるよ」


こっちもこっちでやる気満々だった。


「さっきから何なのキミは!? ボクは勇者なんだぞ!!」

「そっちこそ何? わたしは旦那様を守る……勇者とか知らないし関係ない」

「ぐぬぬ……」

「ウー……」


構え直してからずっと目線を外そうとしていない。おそらく二人とも実力が高いことを認め合っているのだろうか、どちらも進んで動こうとせずに相手の動きをみて、わずかに姿勢をずらし合うだけとなっている。


商人と目が合うと苦笑いで「苦労しますね、お互い」と無言で言ってる気がしたので、こちらは愛想笑いで返しておいた。


しばらく硬直状態が続いていたが、


「おいテメェら! いつまで見つめ合ってるんだオイ!! 気に入らねぇならぶちのめせばいいじゃねぇか。それがこの村での掟だろうが」


お義父さんの一声で破られた。


いや煽らないで欲しい。こちとら周りに迷惑かけない為に止めようとしてるんだよ……って、あれ? 他の人たちも頷いてるけどそんな感じでいいの?

…………うん、戦闘民族だったね。


「旦那様には悪いけど、やるしかない」

「よくわからないけど、ボクはどんな挑戦でも受けて立つ!」

「何言ってるの? 挑戦するのはソッチ。わたしが村長だから迎え撃つ」

「あーもー! そんなのどっちでもいいよ! ボクが勝ったらコイツを差し出せ!」

「それは無理、わたしが勝つ」


もう今にでも始まりそうな雰囲気だ。

この場でついて行けてないのは俺と商人側の人たちで、周りは「いいぞー、やれやれぇ!」「クゥリルちゃん応援してるわ~」「そっちのちっこいの期待してるぞ!」「これがしゅらばってやちゅね!」などと村人たちが各々に煽り始めている。


……待って、今修羅場って言ったの誰? え、あの子!? 全然違うよ、ってかこんな子供に修羅場を教えたのは一体誰!?

やり合うのはわかったけど、ここで争われたら折角(後輩君が)舗装した道が崩れてしまう。現に勇者が地団駄した所が壊れちゃってるし、せめて場所を変えてもらわないと。


「待って待って! やるのはわかったから、ここじゃなくて周りに被害が出ない場所にして」

「むぅ、じゃああそこなら問題ないよね」

「あーうん、あそこなら大丈夫だね」

「あそこってどこよ! 一体どこでやるつもりなの!?」

「そりゃあもちろん“ダンジョン”だよ」




向かった先は後輩君のダンジョン、その一角の闘技場。まぁ俺のダンジョンでは満足に戦えるスペースも無いし、もとからある後輩君の所のほうが都合いい。


ここに来るまでにダンジョンコアを通じて連絡しておいたのでとりあえず後輩君とは鉢合わせることもない。一人いただけでも激怒してたのに、二人目のダンジョンマスターが出てきたら更に怒りそうだし、念のため奥に隠れてもらっている。


ちなみに今はダンジョンに何があるか信頼ならないと、勇者自らがこの闘技場を隈なく調べているところだ。クゥリルもそれを見張るように、勇者のことを観察している。


「それにしても大変なことになりましたねえ」

「そうですねー。えーっと、たしか商人の……」

「ジルベールと申します。後ろの方は私の護衛の方々なので気にしなくても問題ありません」

「これはこれはご丁寧にどうも。こちらは知っての通りクゥの……村長の番いをやっているダンジョンマスターです。その、名乗る名前がないので好きに呼んでください」


商人のジルベールが礼儀正しくお辞儀をしてくれので、こちらもお辞儀し返す。


「いやはや、まさかクンロウ族の番いとなられる方が居られるとは思いもよりませんでした。それがダンジョンマスターだというのも驚きです」

「割と普通に接してくれるんだ……。ジルベールさん的にはダンジョンマスターってどんな認識なんですか?」

「そうですね、私たちとしましては直接的な関りがほとんどないので特に気にしておりません。……ただ国としては討伐対象としてされておりますので、もし会ったとしても決して近づかず、報告する義務があるぐらいです」

「え、今こうしてるのはいいの?」

「ええ、今はクンロウ族の長の番いとしての貴方と話しているだけですので何ら問題ありません」

「……それってホントにいいの?」

「ハハハ、気にしない気にしない。それに私は仕事柄人を見る目がありましてね、貴方のような人は問題ないと思っています。……随分と変わった雰囲気ですが。後は貴方がクンロウ族の番いだからという打算も入っています。私たち商人はなにより利益を重視してますので、報告と言うもったいないことは致しませんのでご心配なく」


ニコニコと面と向かって言われると少し照れてしまう。


「なんか、その、ありがとうございます?」

「それと私は貴方自身のことも評価しております」

「え?」

「街並みを拝見させてもらいましたが、舗装技術もさることながら街灯も等間隔に設置し、一年たらずでここまで発展させたのは純粋に凄いと思ってます。なによりあのモンスター、あれは除雪と暖房代わりで用意したものですね? いやぁ凄いですね。アレは絶対売れると思います」


それ全部俺の功績じゃないんだよなぁ……、何かいたたまれなくなってきた。


「それに村の方々も肌つやも良くなられているようで……もしや水回りにも手を付けたのではないでしょうか? 隠さなくてもわかります。さぞ、画期的な方法で用意したのでしょう! このあたりは乾きの大地なので大変だったでしょうによくやりましたね! よければその方法を教えていただけないでしょうか?」


え、何? この人意外と押しが強い。確かにお風呂は広めたけど乾きの大地とか言われてもわけがわからん。


「ちょ、落ち着いて、さっきから何が何やら……」

「ああ、失礼。少し興奮してしまいました。なにかご不明な点でも?」

「そもそも俺、クンロウ族ってのもさっき初めて聞いたんだよね。それにここがどんな場所なのかも知らないし……」

「なんと! そうだったのですね、では私が簡単ながら知っていることを説明いたしましょう」

「お、お願いします」


商人がピシっと姿勢を正すと説明が始まった。


「まず初めに、ここは私たちがいる西大陸のさらに最西端、終わりの大地と呼ばれる場所です。凶悪な生物に過酷な自然環境……まず普通の人では住むことすらままならない土地です。ですが、その過酷な環境下でも生きて暮らしているのがクンロウ族です」


ふむ、ここは西だったのか。秘境だろうって想像はしていたがそんな過酷な場所だったは想定外だ。そんな場所で暮らしていけるクンロウ族っていったい……


「ここ最近は安定した気候となっておりますが、少し前までは荒れ狂った冬が続いておりました。冬でなくてもここに生きてる生物は皆強力です。おそらく軍を以てしても返り討ちに合うでしょう……。ですので、それらを獲物として狩り獲るクンロウ族の方々は世界最強と言っても過言ではありません」


あー、世界最強の種族だったのかぁ……。うん、そりゃあ村人みんな強いわけだな。


「私たちウェイスター商会は数奇な偶然によりこの村の存在を知り、数世代前より交易をさせていただいております。クンロウ族の方々は気難しいものばかりで、当初は取引するのも一苦労でした……ですが、彼らのもたらす利益は計り知れません! 彼らにとってはただの毛皮や牙だとしても私たちにとっては、それはそれはとても貴重な商品となるのです!」


うん? なんかまた目に熱がこもってきたな。


「もちろん私たちもタダではいただけないので、代わりに様々な品を提供しております。いずれはこの村を発展させ、クンロウ族とウェイスター商会の間に確固たるつながりを得ようと……ッ! ゴホン、まぁ私の予想を超えて第三者が介入するとは思いませんでしたが」

「……何かスミマセン、横取りしたみたいで」

「いえいえ構いません。言いましたがここは過酷な環境です、まず私たちのような一般人では普通に暮らすことすらままなりません。それに私たちでは交易するだけの信頼しか得られませんでした……村のことになると頑なに変えようとせず、介入されることを嫌っておりましたから……」


あー、何か最初はそうだったかもしれない。クゥリルの説得で今では臨機応変に柔軟になってしまっているが。


「ホントに不思議です。貴方は強いように見えないのに何故受け入れられたのでしょうか? 何事も力を示すのがクンロウ族の仕来りだと思っていたのですが、何か特別な……、ああ、なるほど。だからこそダンジョンマスターの貴方は受け入れられたのですね」


はい、多分そうです。運がよかったってのもあるが、ダンジョンマスターの能力がなければすぐにくたばってたと思います。

あれ、でも今も勇者に狙われてるし、ダンジョンマスターじゃなかったら狙われたりもせず安全に過ごせた?

……まぁ考えても仕方ない。とりあえず今がある幸運に感謝しよう。


「話は終わった!? じゃあ早く始めるよ!」


だいぶ商人と話し込んでいたようで、既に確認が終わった勇者が今か今かと闘技場の真ん中で律儀に俺たちを待っていた。


後は見届け人として、公平なジルベールさんが合図をすればクゥリルと勇者の試合が始まることとなっている。


「そういや乾きの大地ってのは一体何だったの?」

「ああ、それは乾きの大地と言うのはリュッフェルという穀物が蔓延った大地のことですね」

「あの破裂する芋のことか」

「はい。あれは周りの大地から水分の奪い取ってしまう性質を持っておりまして、ここにある強靭な種以外の植物ではまともに生育することができなくなってしまいます。水路を作ろうにも瞬く間に吸い取って増えてしまいますから、水を引いてくることもできないのですよ。国では有害植物に指定されております」

「え、そんなヤバいものだったの? 一度食べたことあるんだけど……」

「食べれなくはないのですが……その、不味いのでまず食用として用いられません。それに日に当てると毒を持つようになりますから下手に食べないほうがよいですよ」

「……」


真っ先に食事事情変えておいて本当によかった。


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