ファグ村、また諦める
「~~♪」
「今日もご機嫌だねー」
「帰ってきたら旦那様がいる。二人きりのこの時間がやっぱ一番!」
狩りを終えて戻ってきたクゥリルとのんびりお菓子を食べながら過ごす。
時刻は昼下がり、今までだったら獲ってきた獲物をポイントと交換しに来るような時間なのだが今は閑古鳥が鳴いている。
それもこれも全部、後輩君が作り出した闘技場が流行ったからだ。
「ねぇクゥ、こうなることわかっててやってた?」
「ん~? なんのことぉ?」
とぼけているが多分そうなんだろう。そうじゃなければあの時、積極的に後輩君の手伝いをするはずがない。何故ノリノリで手伝いをしたのか疑問に思っていたがその答えがこれだ。
「クゥが頑張ってたのは知ってるけど、さすがに村長権限使うのはズルくない?」
「ふふふ、みんなには良いものを知ってもらうためにははじめが肝心。せっかく作ったのに集まってくれなきゃ意味ないから、呼びかけるのは当然の事!」
今回用意された闘技場は1on1の他に狩りを再現できるように森や山岳に似せたものをわざわざダンジョンで用意した。そこでクゥリルは環境の監修をしたり、モンスターの調整や安全性を考えたシステム作りも助言したりしていた。
そして、完成したところに住民たちを集めてモンスターと戦うところを実演して見せて、人がどんどん後輩君のほうに人が流れるように操作していた。
さらに言うと後輩君は細かいところにも気が利くようで、俺が気にかけなかった部分――交換品をメニュー化して説明をつけ足したり、村の中に道を作って舗装し、綺麗にしていた――を進んで行動してた。
俺が苦労して設置した井戸を見て、「え、なんで井戸なんすか?」とか言ってきやがった。その次の日には上下水道の施行案持ってきたよ、ご丁寧に図案も付けて。……ぐぬぬ。
そのおかげで各家庭に水道までできてしまうんだから、思った以上に優秀だった。
「でもなぁ……なんかもう俺より頼られてる気がするし、俺の必要性がなくなってない?」
「むぅ、わたしはこうやってのんびりできるの好きだけど旦那様はイヤ?」
「うっ……、そんなことはない。俺もクゥと一緒にのんびりできるのは好きだぞ!」
「じゃあこのままでいいよね!」
「あー、そう……ってはぐらかされないぞ、そうやって尻尾で釣ってもダメだ!」
「むぅ、残念」
ついついかわいい仕草にはぐらかされそうになるが、そうはいかない。
たしかにここに来てからは前みたいな時間をとることができなくなったけど、俺もクゥリルの為に何かしたい。本心を言えば養われるだけのヒモ男になりたくない!
「くっ、このままではダメだ! クゥ、後輩君のところに向かうぞ」
「えー、わたしはもう少しのんびりしたいかなぁ」
「そんなこと言わないで、俺の立つ瀬が無くなっちゃうよ!」
「大丈夫、旦那様は私の番いっていう立場がある。わたしの狩りだけで充分養ってあげるよ」
「そんなヒモ男はイヤだぁ!」
後輩君のダンジョンに着くと中は賑わっている。
いつの間に作ったのか闘技場内の待合部屋にカウンター席まで用意してあって、そこでは休憩している人たちが並んで座り、ドリンクを飲みながら楽しそう狩りの話で盛り上がっていた。
その様子を眺めていたら、カウンター側にいた後輩君がこちらに気づいて近づいてきた。
「あ、先輩。よく来たっす、おかげさまで大繁盛っす!」
「おうおう今日も人気じゃないか、最近好き放題してるし一体誰の許可でやっとるんだぁ、ええ?」
「えーっと……どうしてそんなオラついているんすか? ちゃんとクゥリルさんから許可貰ってるっすよ、むしろ積極的に行けって言われてたっす」
横目でクゥリルを見ると、視線を逸らした。
「なるほど。やけに積極的に動いてると思ってたがクゥが一枚噛んでいたのか」
「そうっすよ、あと先輩は本当に内政チートする気あったんすか?」
「何を言ってるんだ、ちゃんとやってたじゃないか」
「えー……ダンジョンで出したのをただ渡してただけじゃないっすか。やることが微妙っすよ」
ぐぬ、事実だから言い返せない。人には向き不向きあるんだ、俺にはちょっと不向きだけだったんだ。
「ええい、そんなことより俺にもコレやらせろよ。子供向けのコースもあるんだし、俺でもできるよな」
「なんすかそのあからさまな話題逸らし……。まぁ別にいいっすけど、クゥリルさん大丈夫なんすか?」
「なぜクゥに聞いた、そしてクゥもなぜ悩み込む」
「旦那様じゃ一番弱いのでもむずかしいと思う、……ケガしてほしくないからやめたほうがいいよ」
ぐぬぬ、いつまでも軟弱と思われるのはいただけないな。これでも5年間ずっと鍛え続けてきたんだし少しは行けると思うんだ。
「クゥリルさん、少しぐらいやらせてはどうっすか? 一応危なくなっても大丈夫な作りにしてるっすし、一度やれば分ってもらえるっす」
「……わかった。旦那様、絶対にケガだけはしないでね」
「わかってるって、なんの心配しなくても大丈夫だ」
「それじゃあ準備するっすね。一応一番弱いゴブリンっすけど、負けそうだったらすぐ戦闘区域外に出るようにするっす」
最弱のゴブリンぐらいなら行ける行ける! ダンジョン攻略時はクゥリルの後ろから見てただけだけど俺でもやれるはず……いざ、モンスター戦と行こうじゃないか!
と、思っていたんだけどね、ダメだったよ。
うん? おかしくないかな。なんでゴブリンのくせにあんな軽やかに動き回れるの?
武器振るっても当たらないし、掴まれて奪い取られてしまったよ。
見た目子供ぐらいの体格なのにどこにそんな力あるんだ。始まってすぐに安全装置として備えてあったダンジョン機能――本来謎解きに失敗した時に部屋の外に追い出すため用――で戦闘区域外に吹き飛ばされて戦闘終了とか情けない……。あっけなさ過ぎて多分3分も戦ってないと思う。
「旦那様、大丈夫?」
俺を見る目が昔の時より更に哀れなものを見るような目になってる。
「何故だ……今まで鍛え続けてきたのに全然歯が立たなかった……ッ! 最弱とか言って実は強く設定したのだしてないよな……」
「してないっす。それにダンジョンマスターなんだから鍛えても意味ないっすよ」
「え……? 意味ないの?」
「え、知らなかったんすか? 僕たちはポイント使わないと強くなれないっす。よくある質問スレみれば書いてあるから見ると言いっす。まぁ割に合わないので非推奨らしいっすけど」
「…………ホントだ、書いてる」
ダンジョンマスターについての一文を見ると、本体はコアのほうであって身体は人の形をしている端末と書いてある。そして読み続けると以下のことが書いてあった。
――何年経っても変わらない姿を保つことができるが、ポイントを消費することで老いたり若くなったり姿を変えることもできる。
どれだけ食べても運動をしても肉体的に変化せず、実は食事の必要も存在しない。
体型を変えたり筋量を増やすことも可能でポイントさえあれば際限なく強くなれる。ただしポイント効率が非常に悪く非推奨。
自分の見た目が気に入らない時に体型を整える程度に済ますのが吉。――
「そんな……、まさか俺の5年間が無駄なことだったなんて……」
あまりの事実に、膝をついてしまう。
落ち込んでいるとクゥリルが頭を撫でて来るし、むしろ撫でさせてほしいな。
「あ、あれっすよ。運動し続けると燃費が良くなるらしいっすから、完全な無駄ではないっすよ。だからそんな落ち込まないでくださいっす」
「燃費……、ああ何か書いてあったな」
えーっと、この体を動かすだけでもポイント消費し続けているがポイントの自動回復があるからポイント減り続けることはない。
激しい運動をすると必要なポイントが増え、回復分を上回ると息切れが起きるようになっている。寝ているときは消費を抑えられるのでポイントが回復する。
なるほど、一晩経つとポイントが回復するのはその為だったのか。
毎日運動することで運動時の燃費がわずかに良くなり長時間動いても息切れし難くなる。逆にポイントを使うことでリミッターを解除した人間を超えた運動量も出せるのか。
「……それでもほぼ無意味じゃないか」
「旦那様にはわたしがいる、だから全部わたしに任せてくれればいい」
「なぜだ……、どんどんダメ男になっていく気がする……」
「先輩、結局何しに来たんすか?」
これまで色々頑張ってきたがほぼ無意味だったなんて虚し過ぎる。
俺のやることはどうせ後輩君も全部やれるし、なんなら改良案も出してくれるという始末。
…………うん、もういい。後輩君に全部任せよう。
「後は任せた後輩君……キミはもう一人前だ」
「え、何がっすか!? 意味が分からないっす、何故そんなやり切った顔してるんですか、先輩何もしてないっすよね!?」
どうせ俺はただのヒモ男。ダンジョン作りに引き続き村づくりも諦めよう!
ハハハ、なんかもうこのまま諦めっぱなしのほうが上手くいく気がする。




