ファグ村、便利なダンジョン機能
「なんぞこれ」
同じダンジョンマスターである後輩君から教えてもらったダンジョンコアの使い方の一つの“DMちゃんねる”を見て思わず呟いた。
これはダンジョンマスター同士が匿名で情報交換などを行えるBBSを模した機能の一つで、後輩君はこのDMちゃんねるを使って情報を集めたり、孤独感を紛らわせていたようだ。
さらに“DMランキング“というのもあって、現存するダンジョンのポイント取得数や規模、在年数などの要素を含めた結果をランキング化した機能もある。
なお、わかるのはダンジョン名のみとなっており、そのダンジョン名も自称だったり他称だったりとダンジョン名のギャップが激しい。……【旦那様とわたしの愛の巣】とか一体どこのダンジョンだよ。
「あ、コレ先輩のダンジョンだったんすね、11位とかスゴイじゃないっすか」
「いや、そうじゃない。いろいろ突っ込みたいがホントナニコレ……」
後輩君のダンジョンを攻略してから早3日。
ファグ村のみんなに新しくダンジョンマスターが増えることを伝えてもらったら、今更一人増えても二人増えても変わらないということですんなりと住人になることを受け入れられた。
ただし、村内ではカースト最下位ということもあり、後輩君のダンジョンは外周部に作られることになったが、まぁ本人もそれでいいみたいだし問題なく移住できてよかった。
「もしかして勇者のことっすか? 最近じゃ専用スレも作られてるぐらいっすからね」
「確かにそれも気になるけど……、この教えてくれたアイテムは便利だったけど流石にコレは異世界観ぶち壊しじゃね?」
こうやって今、後輩君のダンジョン内でも自分のダンジョンコアを操作してDMちゃんねるを見られるのも教えてもらったDM専用アイテムのおかげだ。
ポケットDC――手のひらに収まるビー玉のような玉。離れていてもダンジョンコアを操作できる端末で、ダンジョン外でも使用できる。ただし閉鎖的空間や遠すぎる場所だと使えない。
DMコール――ほぼ携帯電話と言っていいダンジョンと相互通話できる端末。通話だけでなく位置情報やカメラ機能まである。
この2つがあれば時間も手間も一気に省けるようになった。
今まで交換するためにサッカーボールほどのダンジョンコアを持って何が欲しいのか直接聞いていたのだが、これからはどこにいても通話越しで相手の目の前に望みの物を出すことができる。もっと早く知りたかった。
そのほかにも色々と便利なことを聞いたけど、ダンジョン内に何者かが入ってきたらダンジョンマスターにだけ聞こえるアラームを鳴らすことができたり、ダンジョンに扉を設置する方法だったりと今の俺には不要な機能だったの割愛する。
「たしかに世界観ぶち壊しっすけど、これなければ僕孤独で死んでしまうところだったんすよ! 先輩は早々にクゥリルさんに会えてよかったすけど、こっちは違うんすからね!」
「あーはいはい、それよりこの村の為に役に立つこと見つけようねー、このまま穀潰しになるんじゃポイント分けてもらえないよー」
今もこうやって俺が出向いて貰った獲物を分けてやっているのだが、受け入れられたとはいえよそ者はよそ者。村長の番いである俺の立場と比べると信頼されてないっていうのもあり、俺と同じポイント交換でやっていくのはダメみたいだ。
本当は分担して上手い具合に負担を軽減したかったんだが便利アイテムのおかげでその必要性もあまりなくなってしまい、別の方向を考える必要が出てきた。
「いったい僕は何をすればいいんすか、誰も来てくれないんすよ……」
「そうはいってもなぁ……。なんでもいいから役になることでもして少しずつ信頼を勝ち取っていかないこと、いつまでたっても話し相手もできないぞ」
「もう先輩の役に立ってるじゃないっすか」
「お、俺はノーカンだから……、むしろここに移住できることになったことに感謝してもらいたいな」
「うう、やっぱり先輩は酷いっす! ずるいっす! やっぱりDMちゃんねるに籠るしかないっす」
役に立つことなんて色々あるだろと思っていたが意外とないのが現実。ダンジョンの力で内政チートし放題だろと思っていたがそもそも自給自足できてるから内政する必要がない。
食料を出すぐらいしかチートらしいチートができず、完成品を一瞬で出せるから物作りする必要もなく、水源を用意したぐらいでは少し便利になったぐらいでしかなかった。
「じゃあそのDMちゃんねるで聞ければいいんじゃない? 何かいい意見とか聞けないの?」
「いやいやいや、そんなことしたら叩かれて終わるのが落ちっすよ! 時々共存しようとするスレ上がるっすけど、どれも失敗したりそのまま潰されたりしててそこらへんの話題って繊細なんすよ……」
「そうなのか。でも、この一位の【繁栄と煌めきの都】というダンジョンとかものすごーく共存してるっぽい感じの名前なんだよね」
ポケットDCでランキング眺めていると――ブルルルルと、着信と共に震えてDMコールからの通話が来たことを知らせてきた。
「はい、もしもし」
『旦那様、今帰ってきたけどどこにいる?』
「後輩君のダンジョンにいるよー」
『ん、わかった。すぐ行く』
用件だけ伝え終わるとすぐにブツっと通話が切れる。後数分もすればクゥリルがここに来るだろう。やはりどこにいても連絡できるのは便利だ。
「お迎えっすか、ホントいい身分っすねぇ……」
「ハハハ、お前も頑張ればいつかはできるんじゃない? ……そうか、クゥ自身に村にあったら言いもの聞けばいいんだ」
「あー確かにそうっすね、現地の人に聞くのが一番っすね。内政チートするにしても、まず現状を知るのが一番っす」
「だよねー、でも、これのおかげで大体のもの出せるけど何すればいいか逆に困るわ。さらにいえばここの人たちが強すぎて現代の乗り物や武器が必要ないってのがまた……」
「僕たち一般人じゃ考えつけるものなんてたかが知れてるっす。そういえば街灯とかないっすけど必要ないんすか?」
「……普通に忘れてた。まぁ篝火でも十分だろうけどあとで何か用意するか」
「先輩の事大体わかってきたすけど、細かいことは杜撰っすね……」
む、杜撰で悪かったな。今も生き残れているのだからなんの問題もなかろう。
「旦那様、ただいま!」
「おか――ごふぅ。……おかえりクゥ、もう突撃しなくてもいいじゃないかな」
「いらっしゃいっす、クゥリルさん! 相変わらず元気っすね」
「ん、いたんだ」
「相変わらず扱いが酷いっす……僕のダンジョンっすからいるのは当たり前っすよ」
ここ最近クゥリルのスキンシップが激しい。村のみんなに説得してもらう代わりのご褒美は十分したというのにたびたび突撃しては頭をぐりぐりしてくる。
後輩君のところに入り浸って昔話で盛り上がったりダンジョン関連のことで話し合ったりしてるだけで決して蔑ろにしたことはないのに何故だ。
「ところでクゥ、この村に必要なことって何だと思う?」
「旦那様との時間!」
「…………いやクゥに必要なことじゃなくて村人たちにあったらいいなってものだよ」
「むぅ、わかってる。んー……そうだ、村の中で狩りができればいい!」
「え、村の中でもってそこまでして狩りしたいもんなの? 特に気にしてなかったけど毎日狩りするのって食べてく為じゃなかったんだ」
「うん、村のみんなも狩りが好き! 食べる為ってのもあるけどそれ以上に全力で勝負するのが何より楽しい! 狩りに出れない人もここならできるし、絶対に人気なるよ!」
やはり戦闘民族か。そういえば昔から楽しいとか言ってた気もするし、娯楽の代わりなのは本当だったのか。
「そういうことならモンスターと戦える闘技場作るっす。色んなモンスター用意すれば来てくれるっすかね?」
「弱すぎるのじゃダメだよ? それと、あのデカいのは他のみんなじゃ危ないから駄目。それ以外で歯応えのあるの用意できるの?」
「疑わなくても大丈夫っす! 目に物見せるモンスター出して見せるっすよ!」
「ふぅん……まぁいいや、わたしが手伝ってあげるからちゃんとしたものにするよ」
「はいっす! 頑張るっす!」
何かやけに乗り気なのが気になるな。それほど村の中で狩りができるってのは楽しみにしてるんだと思うことにしよう。
「あ、じゃあ俺もモンスター出してみたい、たしかカスタマイズして自分好みのモンスターも作れるだったよね」
「旦那様はダメ。わたしとの愛の巣に変なもの出さないで」
断られてしまった……モンスター作りとか面白そうだったのに残念。




