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ファグ村、新しく始まる朝

今日から再開いたします。

あまり書き溜められていないので、書き溜め分終わればその後は不定期での更新となります。

これからも読んでいただければ幸いです。

「やってしまった……」


村の広場で大の大人たちが酔いつぶれて阿鼻叫喚となっている現状を見渡して、今更後悔している。


夜遅くまで宴会をし続けて、飲み続ける限り酒を出し続けていれば酔いつぶれるのも仕方ない。

そこまではいいとして、俺は一つのことを忘れていた。


“村の掟”『――食べ物を無駄にしないこと』


正確なニュアンスは知らないが、その掟を忘れてこれでもかと言わんばかりに出してしまった。

出した料理はもちろん、酒すらも一滴残さず飲み干していたが最後のほうはもう気力で飲み干してたんじゃないかという勢いだった。


後になって思えば、追加で酒を出した時の大人たちの表情が凍り付いてしまっていたことに気づけばよかったのだが、その時は全然気づかなかった。


さらにその時飲んでいた酒に5年前に作った果実酒が混じっていたことも一つの原因だろう。


あの時作り出した果実酒はそれはもう恐ろしい酒精を持った酒へと様変わりしていたのだ。

果実そのものが酒に向いていたのか、当時飲んだ時はそこそこ酒に強いと思っていたのに一口飲んだだけでその日の記憶がなかった。

その時のことをクゥリルに聞いてみても教えてくれず、数日はどこかよそよそしくなってしまい、しばらく対応に戸惑ったのが懐かしい。


そんなことがあって以降封印と称して隠し置いていたのだが、どういうわけか空になった瓶だけがいつの間にか転がっていて、それによってほとんどの人が酔いつぶれていた。

飲んだことはないがスピリタス(アルコール度数96)以上の度数だと思う。……本当に果実酒か?


ちなみにジャムの方は何かに混ぜたり挟んだりすれば食べられないほどでもなかったので、1年半ほどかけて食べきることができたが二度と食べたくはない。


「さて、この状況どうすればいいんだか」

「おはよう、旦那様! とりあえず水でもかければいいんじゃないかな」

「おはよう。……クゥって俺以外に厳しくない?」

「そんなことない、普通。でも旦那様は特別だからね!」


俺の前で見せてくれるその笑顔は素直に嬉しいけど、酒の席で聞いていたクゥリルと全然違う。話ではいつも無表情で自分にも他人にも厳しいと言っていたが、そんな様子は全然ない。

むしろ番いになったからって今も抱き着いてきて、溺愛してくるけどどう合わせればいいの?


「そうかー、じゃあ水出してくるねー」

「んーん、出すまでないよ。こっちに村の水あるから取りに行こ」

「わわ、引っ張らなくてもついていくからちょっと待って」

「うん、わかった!」


そうは言うが、掴んでる手を放してくれる気はないようだ。

クゥリルが村の中を案内したいようで、そのまま手をつないで水のある場所へと向かうことになった。


たどり着いたのは他の家屋の作りとは違う、四角くて縦長な蔵のような大きな建物。扉を開けてみても中は真っ白いのがぎっしり詰まっていて水があるように見えない。


「冬の間貯め込んだ雪、これがこの村の貯水蔵」

「これってまさか雪解け水が村の水なの!? 井戸とか、川の水とかじゃないの!?」

「井戸? それは知らないけど川は危ないから普段は使わない。水浴びとかたくさん水が必要な時に集まって行くぐらいだよ」


水って生活において最重要なのにここまで疎かで大丈夫なの? よくよく考えてみれば農耕してる感じもないし、肉以外の栄養とかどうやって補っているの? なんか、これからの暮らしが心配でめまいがしてきた。


そうこう考えている間にクゥリルは必要な分の雪を切り出し終わって、一塊となった雪をぐるぐる振り回してる。


「もう戻るよー、はやくはやくー」

「あ、ごめん今行くね」


これは、あれだな……内政チートってやつで村に改革を起こすしかない。新しく村長となったクゥリルの為にも村をより良くする方向で頑張ろう。

今まで目標というものはなかったが、ここはファグ村の住人として心機一転。この新たな生活をクゥリルと共に過ごしていこう。


早速、村の平場に戻ってきたので、現状を把握するために質問することにした。


「ねぇクゥ、この村にはどのぐらいの人いるの?」

「んー、60人、ぐらい、かなぁ。番い持ちが、20組いて、あとは、番い無しと、子供だよ」


句読点のたびに男たちが呻き声を上げ、耳障りなコーラスを奏でていく。

クゥリルは質問の傍らに手に持った雪塊を千切っては投げ、千切っては投げてを繰り返して、正確に顔を狙って雪玉という名の水を与えていた。


「……それでいいの?」

「問題、ない。それで、どうしたの?」

「いやさ、クゥの番いってのになったわけだし、なにかお手伝いでもできたらなぁって思ってさ……。まぁそれで村のことを知って行こうと考えてたんだけど必要なかったかな?」

「旦那様っ……!! そんなことない、わたしには旦那様が必要!」

「それはよかった」


感動したのか両手を挙げて抱き着いてくる。なお雪塊はお義父さんの上に全て放り投げており、かろうじて見える下半身がじたばたとしていた。まぁいいか。


人口60人では村にしては少ない気もするがそれはそれで都合がいい。

ダンジョンコアで色々出せると言っても俺一人じゃ限界があるから、あまり多すぎると対応しきれなくなってしまう。

水事情は後で井戸でも作ればいいとして、やっぱり食事面が気になる。


「それじゃあ早速聞くけど、ここでの食事って基本何なの? やっぱいつも狩ってきてる肉?」

「うん、肉はそうだけど、あとはリュッフェルを毎日食べてるよ」

「リュッフェル? 聞いたことないけど何だろう」

「んー、そうだ。ちょっとまってて……――――……採ってきた!」


あっという間に走り去っていったと思ったら、あっという間に戻ってきていた。相変わらず速い。

片手に掲げるのは大根のような見た目の根菜。一応肉以外にも野菜らしきものは摂っていて安心する。


「よかった、野菜もちゃんとあったんだ」

「せっかくだし一緒に食べよ! 旦那様が出してくれるものに比べると美味しくないけど、それなりに食べれるよ」


鍋にその野菜を入れれると、そのまま水も何も入れず蓋をして火にかけた。


「え、素焼き……。せめて一口大に切らないの?」

「まあまあ、見てて……これからがリュッフェルのすごいところだから」


いや、野菜にすごいも何もないから、と思ったけどここは異世界だ。何が起こるかわからない。

とりあえず、しばらく鍋の様子を見続けていると、――パァン! ぐつぐつぐつ……。と、鍋からはじけた音がした後、煮える音に変わった。


「何この音!? なんで煮えてるの!?」

「はい、これがリュッフェル!」


蓋を開けて見せてくれると、先ほどの大根のようなものの形が残っておらず、小麦粉を溶いたような煮立った白濁汁となっていた。

まさか野菜じゃなくて穀物だったのか。焼いたら汁になるって異世界すごい。


「葉の部分もちゃんと食べないといけないからね、きちんと分けるよ」

「あ、その部分も食べるんだ。……それじゃあ、いただきます」


あれだな、味はジャガイモをすり潰したスープって感じだな。葉っぱの部分も別に味がするわけでも苦みがあるわけでもない。……うん、不味くはない、多分肉と合わせるとそれなりにいい感じになると思う。ただこれだけだと味気なさ過ぎて塩がほしい。


「ごちそうさま。まぁ、うん、それなりに美味しかった、かな」

「無理しなくてもいいよ、旦那様が出してくれるものと比べるとやっぱ美味しくないね」

「ハハハ……。ちなみにどこから持ってきたの? いつも食べてるって言ってたけど、栽培してるの?」

「そこらへんに生えてる。だからいつも必要な分だけ採ってきて食べるの」

「……毎日その日暮らしなのか」

「冬以外は食べるもんはその日のうちに獲ってきて次の日には食べきる! だいたいがそんな感じだよ」


アバウトな食文化だなぁ、でもそれならダンジョンで賄っても大丈夫だよね。


「もし、俺が村の食料用意するって言ったらどう?」

「それ本当!? みんなも喜ぶよ!」

「あ、でも村の風習とか決まりとかあったりしたらどうしよう」

「風習なんてない、あったとしてもそんな風習やめちゃえばいいんだ! なんたってわたしは村長だから!」


村長権限を軽々しく振り回してるがそれでいいんだろうか?


得意げに頭をすり寄せてくるので撫でてあげる。さらにこっちもと言わんばかりに尻尾も寄せてきてきたので、そちらは丹念に梳く。

今日ももふもふで素晴らしい毛並みです。


「おう、ナナシ野郎ォ、朝っぱらから何してやがるんダァ!!? グォオオォオ……頭がいてぇ……」


そこにはいつのまにか抜け出したのか、頭に雪を残しながらお義父さんが吠えてきた。

自分の咆哮が原因で頭を押さえてうずくまっているが、暴れ出すのも時間の問題だ。


お義父さんを落ち着かせる為にもなでなでタイムは一時中断だ。クゥリルもそんな顔しないでお義父さんをどうにかしてくれ。

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