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燃える港町

突然起きた出来事に何の手もなく、どんどんと立ち上る火の手は時間と共に煙の数を増やしていく。

遠く離れた海上から眺めることができない状況を前に、聖女は自分の無力を責める様に強く手を握りしめている。


「ボクが、ボクがなんとかしなくちゃ……」


小さくアンリが呟いた。

すでに聖女までも諦めきっている中、ただ一人目に強い意志を宿し、こんな状況でもまだ諦めずに抗おうとしていた。


「リィン、とびっきりの強化魔法をお願い!」

「……どうするつもりなの?」

「ボクだけでも先に戻って街のみんなを助けるんだ! もう二度と、みんなが悲しむようなことになっちゃいけないんだ!!」


アンリの想いは聖女に伝わり、諦めかけていた聖女の眼にも希望の光が灯る。


「……ええ。ええ、そうね! まだ私たちにはやれることが残っているわ!」


聖女が祈りを捧げるように手を合わせると、勇者から勇気を貰ったとでも言うように光り輝きだし、光が一層と強く輝くとアンリを包み込む。


「ありがとう、リィン。それじゃあ行ってくるね!」


強化魔法を受けたアンリは勢いよく船から飛び出すと、海面を強く踏み込んだ。

まるでそれは一条の光を描いているようで、人類の希望を背負って、大きな水しぶきを上げながら街へと走る。


「さあ、私たちもアンリを追いましょう!」


アンリを見送ると、俺達もまた聖女の号令の下、港へと帰路を急いだ。


そして船が港に着いた時には、辺りは酷い有様だった。

この街の要所である港だからか、ここは徹底的に破壊されつくされており、乗船前には整然と立ち並んでいた船倉は半壊。並んでいたはずの船も原型を留めず残骸と変わり果てている。


さらには瓦礫の山と化した港のあちこちからうめき声が聞こえてくる始末で、巻き込まれてしまった水夫たちが倒れたまま放置されていた。

どうやら相手の目的は人を襲う事ではなく、この港を破壊し尽くす事だったらしい。


「……ッ! 大丈夫ですか!? 今、助けてあげますからね!」


この惨状を目の当たりにした聖女は絶句するも、すぐに動き出しては近くに倒れている水夫に駆け寄り、声を掛ける。そのまま倒れている人へ手をかざすと、淡い光が手の平から放たれ、傷が少しずつ塞がっていく。


「ぅあ…………まだ、あっちに……。はやく、たすけを……」

「わかったわ。すぐにあちらも助けるわ。だから貴方は、今はゆっくりとお休みなさい」


意識を朦朧とさせながらも、水夫はそれだけ伝えると満足したのか静かに寝息を立て始める。


今も尚、別の場所では大きな爆音と悲鳴が絶えない。

アンリの姿が見えないが、おそらくアンリはこれ以上被害が出ない様にこの街で暴れ回っている存在を優先して狙っているのだろう。


ならば、この状況で俺たちにやるべきことは一つ。


「クゥ、倒れている人を集めてくれ」

「……わかった」


俺のそばから離れることを少し躊躇っていたが、クゥはしぶしぶ頷いて駆けてくれた。

その間にこちらもアイテムバッグからできる限りの回復薬(ポーション)を取り出して、いつでも手当ができる準備をする。


「……何の真似ですか?」

「何の真似って、流石にこの状況は助けないわけには行かないだろ」

「そうは言っても貴方は邪悪なる者。むしろ貴方にとってこれは好都合ではないのですか?」

「あのなぁ……何度も言っているが、俺はお前達の敵になるつもりは無いって言っているだろ。ダンジョンマスターだからってこんな状況になって誰が喜ぶんだよ。逆にこんな状況で喜んでいる奴が居たら引くぞ!」

「……そうだとしたら貴方の目的を教えて下さい」

「はぁ……。こんな時でもソレか……」

「貴方の言葉に嘘偽りはないのだと思います。ですが、どこか違和感が、言葉の裏に何かが隠れている気がしてならないのです」


…………。


「これで最後にします。貴方の目指している、その答えを教えて下さい」

「……俺の目的は、クゥを元の村に帰してやりたいだけだ。これでいいか?」

「…………わかりました、今は、今だけは貴方のことを信じてあげてもいいでしょう」

「とりあえずコレ……回復薬(ポーション)渡しておくから、手分けしてケガ人に飲ませるよう船の中で待たせてる奴らにも言っておいて」

「ええ、お心遣いありがとうございます」


聖女はその場から立ち上がり、さっきまで乗っていた船の方へと向かう。


「旦那様、どうしたの? なんか難しい顔になってるよ?」


ちょうど入れ替わるように、クゥが人の山を抱えて戻って来た。器用にも瓦礫となっていた板材を利用し、ケガ人に負担がかからない様に一度に大量に運んでいたようだ。


「いや、なんでもないよ。それより他に倒れている?」

「大丈夫、倒れていた人はみんな持ってきた」

「そうか。とりあえず一列に並べて聖女サマが戻ってくるのを待つか」

「……旦那様?」


少し態度が不自然だったか、クゥは首を傾げるもそれ以上は何も言わず、聖女が人手を連れて戻って来るまでの間にケガ人を並べた。


そこから後は手際よく手当てをするだけとなった。


並べられたケガ人たちを、重症な人は聖女の魔法で治療し、軽度な人は無事な者たちが回復薬を飲ませていく。遠くから聞こえていた爆発音も少し前から鳴りを潜めており、勇者による制圧で大分収まってきたようだ。


このまま住宅街の方まで手を伸ばそうとした時、住宅街の方に抜ける道の方から一人の男がやってきた。見たところ大きなケガはなく、ただの一般人がここまで逃げ延びてきたようだった。


「た、助けてくれ!」

「大丈夫ですか! ここは安全です、一先ずこちらで休んでいってください」


救いの手を差し伸べようと聖女が男の元へ駆け寄ろうとするも、クゥが行く手を阻むように前に立つ。


「クゥリルさん?」

「旦那様、こいつ人じゃないけどいいの?」

「「ええ!?」」


衝撃的な発言に聖女どころか、男の方もビックリと声を上げている。


「クゥ、それってどういう意味?」

「敵意はないみたいだけど、ダンジョンマスターだよ?」


試しに探知機を取り出し確認してみると近くの反応は二つ。確かにクゥの言う通り、この男は俺と同じくダンジョンマスターだ。


「ま、待ってくれ! 確かに自分は人……じゃないかもれない。けど、決して悪いことをしようと思ってるわけじゃないんだ!」

「……貴方はこの騒ぎを起こした邪悪なる者ではないのですか?」

「違う! オレは何もしていない! 本当だ!!」

「……洗いざらい全て話してもらいます。まずはそれからです」


男があまりにも必死な形相で訴えかけてくるので、これには聖女も仕方なく拘束だけして話を聞くことになった。一応、念には念を入れて、ケガ人たちがいる所から少し離れた海の方へと移動する。


そして、その男の話というのは……。


「オレはもう、かれこれ一年前からここに住んでいるんだ。ある計画の為に」

「!?」


ある計画――既に何年も前から例のダンジョンマスター連合が関わっていたようだ。

聖女は一年もの間、誰にも見つからず潜伏し続けていたという事実に驚きを隠せないようで今日何度目かの衝撃を受けている。


「主要都市の破壊、来るべき日が来るまで潜伏し続ける。オレが計画について聞かされているのはそれだけだ」

「やっぱり貴方がこの街を!」

「違う! 聞いてくれ! 確かに初めは破壊工作するはずで住み始めたんだが、気が変わったんだ!」

「気が変わった?」

「ああ、そうだ! オレだってこんな日が来なければってずっと思っていたよ! 一年もずっと住んできた街を壊したいなんて思うわけないだろ! なのに、なのに……あいつらときたら……ッ!」


そこから男は憤りながら語ってくれた。

この街には十人ほどのダンジョンマスターが潜んでいて、識者の手によって街全体に隠蔽魔法が掛けられていたこと。仲間内の一人が勝手に行動し、船を襲うような真似をしたこと。


そして、今日、来るべき日の合図……識者によって掛けられた魔法が解けた瞬間に攻撃を始めるということ。


「……そんなっ! じゃあ私が魔法を解除したから街が……?!」

「俺は止めようとしたんだ。でもあいつらようやく暴れられるって聞かなくて……」


本来は船を襲うモンスターも、今日がその来るべき日になるということも、全ては予定とは違った事らしい。

手違いとは始まってしまった計画、それでもこの男は実行に反対し、仲間内に止めるように言った。


「ホント馬鹿げてる! あいつらは分かっていないんだ、オレ達ダンジョンマスターがどれだけダンジョンを広げてもまともに人と触れ合いないことに!」


しかし、結果は止まらなかった。

同じダンジョンマスターだからと殺されなかったとはいえ、痛めつけられ、今に至る。


「チクショウ……、折角まともに人と触れ得ていたのに……うぅ」


この男は泣くほどまでに人と触れ合いに飢えていた。

ダンジョンマスターが作るものには意思が無い。人とのコミュニケーションを取ろうにも、この世界ではダンジョンマスターは全世界共通の敵とされている。だからダンジョンマスターはダンジョンマスター同士でしか、DM掲示板というものを使うしかなかった。


けれど、それも所詮は顔の見えない向こう側の人でしかない。

そんな中で一時とはいえ、人の生活に紛れることができたことが何よりも幸せだと、そう語っていた。


この男から話を聞けば聞くほど、俺がどれだけ恵まれた環境だったのか、今更ながらに思う。


「うぅ、このリア充が! 爆発しろ!!」


どうやら無意識のうちにクゥを撫でていたようだ。

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