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全ては光に

今回もまた聖女が一方的にアンリをまくし立てる。そうなると聖女が連れてきた聖騎士隊が「また始まった……」と聖女の方に注意が傾き、包囲網が薄くなる。


今のうちに逃げようかとクゥリルに小声で問いかけると、振り向いたクゥリルは何か物言いたげにしていた。


「クゥ?」

「旦那様、少しだけわがまま言っていい?」

「別に構わないけど、どうしたの?」

「んと、ちょっとアンリに説教」


そう言うと、クゥリルは一足でアンリとの間合いを詰め、槍を振り下ろす。一瞬の出来事の前に、聖女に気を取られていたアンリはそのまま――。


「……え、アンリ危ない!!」

「っ!?」


――ガキィンと金属音が響き、ギリギリのところでクゥリルの一撃を受け止めた。突然の不意打ちに驚いてはいるが、無事に防げることができたことに、聖女はほっと胸を撫で下ろしている。


「ちょっと、貴女いきなり何するの!」

「そうだよ、クゥ! 何で今のうちに逃げなかった……」

「…………アンリ? まさか今までもそうやって」

「あ、いや、違うよリィン! これはその……えーっと……って、うわぁ!!」


アンリが言葉に詰まっていた所にまたクゥリルの一撃が襲った。何が何だかわからないと、アンリが不思議そうにクゥリルへ問うが、クゥリルは返事をせずに表情を険しくして、再び槍を構える。


「さっきからどうしたの、クゥ。何か怒らせることした?」

「アンリ。アンリは言ったよね。いつかわたしを倒して、旦那様を倒すって。その言葉は嘘だったの? 旦那様のこと見逃してくれるの?」

「それは本当だよ! いずれはクゥとちゃんと決着つけて、旦那さんのことだって、倒す、予定だけど……」

「だったら何で戦わないの? いつも逃げて欲しそうにして、戦わないようにしてるのはアンリじゃない」

「だって! ……そんなことしたら、クゥが可哀そうじゃないか。せめて他のダンジョンマスターを倒し終わるまで…………いや、村に帰るまでは、ボクはクゥと戦いたくないよ!」


――ガキィン! ガッ、ガガン、ガン! ガァン!!


またクゥリルが槍を振るった。今度は連続して槍を振り回すと、アンリの持つ剣を弾き飛ばし、アンリの首元に槍を突き付けながら言う。


「アンリのくせに生意気。アンリがわたしに勝てると思ってるの?」

「なっ! 確かにボク一人だけじゃまだ難しいかもしれないけど、リィンがいる今ならクゥにだって負けないんだから!」

「ふぅん。じゃあやってみれば?」


アンリは突き付けられた槍を素手で掴んでは力任せに投げ飛ばす。クゥリルはそのまま空に放り投げられるが、器用に空中でくるんと回って何事もないように着地した。


そしてまた、いつでも槍を振るえるように構え直す。


「……本気、なんだね」

「さっきから言ってるよね。アンリに負けるわたしじゃないって」


弾かれた剣と取りに戻ったアンリが覚悟を決め、剣を正眼に構える。


何となくクゥリルがやろうとしていることが分かった。わざわざアンリを挑発してまで戦うのは、この状況を変える為だろう。

どうやって先回りしているのか分からない以上、逃げ切る事は叶わない。ならば聖女の信頼する勇者が倒してしまえば、これ以上追う事を諦めるはずだ。そういう事なら、俺はただクゥリルを信じて待つだけだ。


「勇者様、我らも参戦します!」


二人の戦いが始まるっていう時に、騎士たちが前に出る。


「あ! ダメ!」


アンリが止まるように叫ぶがすでに遅く、武器を片手に走っていった騎士の一人が、次の瞬間には後ろへ吹き飛ばされてしまう。

目にも留まらぬ速さの一撃。その不可視の一撃に何が起きたか分かっていない騎士たちは、騒然とする。


「……ここはボクに任せて欲しい。君達じゃ足手まといにしかならないよ」


その酷な発言に騎士が異を唱えようとするが、

「アンリの言う通りにしない。貴方達は邪悪なるモノがおかしな真似をしないよう、見張るのです」


と、聖女が周りの聖騎士隊に告げる。そうなると騎士は何も言えなくなり、ただ黙って聖女の指示に従った。


「それじゃあ行くよ、クゥ!」


聖女の魔法が掛けられているアンリは微かに発光している。その発光を置いてくほどの速さで、クゥリルへと一直線に駆け――。


「わたしを楽しませてね、アンリ」


クゥリルもまた、同じようにアンリへと向かって駆け――。


――ぶつかり合う。


いつか見た光景の繰り返しだろうか。白い残影と赤い残影が交わり合うと、遅れて衝撃音が響く。


前と違うのは、一直線にしか走ることができなかった赤い残影が稲妻のように小刻みに軌道を変えながら白い残影を追っているという点。自らの身体能力に振り回されることなく制御できている証拠だろう。


だけどそれ以上に負けていないのはクゥリルだ。

前回は勇者の能力で強化されていたが、今回は聖女の魔法による強化。多少の違いはあるが、それでも決して力負けすることなく、むしろアンリを押してるようにも見える。


「ハアァァァッ!!」

「む、甘い」


一進一退、まさに手に汗握る戦いだろう。見張り役である聖騎士隊も、見張ることよりも戦いの方に注意がいっている。

何度目かの衝突の後、拮抗した戦いに一旦足を止めた。


「流石クゥだね。この力を十全に生かしているのに、それ以上に強くなってるんだね」

「アンリこそ。今までお粗末だった戦い方が良くなってる」


互いに称え合うと、改めて構え直す。


「次の一撃に、ボクの全てを掛ける」

「む、ならわたしも次で決める」


次の衝突で勝負が決まる。

言葉の通り、二人にはそれだけの気迫があった。


しばらく、無言で見つめ合う。


そして、先に仕掛けたのはアンリだった。

一歩、二歩で助走を使い、三歩目でもはや早すぎて目で追えない。


続いてクゥリルも駆ける。

一歩目から最速に至り、真正面からぶつかりに行く。


そして、二つは衝突――


「ハァアアア!!」

「――ッ!?」


――すると思った刹那。眩い光が全てを真っ白に染め上げた。


「ッ!? クゥ!!」


アンリのビックリした声が聞こえただけで、何が起きたか分からなかった。それだけ明るすぎて周りが何も見えない。

どっちが勝ったんだ? と疑問に思うも、いつまでたっても光が収まらずに尚も照らし続ける。


「だ、んな様ぁ!」


光に包まれてから体感数秒のことだろうか、辛そうなクゥリルの声が届くと同時に体に何かがぶつかった。近くからしたこの声に、この大きさからして、ぶつかって来たのはクゥリルだろう。


訳も分からず抱きとめるが――べちゃあ、と妙に生暖かい液体に触れた。


「クゥ?」


依然と真っ白のままの視界は、どんなことになっているのか分からない。


ただただ、嫌な予感が、胸の鼓動を早める。


「クゥ? 大丈夫かクゥ、一体どうし――――」


そして最後は、その言葉すらも光に呑まれ――。


――全ては、光の中に消えていった。



■■■



「リィン! どうしてこんなことを!?」


全てが光の中に消えて行った後、残された者がその想いをぶちまけた。


「アンリ、ごめんなさい。でも、これは仕方のないことなの。勝負が残念なことになってしまったのは謝るわ。でも、邪悪なるモノを斃す為には必要な事だったの。……わかってちょうだい」

「何で、何で……」


この事態を引き起こした張本人は祈りを捧げる格好のまま、その想いを身を捧げるつもりで受ける。

そんなことをしても意味ないことを分かっている残された者は、泣きそうな声で惜しむことしかできなかった。

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