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ダンジョン、早速見つかる

「あれ? ここどこだ?」


目を覚ますと見慣れた部屋ではなく、どこか人工的に作られたと思われる一面が岩肌の部屋にいた。

部屋には一つだけ通路が伸びていて、奥の様子は見えないがおそらくそこから連れてこられたのであろう。

他に気になるものと言えば部屋の中に唯一存在する台座と、その上に置かれた球だろうか。

そんな殺風景で光源一つ見当たらない部屋の中にもかかわらず周囲は明るくはっきりと見えた。


「昨日は遅くまで仕事をしてて、帰ってきたときには深夜を回ってたが普通に家で寝たよな……」


状況を把握しようと昨日のことを思い出そうとするが、なぜこんな場所にいるか見当がつきそうもなかった。


「あ~……もしかして夢? だとしたら早く起きて仕事行かなきゃ」

「夢でもなければ、仕事に行く必要もない」


夢と結論付けた矢先に、どこからともなく荘厳な雰囲気の男の声が聞こえた。


「え、誰?」

「誰かと問われれば私は神だ。貴様の脳内に直接語り掛けている」


いきなり神が出てくるとか胡散臭すぎる。


「うわぁ……、絶対夢だこれ」

「お前は元いた世界で死に新たな世界にて生を得た。お前にはこれからこの異世界でダンジョンマスターをやってもらう」


こっちの反応を無視し、当然のように説明し始める自称神。

死んで生を得る……転生して異世界とかテンプレだなぁ、それに突然ダンジョンマスターとか言われても意味がわからない。


「テンプレで悪かったな。――ダンジョンマスターとはそのままの通りこのダンジョンの主ということだ。ダンジョンを改築し、罠やモンスターを設置していずれ来る侵入者から生き延びて見せろ」


こちらの考え事は筒抜けのようで、何も言っていないのに説明してくれる。


どうやらここはダンジョンだったようで、それから長々とダンジョンマスターについて説明が続くが、要約すると自宅警備員ということだった。


ダンジョンはこの異世界にとって危険な存在みたいで、見つけられたら最後、攻略されるまで冒険者が狙い来るらしい。

攻略されてしまうとダンジョンマスターは死ぬ――正確には部屋にあった玉ことダンジョンコアを破壊されると、ダンジョンマスターも同時に消滅する――から生き延びたければダンジョンを強くして撃退しろとのこと。


ダンジョンを強くするにはダンジョンコアを介し、ダンジョンポイントを消費して色々するようだ。

ダンジョンポイントは毎日もらえる分の他、外から来る冒険者やモンスターなどを倒し取り込むことで大きくポイントを貰えるという。

はじめのうちは見つからないことを祈り、少しずつダンジョンを強化し、外のモンスターをおびき寄せてダンジョンポイントをためるのが定石らしい。


そうやってダンジョンを作り、引き籠りながら生きていく。

いったい何を目的にそんな空しいことをやり続けなければならないんだ。


「概ねその認識でよい。今ダンジョンマスターをやっている者には最強のダンジョンを作り有名になることを目指す者もいれば、ダンジョンマスターであることを隠しながら異世界の住人と交流している者もいる。好きなようにダンジョンを運営するがいい」

「あ、他のダンジョンマスターもいるんですね」


「彼らもまた私がこの異世界へ連れてきた。先に伝えておくが、前世での知り合いを探そうとしても無駄だ。それを確認することは不可能だからな。ここに来た時点で名前……個人を特定する記憶は消させてもらっている。現に今自分の名前さえも思い出せないだろう?」


考え込んでみるが、確かに自分の名前が思い出せない。住んでいた地域や会社名などは思い出せるが、親の名前も友人の名前も何一つ思い出せない。


「では、さらばだ」

「ちょっ、名前ないって不便じゃない!? それに何を目的でダンジョンマスターやらせてるの!?」


無慈悲に叫び声が部屋の中を木霊するが返答がない。最後の最後で爆弾発言を残して去っていったようだ。

結局、ダンジョンマスターをやる目的も教えてもらえず、名前もなくしてなった。


「え、これマジどうすればいいの?」


理解できない現状に、ここが夢ではないことに気付き、今になって震える。


「……。まぁ一度死んでるみたいだし、人生のロスタイムということで自由に楽しんでいけばいいか」


だが、思っていたより早く受け入れることはできた。




「さて、まず何から手をつけていけばいいかな?」

「何しているの?」

「何ってそりゃあ、どんなダンジョンを作るのがいいかなぁって考えてるところだ」

「ダンジョン?」

「そう、ダンジョ……え?」


早速ダンジョン作りを考えようとしたが、思わぬ侵入者がやってきていた。

目の前には12、3歳程度の女の子。セミロングほどの長さの灰色がかった白い髪が光の角度によっては銀髪にも見える。さらに紫色の双眸と白い肌、着ている民族的な衣装が相合わさって神秘的にも思えた。

ただ、普通の女の子が持つには似つかわしくない重厚な槍を持っていて、前世の人類にはなかったもの――『ミミ』と『シッポ』がついている子だった。


ケモミミに尻尾で銀髪紫眼、わぁ……ファンタジーの獣人だ。


「ねぇねぇ、ダンジョンってことは悪いやつ?」


先ほどから興味あり気にこちらを見ている女の子。

ピンっと張った耳にふさふさの尻尾は狼がもとのなのかな、もふもふしたいなぁ。


「悪いやつなら伝えてこないと!」


見つかってしまった事実から現実逃避をしていたら、まさかの告げ口宣言。

何が楽しいのか、その場でぴょんぴょんと跳ねている。手に持っている槍が少し危なっかしいが、その仕草はとてもかわいい。


……ッハ! いけない、また現実逃避するとこだった。

このまま伝えられたら終わってしまう気がする。始まる前からゲームオーバーとか考えたくもない。その前に何とかしなければ。


「ま、待つんだ。俺は悪いやつじゃないよ、良い人……いや、良いダンジョンマスターだよ」

「ホントにぃ~? お父さんはダンジョンには悪いやつがいるから見つけたら言うんだよって言ってたよ!」

「そうだね、悪いやつがいるダンジョンもあるかもね。でも俺のダンジョンは良いダンジョンだから言わなくてもいいんだよ」

「ん~どうしようかなぁ~」

「そうだ、お菓子を上げよう。とても美味しいよ」

「お菓子?」


お菓子という言葉を聞いたことがないのか、首をかしげてこちらの様子を見てくる。

自称神の話では、前世にあったものとかもダンジョンポイントで生み出すことができるといってたし、多分お菓子くらい出せるだろう。

初めてのポイント消費がお菓子なのは致し方ない。ダンジョンコアに触れて、お菓子をイメージすると、視界とは別に頭の中にウィンドウがでてきて、色々な種類のお菓子がカタログのように表示されていく。


その中からさらにショートケーキを思い浮かべると、さらに細かく色々なショートケーキだけが並び直していくので適当に1つ選んでポイントを消費する。


シュンっと、何もない空中から先ほど選んだショートケーキが皿に乗った状態で突然現れたので慌てて受け止める。

女の子は少し警戒した様子で槍をこちらに向けるが、尻尾はブンブンと振って興奮しているようだった。


「なんか出た!」

「ふふふ、これがお菓子……ショートケーキだ」


ケーキと一緒についてきたフォークを差し出すと、女の子は恐る恐るフォークを受け取る。

そしてジーっとフォークとケーキを交互に眺めた後、ケーキ刺して手元に寄せてクンクンとケーキのにおいをかいでいた。


「すごい甘い匂い……」


そんな感想を漏らしながら一口でケーキをほおばると、その表情は次第に険しくなり尻尾の揺れも収まっていた。

あれ、もしかして甘いものダメだったか? このままじゃまずいんじゃね?


「ウー.……、そんな美味しくない」


口元にクリームを付けながら不機嫌そうに唸り、こちらをにらみつけてくる。


「待って、次出すのは美味しいからもう一度チャンスを!」


ダンジョンコアに触れて、パパッと新たにご機嫌取りアイテムを選び出す。

煎餅とお茶、――俺が前世で好んで食べていたものだ。


字面にすると微妙そうに見えるがただの煎餅ではない、有名老舗店が厳選して作り出したお高い煎餅だ。

前世では仕事で時間がなかなか取れない中、唯一の嗜好品とも言え――、むしろこの煎餅を食べるために仕事をしていたようなものだった。


あまりにも高価で月に数回しか買うことができなかったが、この異世界でも食べれることに喜びを隠しきれない。更にお茶も高級煎餅に合うよう選んだとっておきの組み合わせだ。

先ほどのショートケーキに比べるとポイント消費が桁違いに高いのが少々手痛い。ついでに前世で使ってた食卓机も出し、その上に高級煎餅とお茶を並べていく。


「ウー……、今度は何?」

「まぁまぁ、まずは口を拭いてお茶を飲んで口の中をきれいにしようか」


早くもダンジョンコアの使い方もわかってきたので、手早く布巾を出して女の子の口元を拭う。唸りながらもまだこちらに興味があるようで、差し出されるままお茶を口にする。

これでダメなら仕方ないと諦めよう。流石に子供相手にどうこうするのは気が引けるし、自称神を恨むしかない。


「……少し苦い、けど、おいしい?」

「ささ、煎餅も」

「……ッ! おいしい!」

「そうだろう、そうだろう。なんて言ったってこれは最高の食べ物だからな!」


先ほどまでの不機嫌と打って変わり、一気に目を輝かせてもっと食べたいと催促してくる。

自分の好きなもので喜ばれるのは気分がいい。屈託のない笑顔をみていたらつい調子に乗って次々と煎餅を出してはお茶を啜り、煎餅を食べる。

見知らぬ仲だというのに、自然と二人でこの最高な煎餅を味わえる関係となった。




「おいしかったぁ~」

「……うん、美味しかったね」


あれから考えなしに出し続けていたら、手持ちのダンジョンポイントが残り僅かとなっていた。


ダンジョンマスターを始めて数時間でポイント枯渇。お菓子でお安く追い払おうと思ったのに何たる失態! ……まぁ久々に楽しかったから別にいいか。


「これで俺が悪いやつじゃないことはわかってもらえたかな」

「うん! おじさんはいい人!」

「おじ、さん……。あーうん、たしかにそんな歳だったなぁ。29歳っておじさんだよなぁ……。……まぁそれは置いといて、いい人だとわかってもらえたなら、俺の事、親に黙ってもらえるよね?」

「え? なんで?」

「うっ……、そ、それは黙ってもらえないともう煎餅とか食べられなくなっちゃうからさ。いいの? また食べたくないの?」

「え~、やだ! また食べたい!」

「それじゃおじさんのことは秘密ね」

「わかった、秘密!」


見た目通り無邪気な子供の反応で頷いてくれる。思っていた通りチョロい。

その後は笑顔で、手と尻尾を振りながら「またね~」という言葉を残してダンジョンから去っていった。


まさか初日から見つかるといトラブルに見舞われたが、無事に乗り越えることができた。

こうやって誰かと食事を楽しむなんて久々だったけど、これならダンジョンマスターになるのも悪くないな。この先もやっていけそうな気がする。今日はもう寝て明日からダンジョン作りを頑張ろう。


健やかな安眠の為、残り少ないポイントを費やし、少しお高めの寝具を出してから眠りにつくのだった。


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