三話
「マスター、処理してきたぜ。臭みは取れたはずだ」
さっきの、モルガーにワイトとミーナが入ってきた。
見た目、骨付きの鶏肉って感じの物体を持ち込んできた。
「お願いできるかしら?」
「さっきと同じ塩コショウのみだが、いいのか?」
「おう、それで頼む」
「ちょっと、モルガー、私達が持ってきたのよ?」
「俺が処理したんだからいいじゃねぇか。細かい事言ってんじゃねぇ。なぁワイト」
「……俺は構わん」
仲がいい連中を見ると、俺もこんな気兼ねなくいろんなことを喋れる相手、欲しかったなぁと思っちまう。
「おう、サワイも食うか?!」
「ぶほっ! いきなり強く背中叩かないで下さいよっ。……俺はもうお腹いっぱいかな」
「……たったそれっぽっちでか? 相変わらず少食だなオイ!」
スパゲッティ一人前。それに追い飯。
さらに試食のミニ丼。
これだけ食えばもう十分だわ。
「景気悪い顔してんなぁ! ほれ、水サービスしてやるよ!」
いや、水は普通にタダでもらえるもんだが。
つか、あんたらも常連なんだから、それくらい知ってるでしょ。
知っててやってんでしょ?
「あ、じゃああたしからもサービス」
「いや、ちょっと」
俺の前に、水が入ったコップが三つ。
どうしろと。
「あらー、サワイさん、良かったわねー」
いや、アヤちゃん、良かったわねーじゃなくてさ。
「じゃあ私からもサービスしますねっ」
いや、マイちゃん。マネしなくていいからっ。
「じゃあ俺からも」
「なんでそうなるっ!」
マスター、お前は料理作ってろよ!
「何だテメェ! 俺の出した水が飲めねぇってのかぁ?!」
「マスター、あんた、どこの酔っぱらいだよ!」
「ただの水が飲めねぇってのかぁ?! だったらテメェのだけ有料にしてやるっ!」
「いや、マスター、あんたは自分の仕事に集中してなさいっての!」
ホントにめんどくせえ店だな。
「まぁ冗談はさておいてだな。水が有料の店、あるんだぞ」
「レモン水出す店はあったりするけどな。でも有料って聞いたことないぞ?」
「ここ休みの日の前日に、夜に出かけて、水のほかにもウーロン茶とか頼んだんだが、三千円くらいとられた」
「それ、飲み屋の話じゃねぇの?」
「そうとも言う」
それくらいは当たり前だろ。
しかも飲んだの、水だけじゃねぇじゃん。
……と、モルガー、何の用だ?
俺の体に押し付けてきて。
「何のことか分からんが、まぁ細かい事気にすんな! 俺みたいにハゲるぞ!」
「あんたは手入れしてそういう頭にしたんだろうが!」
店の人ばかりじゃなく、常連相手にするのも疲れるって、ホント、ここどんな店だよ!
「ほらほらみんな、早く席に戻らねぇと取られちまうぞ?」
こうしてる間にも客はどんどん入ってくる。
そんなに広くない店内だ。
満席になるのも時間の問題。
「座れなくなったら、サワイ君の膝の上に座るからいいもーん」
「ミーナさん、勘弁してください。彼氏さんの目が怖いんですけど」
「……心配するな。俺もお前の膝の上に座る」
「いや、何言ってんですか。冗談を本気の目で言わんでくださいよ!」
「……俺は本気だが?」
普段あまりものを言わないキャラが口を開くと、重みを感じるんだよな。
それが例え冗談でも。
「私も本気よ?」
「面白そうだな! 俺も座らせろ!」
「二人して絡んでくんな! いいからとっとと席に戻れよあんたら!」
何でどいつもこいつも俺に絡んでくるのやら。
「サワイさん」
「ん? 何? アヤちゃん……」
「何か、疲れてそうですね」
「お前らが疲れさせたんだろうが!」
まったくこいつらぁ。
「おう、変な奴に絡んでねぇで、ミーナさんらの分できたから持ってけ」
挙句、マスターから変な奴呼ばわりされるし。
「はーい。じゃ、サワイさん」
「ん?」
「お水、残さず飲んでくださいね? アヤちゃんとの、ヤ・ク・ソ・ク・だぞっ」
何で水に拘るんだよ!
「あたしのも飲んでねー」
マイちゃん、あんたまで何言ってんだ!
「俺のも飲めよ?」
「そんなに飲めるかーっ!」
この店の連中、この時間帯になると誰もが異次元すぎる。
まぁ一部は異世界の者らしいけどな。