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Magical binary system  作者: 最上葉月
6/27

五日目 魔法と愛と、お風呂


「おじゃましまーす」


 私は幼い頃から、他人の家に入る時にはまずこう言いなさいと母親から教えられていた。

 入ってみると、そこはかなり大きな部屋になっているとすぐにわかった。部屋の感じは、お城の王様の部屋と少し似ている気がする。扉からまっすぐに赤い絨毯が敷いてあり、その先の、一段高くなったところに大きな椅子があった。そして、そこにはやたらと大きな杖を右手に掴んだ、老婆のような姿をした魔物が座っていた。

 そして、その魔物は私たちと目が合うや否や、すぐに口を開いた。


「私の名前はプラリーネ、こんなところまではるばる、なんの御用かな? 旅の者」


 こいつが村長さんが言っていた魔物なんだろうということはひと目見てすぐに分かった。

 それよりも、目の前のやつが意外にも会話をしよう試みてきたことに驚いた。言葉を話せる魔物がいるということと、会話を持ちかける知性がある魔物がいるということ両方に対して。


「えっとぉ……貴女がかけた呪いを解きたくて、貴女が呪いを解くための聖水を持っているって聞いたんですが……」

「なるほどな、下の村の誰かに依頼されて、私を倒すためにやってきたという訳か」

「いや……別に、倒せとは言ってなかったはず……聖水を持ってきてとしか」


 私がそういうと、プラリーネと名乗ったその魔物は、ニヤリと笑った。


「同じこと! 聖水ならくれてやろう! この私を倒せたらの話だがな!」


 いきなり叫ばれたのに驚いて、私の身体が5cmくらい飛び上がった。やっぱり倒さないとだめなのか。言葉が話せても、やはり魔物は魔物だ。

 プラリーネは椅子から立ち上がり、右手に持っていた杖をぐるりと、先端で宙に円を描くようにふるった。


「ブラックフレア!」


 やつがそう叫ぶと、振りかざした杖の先から黒色の炎の帯が、私たちに向かって放たれた。


「チャル!」


 私はチャルの手を引いて、その炎を何とかかわした。

 大きな音とともに、その炎は塔の壁にあたって散逸した。塔の壁には黒く焦げた後が残った。


「不意打ちなんてひどいな」

「かわすなんて、やりますね……」


 プラリーネは不敵な笑みを浮かべていた。なんとも不気味で気持ちが悪い。

 そんなことよりも、驚いてばかりだ。魔法を使える魔物って本当にいるのか。


「チャルどうしよう」

「リリスちゃん、次の攻撃かわしたら、隙を見て当てて」

「わかった」


 プラリーネは間髪入れずに次々と杖の先から黒炎を放ってくる。ずっと動いていないと食らってしまうが、動きが単調なので、隙を見つけるのはそこまで困難ではなかった。


「サンダーストーム!」


 相手の魔法を床から飛んでかわしたのと同時に、私は魔法の名前を叫んだ。

 私の手のひらから無数の雷が放たれ、プラリーネを襲う。


 バリバリバリッ


 強烈な音とともに、薄暗い部屋の中に眩しい閃光が煌めく。自分の魔法にもかかわらず、私はその眩しさ思わず目を閉じた。

 そして、目を開けた時、そこには黒焦げになったプラリーネの姿があった。


「倒したかな?」

「さっすが、リリスちゃん」


 さすがに雷が直撃しては、どんな魔物だろうとひとたまりもないというものだろう。私はそう思ったのだが。


「あれ、まだ生きてるよ」


 驚いたことに、やつはまだ息をしているようだった。とはいえ、ボロボロで、もう息絶えるまで時間の問題のようだ。

 プラリーネはよろよろと、ぼろぼろになった服のポケットに手を突っ込み、何やら瓶らしきものを取り出した。そして、その瓶らしきものの中に入った液体を飲もうとしているのか、口に近づけた。


「意外にしぶといね」

「リリスちゃん、あれなんか飲もうとしてない?」

「ほんとだ、まあ最後の晩餐くらいさせてあげようよ」

「……」


 私がのんきにその様子を眺めていると、驚いたことに、息絶えるのも時間の問題と思っていたプラリーネが、その謎の液体を飲み干してすぐに立ち上がった。


「リリスちゃん、思ったんだけど、あれが村長さんが言ってた聖水なんじゃないの?」


「え」と思ったときにはもう遅い。

 聖水を飲んだやつの身体には、明らかなる異変が起きていた。プラリーネの身体がぐねぐねと脈動しながら変形していく……。


「うへ、気持ちわる……」


 という正直な感想が自然と口から出た。

 プラリーネの身体は徐々に肥大化し、ガサガサだった肌は変色し、なにやら鱗のようなものに覆われた。また、肩甲骨あたりから出てきた突起物は、翼のような形に変形し、さらには腕の付け根から余分な腕が生えてきている。


「うわぁ……」


 それからものの数十秒。プラリーネは、もとの老婆の姿は面影もなく、いびつな翼が生え、腕が六本もあるグロテスクな生き物に変化していた。なんとも形容し難い見た目の生き物だが、脊椎動物の分類で一番近いのはたぶん爬虫類だろうと思う。


「うえぇ、チャルぅ、なによあれ」

「やっぱり、さっき飲んでたのが例の聖水だったみたいね、なんか不思議な力があるみたい」

「うへー、まじかぁ……。聖水あれ最後ってことはないよね……とりあえず、眼の前のあれ、何とかしなきゃ」


 その生き物は、飛び上がって、非対称な歪な翼を使って飛び始めた。

 私たちの頭上数メートル上、天井すれすれをホバリングしている、そのグロテスクな生き物は私たちに明らかなる敵意を向けていた。

 ぐるると、プラリーネの喉が鳴る音が聞こえる。そして、大きく口を開いたかと思うと、いきなり天井に向かって高温の炎を吐いた、天井は数秒間その炎に耐えていたが、すぐに黒焦げになり崩れ落ちてきた。


「チャル!」


 私の声に呼応して、チャルはすぐに右手を上にかざして叫んだ。


「マジックバリア!」


 チャルがとっさに貼った魔法の障壁が、降ってきた天井の瓦礫から私たちを守る。天井が無くなったことで入ってきた太陽の光が、いっしゅん私たちの目をくらませる。


「どうしよう」

「私がなんとか隙を作るから、なんとかして」

「うん、わかった」


 私たちの頭上に飛び上がったやつは、今度は私たちに向かって炎を吐いてきた。

 先ほどとは比じゃないくらいに強力な炎を次々と放ってくる。とはいえ、速度は遅いので集中していれば躱すのは容易かった。

 私はチャルの手を引いてプラリーネの攻撃から身を躱しながら、空にのんきに浮かんでいる"雲"に私の魔法のエネルギーを蓄え始めた。真っ白だった雲はどんどんと灰色に変わっていき、次第にバチバチと、肉眼で見えるほどの電気を帯び始めていた。

 

「よし」


 これでもう十分だろう。


 「準備できた?」というチャルの質問に対して、私は上空を旋回する魔物に目を合わせたまま無言で頷いた。

 それを見かねてか、プラリーネは今までで一番強力な炎を私たちはに向かって吐き出してきた。塔ごと壊す気なのかもしれない。


「チャル!」

「ミラー!」


 両手を前に突き出して、チャルが魔法の名前を叫ぶと、プラリーネが放った炎が、私たちの目の前で強風に吹かれたように綺麗に跳ね返った。

 そして、やつは自分が放った炎に全身が包まれた。効いているのかどうかは定かではないが、視界が奪われていることは確かだろう。

 その隙を見て、私は魔法を叫んだ。


「グリヌアージュ!」


 雷雲にして、プラリーネの頭上に蓄えておいたエネルギーを一気に解放する。解放したエネルギーは雷として、プラリーネに一直線、やつの脳天に直撃した。

 ただでさえ高い塔なのに、その上を飛んでいたら避雷針もいいところだ。

 辺りがまばゆく煌めいた。

 雷が直撃したプラリーネは、変な叫び声をあげながら、塔の下へと真っ逆さまに落ちていった。それから数十秒遅れて、プラリーネが地面に叩きつけられた重い音が聞こえてきた。


「ふぅ……」

「おつかれ、リリスちゃん」

「倒したのはいいけど、聖水が……」

「まあ、うん、言い訳は、帰りながら考えようよ」



***


 塔の魔物を倒した私たちはいま、村の入口にいた。

 ちなみに、帰りはチャルのワープでここまで戻ってきた、さすがにね。

 あの後、聖水がやつが飲んだもの以外にもないかと期待して色々と探したけれど、目当ての聖水はおろか空の瓶すらも見つからなかった。残念ながらやつが飲んだもので最後だったようだ。


「さてどうしてものか……」

「まあ、とりあえず村長さんのところ行こっか」



***


「そうか……」


 一部始終、もとい聖水を取ってこれなかったことを説明しを終えると、村長さんは黙ってしまった。別に私たちは悪いことをしたわけではないと思うけど、この罪悪感は計り知れない。


「あ、あの……」


 この気まずい空気を打破したのはチャルだった。


「その、ミラちゃん、もう一度観せてもらっていいですか?」

「あ、ああ、構わんが……」


 村長さんに案内されて、私たちはミラちゃんの部屋へと再び案内される。


「チャル……もう一度見たいなんて、どうしたの……?」

「私が、何とかするよ」


 チャルはそうとだけ言った。

 私たちが部屋に入ると、そこには、村長さんの孫娘、ミラちゃんが、前見た時と同じように横になっていた。しょうじき、私からはぐっすりと眠っているようにしか見えない。まさか、植物状態だったとは……。

 チャルはミラちゃんの横にたつと、ミラちゃんの前髪をめくり、おでこに手を当てた。

 私は何をするつもりだろうと、ドキドキしながら見つめていた。

 チャルは一度深く生きを吸って、そして、言った。


「ピュリファリア」


 チャルがそう言った次の瞬間、ミラちゃんの瞼がピクッと動いた気がした。


「……」

「チャル、何したの?」

「覚醒の魔法。これでたぶんだけど、明日には目が覚めるんじゃないかな、と思う、たぶん」


 え、まじか、さすがチャル。

 というか、最初からこうしておけばよかったんじゃないの? とも少し思ったけど。

 チャルの言葉を聞いた村長さんは感激してミラちゃんの方へと駆け寄ったので、私たちは黙ってその部屋を出た。



***


「それで、聞きたいこととは何かな?」


 村長さんが落ち着き、こうして話を聞けるようになるまでに数十分かかった。


「えっと、私たちもまだよくわからないんですが、どうやらこの世界に最近、魔王とかいう奴が現れたと聞きまして。私たちはそいつを倒すために旅をしているんですが……」

「なんと、君らみたいな小さな女の子が……?」


 村長さんは少し驚いた様子を見せたが、すぐに腑に落ちたみたいだった。


「しかしまあ、あの塔の魔物を倒すくらいだから、十分ありうるか……それで、何について聞きたいのかね?」

「恥ずかしいことに、私たち魔王がどこにいるのかすらよくわかっていなくて……それを教えてくれないかななんて思って、あと魔王についての他の情報とかあったら?」


 我ながら抽象的でわかりにくいことを聞いてしまっているなあ、と思ったが、村長さんはさすがに大人なだけあって、私の拙い言葉をちゃんと理解してくれた様子。

 それからいろいろなことを教えてもらった。まず、魔王はこの大陸の外れから橋を渡って行ける島にあるらしいお城に住んでいるらしい。それは方角的にはここから南東の場所にあるが、我々が住んでいる大陸が微妙な形をしているために、歩いていくためには少し遠回りをしなければいけないとかなんとか。その魔王の城とやらがある場所までは、徒歩でも何もなければ数週間で到着するとのこと、世界が狭くて助かった。さらに大変ありがたいことに、村長さんからこの大陸の地図を貰った、これで道に迷うことはないだろうと思う、たぶん。

 ところで、その魔王とやらは、つい最近ボーフラのごとくどこからかこの世界にいきなり現れてきたらしい。魔王はこの世界を征服することを企み、淡々とその目標に向かって作業を勧めているらしく、魔王の城周辺の町や国はもう壊滅してしまった所もあるらしいとかなんとか。

 私はしょうじき、魔王を倒すという目標に対してあまりモチベーションを感じていなかったが、話を聞くうちに、魔王を懲らしめる人が必要かもしれないなあという気にはなってきた。もちろん、別にそれが私たちでなければならないとは思わないが、まあこういう役回りもありなのかなという気もしてきた。チャルとのふたり旅のついでだし、結婚式というけっこう嬉しいご褒美もある。


「あと、他に聞きたいことはあるかな?」


 ひと通り話を聞き終えて、村長さんが言った。


「チャル、何かある?」


 チャルはコクリと頷いて呟いた。


「……温泉」

「あ、そうだ忘れてた、温泉に入ってもいいですか……?」

「あ、ああ、いいとも。今日は貸切にしてあげよう。それに、今後も永久にここの温泉は無料にしてあげよう。いつもで来ておくれよ」

「わーい!」


 チャルは手を振り上げて喜んだ。チャルが嬉しそうだと私も嬉しい、私はなんて単純なんだろう。でも、私はそんな単純な自分は嫌いじゃない。


「リリスちゃん! 行くよ!」


 チャルはそう言って、私の手を引いた。



***


 カポーン。


という音が聞こえてきそうな気がした。


「気持ちいね、リリスちゃん」

「うん」


 私たちは贅沢にも、温泉を貸切にして浸かっていた。今日の塔登りでとても疲れたのも相まって、温泉のお湯が身体に染みる。

 ところで、温泉とふつうのお風呂ってどう違うんだろう、大きいお風呂って解釈であってるのかな? それとも何か根本的な違いがあるのだろうか? 温泉に浸かるのなんて初めてだからわからない。

 まぁ、隣にいるチャルは極限までだらけきった、とても幸せそうな顔をしているし、そんな細かいことはどうでもいいかな。

  今はもう夜で、周りに余計な光もないから、夜空を綺麗にイルミネイトする光源がよく見える。私たちを囲む天球面に張り付いた星々と、ひときわ目立つ、巨大な月が綺麗かつ不気味に光っていた。 

 そういえば、私の町に昔住んでいたという賢者様は魔法が使えるだけでなく、"賢い者"と他称されるだけのことはあって、とんでもなく頭がよかったらしい。そして、自分の知識の一部を本に起こして、後世に残してくれたらしい。

 私もそこそこ、賢者様の書いた本を読んだことがある。それによると、太陽も月も、地球の周りを回っているように見えるけど、でも、実は地球のほうが太陽の周りを回っているらしい。そして、その太陽も天の川銀河の中を回っており、その天の川銀河もまた、動いているらしい。そして、そんな天の川銀河のようなものがうじゃうじゃと存在しているのが、この宇宙らしい。

 そう、この宇宙はとてつもなく広いのだ。それに、その本の最後の方に、この宇宙にはブラックホールという穴があってそこから別の宇宙に行けるかもしれないとかいうことも書いてあった気がする。もしかして、この宇宙すらもたくさんあるのかな。見えないところなんて、わからないしね。

 夜空を見上げてこんなことを考えていると、この小さな地球を征服しようなんていう試みは、何ともちっぽけで、面白くないもののような気がしてくる。


「月が綺麗だねえ」


 私は言った。チャルは最初きょとんとしたが、すぐににっこりと笑って「ふふ、そうだね」と言った。その笑顔を見て、いくら月が綺麗と言っても、この子の綺麗さに勝てるものはこの世に存在しないんだろうなあという、ある種の確信めいたものを感じた。見たことないものなんて、わからないはずなのに。


「リリスちゃん、抱きついていい?」

「え、なんで?」

「なんてとなく、抱きつきたくなったから」

「まあうん、もちろんいいよ」


 私がそう返事をすると、チャルはまったく手加減なしに、ぎゅうっと、私に抱きついてきた。別に初めてでもなんでもないけど、お互いお風呂で裸なので少しだけ恥ずかしいのかもしれない。

 私も抱き返すと、チャルは私の肩に頭を乗せた。それからしばらくの間、虫や動物の鳴き声、そして、湯の流れる心地の良い音だけが聞こえる静寂が、しばらく続いたのだった。



***


「そういえばさ」

「うん?」


 私は先程から少し引っかかっていたことを聞いた。


「なんで、最初からミラちゃんを魔法で直さなかったの?」

「んー」


 チャルはちょっとだけ考える素振りを見せてから、答えた。


「絶対に覚醒させられる自身があったわけじゃないっていうのと、あの塔の魔物を倒しておかないと、根本的な解決にはならないと思ったからかなあ」

「なるほど」

「うん」


 私たちが使っている温泉から空を見上げると、さっき登った高い塔がよく見えた。その後も、お互いのぼせてふらふらになるまで湯船に浸かり続けた。


***


「チャル、朝だよ」

「んー、眠いー」


 次の日の朝も、私の方が先に起きた。これはいつもの事だ。温泉にこれでもかというほど浸かり、のぼせにのぼせた私たちは、村長さんの親切で、この村の宿に無料で止まらせてもらった。私だってもう少し寝ていたい時間だが、我々はまだ旅の途中なのだ。そんなにのんびりはしていられない。

 八割くらい寝ぼけているチャルを無理矢理起こし、私は宿を出る支度をする。

 

 村長さんに一言挨拶とお礼をして、私たちは村の入口についた。


「じゃあ、行こっか」

「うん」


 いい村だったなあ、温泉もよかったし、離れるのが惜しいくらいだ。なんか、今後も温泉無料で入れるらしいし。また来たいなあと思う。

 そんなような感慨に浸っていると、後ろから誰かが走ってくるような音が聞こえた。その音を聞いて私が向くよりも速く、


「おねいちゃん!」

 

という声が聞こえて、小さな女の子がチャルに勢いよく飛びついてきた。


「うわ、びっくりした」


 その女の子はミラちゃんだった。


「あ、よかったぁ、目が覚めたんだね」


 チャルはミラちゃんの頭を撫でながら言った。


「うん、おねいちゃんたちが助けてくれたんでしょ? おじいちゃんがお礼してきなさいって、ありがとうなの!」


 なんというか、なんで小さな子の笑顔はこんなに眩しいんだろう。


「うん、こちらこそ、お礼にくるなんていい子だね」

「えへへ」


 チャルは中腰になり、ミラちゃんと目線を合わせて頭を撫でている。なんだか……。


「じゃあ、また村に遊びに来てねなの」

「うん、きっとまた来るよ」


 チャルがそう言うと、ミラちゃんはまた、元気に走り去っていった。元気になってよかった。


「じゃあ行こっか」

「うん」


 私はチャルの手を強く握って、ふたりで村を後にした、地図を片手に次の場所を目指して。

  


***


 村を背にして、私たちはその森の中を歩いていた。


「リリスちゃん、もしかして機嫌悪い?」

「なんで? そんなことないけど」

「嫉妬してんでしょ」

「は、誰に?」

「ミラちゃん」

「まさか、いくら私でもあんな小さい女の子に嫉妬したりするわけないでしょ」

「どうだか、リリスちゃんの嫉妬深さは病気レベルだからなあ」

「……それはチャルも同じでしょうが」

「まあね。でも大丈夫だよ、私が一番好きなのはリリスちゃんだけだから」


 そう言うと、チャルは私を思い切り抱きしめた。


「そんなの、わかってるもん……」


 しょうじき言うと嫉妬していた私は少し恥ずかしくなった。そんなに抱きしめられては歩けないよ、と私は思ったが、何も言わなかった。




To be continued.




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