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Magical binary system  作者: 最上葉月
5/27

四日目 疲れたから癒やして


「わー、すごいねリリスちゃん」


 チャルは例の塔、プラリーネの塔を見上げながら言った。確かにすごいかも知れない。だって、塔を見上げても、てっぺんは霞んで見えやしない。こんなに高い建造物は初めて見た、一体誰が作ったんだろう。


「とりあえず、入る?」

「うん、そうしよ」


 塔の一番下には入り口らしき大きな扉があった。


「あれ、開かないね」


 私はその扉を開けようと、扉の取っ手を引いたが開かなかった。どうやら鍵がかかっているらしい。


「戸締まりちゃんとしてるなんて、魔物もしっかりしてんだね」

「感心してる場合じゃないでしょ?」

「だよね」

「チャル、開けれる?」

「うん、任せて」


 チャルはそう言うと、右手を扉についている鍵穴にかざした。そして、手のひらからほんとうに微かな光を発したかと思うと、次の瞬間、


ガチャガチャガチャ!


 と、何が起こってるかはわからないが、鍵穴の中から異音が聞こえた。


「開いたよ」


 チャルは扉を開きながら言った。


「わお、さすが」

「でしょ」


 こういうのは器用なチャルのお家芸だった。


「チャルってやろうと思えば泥棒で食べていけそう」

「やろうと思えばね」


 まあ、やろうと思わないことは私が一番知っている。

 私たちはその強引に開けた扉から、塔の中へと入った。

 塔の中をぐるりと見回してみる。通路が入り組んで絡まりあっており、ところどころに扉があった。うーん、どこへ進めばいいのか全くわからない、そこはまるで迷路のようだった。

 何階建てかすらも全くわからないが、横にも縦にもかなり広そうだ、それはわかる。特に、縦に。


「なんか迷路みたいだけど、どこ向かえばいいの?」

「うーん、とりあえず上に向かって登っていけばいいんじゃないかなあ」


 いやまあ、それはそうなんだろうけど、登るったって……外から見上げててっぺんが見えないような塔なのに……。なんだか、少しめまいがしてきた。



***


「アイスストーム!」


 私がそう叫ぶと、目の前に強烈な冷気の嵐が沸き起こる。その嵐によって私たちに襲いかかってきた魔物の群れが一瞬で凍結し、そのまま粉々に崩れ去った。


「はあ、この塔は魔物だらけで疲れるね」

「うん、ちょっと休憩しよ」


 村長さんも言っていた通り、この塔のなかはたしかに魔物の巣になっているらしい。塔を登り初めてからというもの、ちょっと歩けばすぐに魔物が襲ってくる。こうも魔物がひっきりなしに襲ってくるとさすがに疲れてしまう。特に、狭い塔の中での戦闘というのは、塔が壊れない程度に魔法の威力を抑えないといけないということがあって、そこがまた、精神的な疲労を加速させる要因となっている気がする。

 あれから数時間くらい塔を登ってきたが、いま何階かは忘れたし、あとどれくらいかもわからない。窓もないから外見えないし。

 ゴールが見えないマラソンというのは、一番辛い。


「ふぅ……」


 私はため息をついて、塔の壁に寄りかかって座り込む。チャルも私の横に並んで座った。こんなときにもにこにこしているのがチャルのすごいところだなあと思う。そしてそれは、私にとってこの上なくありがたいことでもある。


「リリスちゃんおつかれ?」

「うん、けっこう」

「そっか、ちょっとそのままにして」


 そういうとチャルは私のおでこに右手を添えて言った。

 

「ヒーリング」


 チャルがそう呟いた瞬間、額に添えられたチャルの手のひらから、なんとも形容詞難い、とても心地のいいなにかが私の身体に流れ込んでくるような、そんな不思議な感覚に襲われた。そして、私の身体に蓄積されていた疲労が、わたあめを水で溶かしたみたいにどこかへと消えていった。


「うえ、えええ」

「どう?」

「すご、なんだろ、疲労が飛んでったよ」

「ふふ、よかった」


 にこっと笑って、チャルは言った。

 しかしチャルはこんなこともできたのか、これでまたしばらくは頑張れそうだ。好き。


「チャルこんなこともできるんだね、ありがとう」

「どういたしまして」


 チャルは魔法でどこまでできるんだろう。普段は魔法使ったりしないから、私もチャルがどんな魔法を使えるのかはぜんぜん把握できていない、本人は把握できているのかな? 魔法に関しては、私よりもチャルのほうが数段勉強家だから、もしかしたらできているのかもしれない。


「そういえば、隣の部屋に、宝箱があるみたいだよ」

「え!」


 宝箱という言葉に反応して、疲労が消えた私は飛び跳ねて立ち上がった。


「なにそれすごそう! みにいこういまいこう!」


 私はチャルの手を引いて無理やり立ち上がらせると、そのまま手を引いて隣の部屋へと駆けた。


「ほんとだ、チャル見てー」

「おおー、宝箱なんて始めてみた」


 そこにはとても立派に見える赤色の宝箱があった、それもふたつ。


「こういうのって誰が置いてんだろうね」

「ここに住んでる魔物のへそくりみたいなもんじゃない?」


 チャルはそんなことを言っていたが、私は違うと思った。


「あれ? というか、チャルってなんで隣の部屋に宝箱があるってわかったの?」

「あっ」

「えっ」

「透視、的な」

「え、チャル透視なんてできるのすごい」

「うん、あんまり言いたくなかったけどね」

「え、なんで?」

「……」

「……あ、もしかして私の服とかってこと?」

「否定はできない」


 ……。

 まあ、いいか。これは聞かなかったことにしよう。


「とりあえず、これ開けてみようよ」

「うん、鍵かかってるから私が開けるよ」


 チャルはそう言って、朝飯前と言わんばかりに、ほんの一瞬でその鍵のかかった宝箱を開けた。

 私は期待を胸に宝箱の中を覗き込んだ。

 宝箱の中には、麻の袋に入った、大量の葉っぱが入っていた。


「……なにこれ」

「たぶん、薬草」


 おお、これが噂によく聞く薬草か。言われてみるとたしかに、独特な、薬特有の臭いがしている。

 でも、欲しいかと言われたら、別にいらないかな……。私はこの、薬特有の臭いが好きじゃなかった。


「こぶし大のダイヤモンドとか、金でできた龍の像とか期待してたのに」

「それはちょっと期待しすぎな気が……」


 だって、"宝"箱って言うくらいなんだから、それくらい期待するでしょ!


「これ、別にいらないよねー、チャルになおしてもらった方がよさそう」

「たしかに」

「それに、薬草ってどうやって使うの? 食べるの? それとも傷口に貼るとか?」

「うーん、知らないけど、食べても美味しくはなさそうだね」


 だよね、と思った。

 それにしても、こんなゴージャスな見た目の宝箱の中に入っているのが葉っぱとはとんだ拍子抜けだ。これじゃ宝箱自体の方が価値ありそう。


「じゃあリリスちゃん、隣のあけてみれば? そっち鍵かかってないから」


 こっちは鍵かかってないんだ。というか、見ただけでわかるんだ。これも透視のおかげなのだろうか。

 ひとつめの宝箱は中身が微妙だったので、ふたつめこそはいいものが入ってますようにと祈りながら、宝箱に手をそえる。なんか、くじ引きみたいだな。

 そして、宝箱を開こうと力を入れた次の瞬間、


「ぎゃー!」


 私の叫び声が塔の中をこだました。


「な、な、な、なにこれ、なにこれ!」


 私が宝箱を開こうと力を込めた瞬間、その宝箱は牙を向いて私に襲いかかってきた、つまり、


 たからばこはミミックだった!


「ホ、ホーリーレーザー!」


 私は反射的に、後ろに飛んだ、そしてそのまま、魔物にむかって魔法を放った。

 あたりにものすごい音が響き渡る。私の手から出た強烈な光の帯が、塔の壁ごとミミックを消し去ったのだ。反射的に放ったため、塔のことを思いやる暇はなかった。

 塔の壁には大きな穴が開き、外から太陽の光が注がれた。


「う、うわぁ、びっくりした……」


 急に飛び出てきた魔物を倒したことで、私はほっと胸をなで下ろした。

 そして、私がチャルの方を見てみると、


「ふふふっ、リリスちゃん、驚きすぎー」


と、チャルは笑って涙目になっていた。


「……チャル、もしかして気づいてた?」

「ごめんー、こんなに驚くとは思わなくて」

「……いぢわる」

「ごめんごめんて」


 チャルはむくれている私の手を握って、特にいたずらしたことを反省する素振りも見せず、私の手を引いた。


「ほら、いまリリスちゃんが開けた穴から外見れば、今どのくらい登ってきたのかわかるんじゃない?」

「ん、たしかに」

「それにしても、塔が崩れてこなくてよかったね、リリスちゃん手加減しないで魔法使うんだもん、びっくりした」


 それはチャルのせいでしょ、びっくりしたのはこっちだよ、と思ったが口にはしなかった、我ながら思いやりに溢れている。

 チャルに手を引かれて、私たちは今開けたばかりの穴から、おそるおそる塔の外を見た。


「こわっ」

「うーん、1000mくらいかなあ」


 その穴から外を覗くと、小さな地球の丸さが明確に感じられた。

 また、ほぼ真下にある、さっきまでいた村ももはや豆粒のようだった。頑張った甲斐あってか、けっこう登ってきたことがわかる。


「いまどのくらい?」

「うーん、下からてっぺんが見えないくらいだから、いちばん都合よく見積もっても1/3くらいかなあ」


 こんだけ登ってあと2/3も残ってるのか……いちばん都合よく見積もってこれだから、実際はもっと残ってるってことだ。私は少しお家に帰りたくなった。


「はぁ、大変だ」


 無意識のため息が、私の口から漏れた。


「リリスちゃん、手」

「え?」


 私はちょっと滅入ってしまっていた、それに気づいてか気づかないでか、チャルは私の手を握り直した。


「ワープ」


 チャルがそう呟いた瞬間、繋いでいる私の手に強くひっぱられるような力を感じた、そして、身体が宙に浮くような不思議な感覚に襲われる。

 私が瞬きをして目を開くと、目の前にあったはずの、私が塔の壁に開けた穴が無くなっていた。


「え?」


 私が何が起こったのかわからず困惑していると、チャルが言った。


「ついたよ、最上階」

「ええ?」

「そろそろ精神的にも疲れてきたから、最上階までワープしました」


 なんと……というか、チャルがワープ使えるのは私も知ってたし、なんで最初からこうしなかったんだろう。


「もっとはやく使ってくれればよかったのに」

「うーん。前も言ったけど、ワープはできる限り使わない方向で行こうかなって」


 そういえば、前にも似たようなこと言ってたね。チャルは縛りプレイが好きなんだろうか? いや、たぶん違くて、私といっしょにする旅の時間を楽しみたいだけなんだろう。チャルはこの旅を私とふたりでの旅行のようなものと勘違いしているフシがある。

 それにしても、疲れたら使っちゃうっていうのも適当だなあ、またそこがチャルっぽいのだが。


「あ、たぶんそこが、村長さんが言ってた魔物? の部屋っぽい」


 チャルが示したほうにはいかにも偉い人が中にいそうな、物々しい、大きめの鉄の扉が佇んでいた。


「そうなんだ、じゃあ、行こっか? チャル」

「うん、リリスちゃん」


 私たちは手を握り直して、その重い扉を開いた。




To be continued.




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