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Magical binary system  作者: 最上葉月
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初日 始まりの日


 「起きなさい」


という母親の声を聞いて目が覚める。

 いつも私がいつまで寝てようと何も言わない母親が私をわざわざ起こすなんて珍しい。

 なにか特別なことでもあったのだろうか、そんなことを思いながら、私は目をこすり、自室の小さなベッドから起き上がる。

 部屋にあるクローゼットから適当な服を取り出して、寝ぼけたままパジャマから着替える。髪は寝癖でぼさぼさのままだが、家族の前に行くのにそんなことを気にする必要はない。私はそのままリビングルームへと向かった。


「おはよう、リリス。朝ごはんできてるわよ」

「ありがとう、ママ」


 テーブルの上には朝食のパンやスープなどが並んでいた。母親は特に私を待つわけでもなく、すでに自分の朝食を食べ始めていた。


「そういえばリリス、王様が呼んでたわよ」


 私が椅子に座ってパンを噛じろうとしたとき、母親が世間話でもするようなトーンでそう言った。私は驚きで、思わずパンをかじったまま硬直した。


「え、なにそれ?」

「私は知らないわよ、とりあえず朝ごはん食べたらすぐに行きなさい」


 王様に呼び出されるなんてもちろん初めてだから、予想がつかない。それにしても朝ごはんを食べてすぐに行けとは、ずいぶんと急な話だなあ。


「あ、あと、チャルちゃんもいっしょにね」

「チャルも?」


 ふーむ、チャルもいっしょとなると、なんとなーくだけど、呼び出しの意味がわかってきた気がする。いや、まだぜんぜんわからないけど。

 私は朝ごはんを食べ終えたあと、一応王様に会うということだから身だしなみをある程度ちゃんとしておかなければならないだろうと思い、セミロングの黒髪を梳かし、ある程度身だしなみを整えた。特に何かを持っていく必要とかはないのかな。


「じゃあ、行ってきまーす」


 私は家のドアノブをひねり外に出た。外に出た瞬間、太陽の光が眩しい。私は手でその光を遮った。季節は夏で、空はこれでもかというくらい青かった。

 私が住んでいるのは、世界の端っこにある、小さな王国の城下町。

 この町はただの小さな城下町にすぎないのだけれど、少し有名なところがあるとしたら、近くに賢者様の家があるってところくらいかな。その昔、といってもせいぜい数十年程度の昔だけど、伝説と言われているほど偉大な賢者様がいたらしく、その人がこの町の出身だったらしい。私もそんなにその人のことをよくは知らないんだけれど、そうらしい。

 そして、それが関係あるのかないのかは知らないけど、私は先天的に魔法使いだった。

 魔法使いとは、広義には魔法が使える人間のことで、魔導師とも言う。私は女だから、魔女と言ってもいいし、ウィッチとか言っても正しい。これらの言葉は狭義には違いがあるらしいけど、私はよく知らないし、知る必要も、たぶんない。

 ちなみに、賢者という呼び名は魔法使いとか魔導師とかと違って、該当する人間がいまに言った賢者様しかいないので、ほぼ固有名詞として使われる。その呼び名の通り、賢者様は魔法のことに限らず、とてつもなく賢かったらしい。私も賢者様の書いた本はたくさん読んだことがある。

 たぶん今回の呼び出しは私が魔法使いであることとたぶん関係あるんだろうなー、と疑っていた。

 そんな予想をたてながら、私はチャルの家に向かって歩く。

 ちなみに魔法使いというのはかなり珍しくて、この世界は広いけれど、この世界には現在、ふたりしか魔法が使える人間はいないらしい、そのうちのひとりが私なのであった。


 コンコン


とチャルのうちのドアを叩く。数十秒待ってみても返事がないので、いつも通り私は勝手に上がり込み、チャルの部屋に入った。チャルは部屋の中心にある、部屋のサイズに対しては大きすぎるベッドの上で、うつ伏せで寝ていた。


「チャル、起きて」


 私が声をかけても、全く起きる気配がない。


「チャル」


 ゆさゆさと、声をかけながら私はチャルの肩を揺すった。


「ん……?」


 明らかに寝ぼけた声をだして、チャルはこすりながら、綺麗な目を開いた。


「わ、リリスちゃん? なんで私の部屋にいるの?」

「起きて、朝だよ」

「んー、リリスちゃんだっこー」

「寝ぼけてる? なんか王様が呼んでるらしいからいっしょに行くよ」

「え、なにそれ知らない……」


 私も知らない。

 私はまだ眠たそうにしているチャルを無理やり起こし、出かける準備をさせた。チャルのお出かけの準備が終わって、ようやく私たちはお城へ向かうことになった。遅刻とかは、ないよね。



***


 並んで手を繋ぎ、お城へ向かって歩く私とチャル。さすがに故郷だけあって、この町並みをふたりで歩くのもだいぶ板についている。周りを流れる風景は見慣れたものばかりで、真新しいものは何もない、それが落ち着く。

 隣を歩いているチャルは、私の幼馴染の女の子で、13歳。

 雰囲気はなんとなくふわふわとしていて、かなりの変わり者だがいい子。病的なまでに色白で、髪は膝につくくらいまでのかなり長い金髪に、くりくりとしたピンク色の目をしている、とてもかわいい女の子だ。身長は私よりもすこし小さいくて、正面を向いて向き合っても目が合わない。

 あと、ついでに私の自己紹介をしておくと、私の名前はリリス。チャルと同い年で13歳。ただ、魔法が使える以外にはそれといった特徴はないかな、天使と形容するに相応しいチャルと比べると、どこにでもいそうな女の子です、と思う。

 まあでも、魔法が使えるっていうのはかなり珍しいから、これだけで、私はかなり普通じゃないですと自己紹介してもいい気もする。そんなところかな、自分の自己紹介をするって、案外難しい。

 気づけば、私たちはお城に到着していた。小さな国だから、歩けばすぐに、町の真ん中にあるお城に着く。

 お城の門には門番らしき人がいたが、王様に呼ばれたことを伝えるとすぐに通してもらった、なんとなくだけど、VIPになった気分。

 そのまま王様がいる部屋まで案内され、私たちはその部屋の扉の前まできた。

 私たちの国の王様はかなり柔らかい人であり、国民からもかなり好かれている。私も城下町でたまたま買い物をしていたときとかに、少し声をかけられたことなどがあるが、王室に名指しで招かれるのは初めてだった。さすがに、緊張する。


「うわー、大きな扉」

「すごいね、というかなんで私たち呼ばれたの? リリスちゃんわかる?」

「いや、ぜんぜん……まあすぐわかるでしょ」


 大きくて重い扉をふたりで開き、中へと入る。


「おお、よくぞきてくれた」


 その部屋は思ったほどは広くはなかった、といってももちろん、私の部屋なんかよりはぜんぜん広いが、これが謁見の間というやつかな。部屋の真ん中には豪華な椅子があり、そこに王様が腰をかけていた。あれが王座っていうのかな。ただ、王様は別にふんぞり返っているというわけでもなく、いたってふつうに座っていた。


「ええと、おはようございます」

「……」


 なんて言えばいいのかよくわからなかったので、とりあえず私は挨拶をした。チャルは黙っていた。時刻はもう正午を回っていたので、こんにちはと言うべきだったなと、言ってから気づいた。


「リリス殿、チャル殿、なぜ呼ばれたか検討はついているか?」

「えっとぉ、ぜんぜん」


 私は応えた、ほんとうは全くのぜんぜんということはなかったが、まあこういっておいた方が詳しく説明してくれるだろう。

 私の返事を聴いた王様は、右手を口元にやり、咳払いをして、さらに深呼吸をしてから、言った。


「ふたりには、世界を救ってもらいたい」


 え。


 思わず固まる。

 チャルは黙ったままだったが、たぶん、同じく驚いている。

 なんか頼みがあるんだろうくらいのことは予想していたけど、思っていたよりもだいぶスケールがでかい。世界を救ってもらいたいときたもんだ。こういうのは勇者とかに依頼すべきでは? とか思ったけど、もちろんそんな職業の人は、この国はおろか、世界のどこを探してもいないだろう。


「ええと? 世界を救ってとはいったい……?」


 私がそう聞くと、王様は神妙な面持ちで語り始めた。


「いまから少し前に、大陸の向こう側に魔王的なやつが現れたらしい」

「は、はあ」


 魔王的なやつとはいったいなんなんだ。というかそんなボーフラみたいにいきなり湧くものなのか? などと様々な疑問が浮かんだが、王様の話は続いた。


「そいつを退治してきてくれないか?」

「え」


 いやいや。


「退治ってそんな、無理ですよ」

「たのむこのとおりだ。この国、いや、この世界で頼れるのは君たちふたりしかいないのだ」


 王様はその身分にはふさわしくないほど、頭を下げて言った。


「いや……そうかもだけど……」


 魔法が使える私たちに頼むというのは理屈としてはわからなくはない。しかし、そんなこといきなり言われても、そもそも魔王って私たちで退治できるのか? 私は魔物と戦ったことだってあんまりないのだけど。

 言い忘れたけど、世界にふたりだけ存在するらしい魔法が使える人間のうちの、私じゃないほうのもうひとりは、となりで窓の外を眺めているチャルだった。

 しかしながら、目の前で王様に頭を下げられるとさすがに、断るに断れない。私は困ったので、とりあえずチャルに聞いてみることにした。


「ええと、チャルはどう思う……?」

「ええ……うーん、めんどくさい……」

「……」


 だそうです。


「そもそも、その、魔王的なやつっていると困るんですか? わざわざ退治しなくても……せっかくこの世界に生まれてきたのに」

「困るとも! もう既に魔王の城の近くにあるいくつかの村や町は滅ぼされてしまったらしい! このままではこの国にもいつ危害が及ぶかわからないのだ!」

「あー」


 たしかに、それは、困る。


「ええと、じゃあ、えーと」


 どうしよう。


「わかった! もし、ふたりが魔王を倒し、この世界を救った暁には、私ができる範囲でなんでも願いを聞いてあげよう!」

「ええと」


 しょうじき、王様ができる範囲って美味しいものいっぱい食べるくらいのお願いしかできなそうだなぁ、と私は冷めていたが、ふと隣に目をやってギョッとした。今の今まで眠そうにしていたチャルが目をキラキラと輝かせているではないか。


「えっと、チャル? 何がお願いしたいことでもあるの?」

「結婚式!」


 チャルがそう言った。


「え、結婚式?」

「結婚式したい! 盛大に!」

「なるほど。結婚式くらいぜんぜん構わん、世界を救ってくれたら、国をあげてそれはもう盛大に結婚式を挙行してやろう!」

「やったー!」


 チャルは両腕を振り上げてぴょんぴょん跳ねていた。なんだこれ、展開についていけてない。


「じゃあリリスちゃん、行こっか?」

「え、行くの?」

「あたりまえでしょ、結婚式だよ? リリスちゃんもしたいでしょ!」

「ん、まあ……」


 さっきまでぜんぜんやる気なかったのに、いきなり火がついたなあ。しかし、たしかに、王様が壮大に挙行する宣言するほどの結婚式はとなると、私もさすがに気になる、けど……。

 それにしてもチャル、見事なまでにご褒美に釣られたなぁ……。怪しい人についていかないか、私心配。


「それでは、健闘を祈る」

「あ、はい」


 そんな理由で、私たちは魔王を倒すべく、あまり深くはない旅にでることとなった。いろいろと不安すぎるけど、大丈夫なんだろうか。


「長い旅になるだろうから、出発前に準備をしないといけないだろう、なにか必要なものはあるか? あったらできる限り用意する。何でも申し付けてくれ」


と王様が言った。

 長い旅かあ、最初はあんまり乗り気じゃなかったけど、旅とかしたことないし、よく考えてみるとちょっと楽しそうかもしれない。それになにより、チャルとふたりだし。

 ところで、旅に必要なものって何があるのかな? 


「チャル、何か必要なものとかある?」

「うーん? 特に……」


 私も特に思い浮かばない。しかし、この先何が必要になるかも予想がつかないようでは、先が思いやられる。


「えっと、特にないので、とりあえず大丈夫です。じゃあ行ってきます」

「そうか……。それでは、検討を祈る」


 そう言って、私たちは王様を背に、その部屋から外へ出た。


「わー、楽しそうだねえ」


とニコニコしながらチャルは言った。さっきはめんどくさそうとか言ってたのに、単純だなあ。

 でもまあ。


「チャルが楽しいならまあいいか」

「だって、ふたりで旅行なんて久しぶりじゃない? それにご褒美に豪華な結婚式もしてくれるって!」


 旅行という感じではないんだけどなあ、と思いつつもチャルがニコニコしていると私にはなんにも言うことが出来ない。それにしょうじき、結婚式は私も嬉しいし気になる……。

 そんな自分たちの欲求を理由に、私たちの旅が始まることになった。ご褒美にまんまと釣られるのは情けないかもしれないけど、まだ子どもだから、許してほしい。



***


 家に帰り、母親にこのことを報告したが、「そうなんだ、気をつけてね」などと言われただけで、思ったよりも素っ気なかった。チャルとふたりで遊びに行くとでも思っているんだろうか? まあでも、ちゃんと親に許可をもらったので、これで後ろめたいこともなく旅に出られる。

 ちなみに、私たちは一時間後に、旅の準備をして町の入り口に集合という約束をした。別に今日すぐに出発しなければいけないというわけでは全くないのだけれど、まあ、早いに越したことはないだろう。

 ところで、準備って何をすれば良いんだろう。当たり前だけど、魔王を倒す旅なんてしたことないから、何を持っていけばいいのかもわからない。こんなことなら、王様に"魔王を倒す旅のしおり"でも用意して貰えばよかったかな、と少し思った。

 ところで、これから本当に魔王を倒す旅に行くんだよね? まだいまいち現実味がない。というかあまりに唐突すぎて、現実味を帯びるのが間に合ってない。

 まあでも、旅の始まりなんていうのは、けっこう唐突なものなのかもしれない。そんな風に思った。



***


 私が一時間を少し過ぎて待ち合わせ場所に行くと、チャルはもう待っていた。チャルは小さいけれど、金髪の輝きで遠くからでもすぐにわかる。


「あ、リリスちゃーん」

「ごめん、おまたせ」


 私はいつものようにチャルの手を取る前に、立ち止まってチャルの格好を上から下まで舐めるように眺めた。


「……」

「?」


 チャルは完全にいつもの私服だった、夏物のワンピース。確かにいまは夏だけど……。

 これからしばらく旅にでるということをわかっているのかな、そう疑問に思わざるを得ないような格好だったけれど、まあ、チャルはかわいいし似合ってるからいいか。私も、言うほど旅にふさわしい格好とは言えなかったし、というか、魔王を倒す旅にふさわしい服なんて、ふつうの家にはない。

 そんなわけで、細かいことは気にせず、私はいつもの通りにチャルの左手を握って、横に並んだ。


「じゃあ、行こっか?」

「うん、れっつごー!」


 そんな間の抜けたような掛け声とともに、私たちふたりは、魔王を倒して世界を救うという、壮大な目標を達成すべく、旅を始めたのだった。




To be continued.

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