97 謁見の間
立ち上る闘気がビリビリと圧迫する。
俺達と魔王との最終決戦が今まさに始まろうと、しなかった。
「ぷしゅぅ」と浮き輪に穴が空いたような音がすると、闘気が萎んでいく。
同時に身体も一回り小さくなった魔王は人懐っこい顔をしながら頭を掻いた。
「いやぁ~。1度で良いから言ってみたかったんですよ、この台詞」
「は?」
「おい、アルファ。
お前が『出迎えるなら相応の対応をしないとね♪』などと言ったから付き合ってやったのに10秒しか持ってないじゃないか」
「まぁまぁ。皆様お疲れのご様子。
今日のところは挨拶だけにして、積もる話はまた明日に致しましょう。
皆様も武装を解除していただいても大丈夫ですよ」
横に控えていた男性が手をサッと手を上げると部屋の中が明るくなり、全員の顔が見えるようになった。
皆も俺が率先して魔道具をしまうのを見て、魔法少女から元の姿に戻った。
それを見た魔王を名乗った青年、もとい少年は黒髪の整った顔立ちでサンシャイン達に笑顔を向けた。
「では改めて自己紹介といこうか。
俺はこの天空都市の管理者であり、この天空城の主のクルム・アルファだ。
外から挑んで来た冒険者には魔王クルマルファとして試練を与える役割をしているよ」
「これまで誰一人として来たことないけど」
「普通に観光名所ですからな」
「そうなんだよ~。折角マスターから頂いた役割なのに全然出番が無いんだよ」
そう言ってため息をつく魔王改めてアルファ。
その肩に手を置いたのは横に控えてた男性セバースさんだ。
「良いではないですか。
我らがマスターも遊び心で付け加えた役割なのですから」
「そうだけどさっ」
「先ほどもご挨拶させていただいた通り、私はセバースと申します。
この天空都市の維持管理全般を務めております。
皆様におかれましては執事だと思っていただければ十分かと存じます」
不貞腐れるアルファを宥めつつセバースさんも挨拶を済ませる。
どうやら島の管理はセバースさんがほとんどやっているのだろう。
あと、さっき扉の前ですぐに何処かに行ったのは、翻訳の魔道具を複製するためか。
よく見なくても俺が作ったのとは若干異なる魔道具をアルファと後ろの女性が持っているのが分かる。
その女性は燃えるような赤い髪を腰まで伸ばした20代後半くらいの美女だ。
鋭い目付きから意思の強さが伺える。
「私が最後ね。
レアよ。この二人と違って私はこの島専属の住人という訳ではないわ。
今回は次元の穴を通ると聞いて面白そうだったから同行したの。
普段遊びに来たときは島に近づく外敵の排除なんかをやったりするから、役割で言えば警備隊かしらね。
ちなみに。
強い人が好みよ。そこの彼とかね」
そう言ってウィンクを飛ばしてくる。
それを見たみんなは慌てて俺を隠すように前に出た。
「ちょっと。突然出てきて鞍馬君に色目使わないでよ、おばさん」
「お、おばさん!?」
「うっ」
サンシャインのおばさん発言に央山先生もダメージを受けてる。
「失礼ね。私はまだ100年も生きてないのよ。
あと外観年齢くらい自由に変えられるんだから。
……ふん、これでどう?」
ふぁさっと髪をなびかせたかと思ったら、レアさんの姿が俺たちと同い年くらいになっていた。
「な、なんてうらやましい……私もあの魔法使えないかしら」
「いや先生。ドラゴンの変身魔法は人の身では扱えませんから」
「え、ドラゴン?」
「あら、やっぱりあなたは分かるのね」
そういって笑うレアさんはさっきまで抑えていた魔力を開放した。
とたんに部屋を覆う魔力は、ついさっき俺たちを島まで連れてきてくれたドラゴンと同じものだった。
『念話で話せば、より分かりやすいかしら。
ドラゴンの姿の時は威厳を出すためにあの口調だったけど、あれ疲れるのよね』
その言葉を聞いたみんなもすぐに、さっきのドラゴンがこの女性なんだと納得したみたいだ。
その後、俺たちも一通り名乗った後、今日のところは解散ということでそれぞれ客室に案内してもらった。




