95 異界からの使者
上空の飛行物体が無くなり、よし今度こそと思ったところで新たな異変が起き始めた。
ズズズズ……
「な、なに?地震!?」
「いえ、これ揺れてるのは地面じゃないです。
どちらかというと空気というか。
あっ、見てください。次元門が!!」
辺り一帯が大音量の重低音を流した時のように腹に響く振動を受けながら、一斉に上空を見上げる。
そこには先ほどまで安定していたはずの次元門が徐々に広がっていく様が見えた。
この振動は次元門の活動による空間振動によるものだろう。
「リュージュ!今度は一体何をしたの??」
「何をって、俺はまだ何もしてないよ」
……これからしようとは思っていたけど。
「今これからやる所だったのにって顔したわね」
「うっ。まぁそうですね」
シリカ先輩はよく見てらっしゃる。
ま、とはいっても特に疚しいことがある訳じゃないから良いんだけど。
ジト目のみんなを代表して続けて質問を投げかけてきた。
「それで、何が起きているのかはわかっているのでしょう?」
「そうですね。俺がやろうと思っていたことを先に向こうからしてくれたみたいです」
「向こう?」
「はい、穴の向こう。つまりは次元門をつなげた先の世界です。
ほら、そうこうしている間にもうすぐ来るみたいですよ」
先ほどまでの振動は鳴りを潜め、次元門も安定している。
ただし、大きさは半径2キロを超えていそうだけど。
そして俺たちが見守る中、再び次元門が動き出した。
ただし今度は中央からこちら側に盛り上がっていくようにも見える。
「……もしかして、特異点と同じように魔物が出てくるの?」
「嘘でしょ。小さい島一つ分くらいはあるわよ。そんな魔物なんてどう対処するのよ」
「リュージュが何とかしてくれる、というか何とかしなかったらどうにもならないレベルね」
みんなが色々な憶測を立てている間にも、それは次元門から抜け出し、その全容を現した。
半径2キロにわたる真っ黒い球体。
それがまるで重力なんて関係ないかのように静かにゆっくりと降りてきて、俺たちの斜め上方、海抜1000メートルくらいのところで止まった。
そしてチカチカと光ったかと思ったら黒い部分が薄くなって消えていき、中から島が出てきた。
『どもども~。
異世界の皆様、こんばんは~~』
「「……」」
『元気がないぞもう一回、こ~んば~んは~~。うーん、ノリが悪いなぁ』
「いや、ノリが悪いんじゃなくて言葉が通じてないから」
突然聞こえてきた軽いノリの放送にみんな唖然としている。
ルミナさんなんて持っていた武器を落としてしまっていた。
ま、それも仕方ないか。
彼女からしたら人類存亡の危機かもしれないって緊張していたところにこのノリだ。
言葉は分からなくても雰囲気は伝わってくる。
そして俺たち全員がいま心の中でこう思っているだろう「空気読め」と。
その思いが通じたかどうかは分からないけど、島からの放送が止まり、代わりに何かが島から飛び立ちこちらへと向かってきた。
「あれは……ドラゴン!?」
遠くからでも分かる巨大なフォルム。そう、紛れもなくドラゴンだった。
ルビーのように美しく赤い光沢を放つうろこに身を包んだドラゴンは、俺たちの前に降り立つとゆっくりと口を開いた。
「ガゥ」
『先ほどはうちの馬鹿が失礼した。
貴殿らがあの次元門を開いたこちらの世界の代表だろうか』
実に丁寧な言葉遣いが直接脳に届く。
なるほど、念話か。これなら確かに言葉が分からなくても意思を伝えられるな。
ただみんな、驚きすぎて口を開けないでいるけど。
まぁそれもそうか。
いつの時代も魔神とドラゴンって言ったらラスボス認定されるからな。
気を失っていないだけ偉いと思おう。
そして念話が使えるのはこの場では俺しかいない。
『ああ、そうだ』
『そちらの貴方は念話が使えるのだな。良かった。
よければ貴殿らを天空都市へと招待したいが、如何か』
言葉が通じたことで若干緊張が解けたのか、声からの圧力が穏やかになった。
『それはこちらとしてもお願いしたい』
『分かった。
では、こちらに乗られよ』
そう言うと同時に、アイテム空間から巨大な籠を取り出した。
籠にはしっかりとした持ち手が付いていることから、俺たちが乗り込んだらこのドラゴンが運んでくれるのだろう。
「という訳でみんな。あそこに行きたい人は籠に乗り込んで。もし嫌だったら待っててくれても……」
「リュージュ、早く!」
「あとはリュージュだけだよ」
「って早いな」
後ろを振り向けばすでに皆の姿はなく、籠の中から早く来いと手を振っている。
ま、怖がられるよりいいか。
そう思いつつ、俺も籠に乗り込んだ。
『では行くぞ。離陸時は揺れるから縁につかまっていろ』
そう一声かけたドラゴンは籠の持ち手を咥えると天空城に向けて飛び上がるのだった。
島のサイズ感については後で調整が必要かも。