94 開通工事と無粋な横やり
上空に開けた穴を見ながら俺は杖を持った手に力を込めた。
穴からは時折、太陽フレアのように黒い魔力が噴き出しては戻っていく。
今回、次元の穴を作るのに大量の魔素が必要だったんだけど、この世界で集められる量には限界があった。
だから、超大型電磁コイルと魔法を併用したプラズマ放射装置を使って足りない分を補填してみたんだが。
「ま、流石に無理があったな」
無事に次元の穴は出来たけど、今のままでは不安定すぎて安全に通り抜けることが出来ないし、何もしなければ10分と経たずに消えてしまうだろう。それも大爆発を伴って。
だからここからが本番。ここからはミスが許されない。
俺は慎重に周囲に存在する魔素を操っていく。
先ほどの四聖獣のお陰でろ過された周囲の魔素。それを糸のように細く長くまとめ上げる。
続いて、その4本の糸を空中で1枚のベールのように編み込んでいく。
「きれい……」
まるでオーロラのように空を舞うそれを見てサンシャイン達から感嘆のため息が聞こえてくる。
その声を背中に受けながら、出来上がったもので穴の外周を覆っていく。
そうするとさっきまで激しく揺れ動いていた穴が次第に安定し始めた。
数分後。
無事に安定した次元の穴は、よく言えば皆既月食のようにも見える。
まぁ月にしたら大きすぎるけど。
コォーーーー……
「……ん?」
さて次の段階に移ろうかとしたところで何かが聞こえてきた。
あれは、飛行機か?
知っている飛行機のフォルムと若干違うが、確かにそれは空を飛んでいた。
さっきの音はそれのエンジン音のようだ。
さらに俺たちのほうにも何かが飛んできた。
こちらは若干見覚えがある。恐らく国連のロボットだろう。前の時より一回り大きい気もするが。
『お久しぶりね。リュウジ・クラマ』
ズシンッ、プシュー……
外部スピーカーから俺に声をかけてきたロボットは、目の前に降り立つと胸の部分が開いてルミナさんが出てきた。
なるほど、前のと違って有人ロボットになっているのか。
「こんばんは、ルミナさん。またずいぶん格好いいものに乗っていますね」
「分かる?先週出来たばかりの最新型なのよ!
って、そんなことよりも、あなたにはお礼を言わないといけないわね」
「お礼?」
はて、何かお礼を言われるようなことをしただろうか。
前回はほぼ喧嘩別れみたいな形でお帰り頂いたはずだし。
そう首を傾げていたらルミナさんが上空の穴、次元門とでも呼ぶか、を指さした。
「あれよ。あれは以前あなたが言っていた魔法世界に繋がっているのでしょう?
一足先に我々の探査機を送り込ませてもらうことにしたわ」
なるほど、あの謎の飛行機は国連の機体か。
その飛行機は俺たちが見ている中、次元門へと突入していった。
「ちなみにあの飛行機は有人ですか?」
「いいえ、無人よ。各種計器類を搭載して無事に通行できるか確認させる為のものよ。
もちろん上手くいけば後続の有人の特殊部隊が突入する手筈になっているわ」
「そうですか、それはよかった」
そう言っている間に、門から金属片がボロボロと落ちてきた。
「失敗?」
「ですね。次元を超えるのには物理的な耐久力だけではもたないから」
こっちの世界の魔法技術では残念だがまだまだ無理だろう。
俺ですら今のままだと自分ひとりが行き来するのが精々だ。
「ならどうすると言うの?」
「簡単な話です。こっちからいけないなら向こうから来てもらうんです。
まぁ悪いようにはしないので、黙って見ていてください。
あ、いや。出来ればあの人たちを黙らせて置いてもらえると助かります」
「残念ながらあちらには私の命令は届かないわ」
国連の無人探査機に続き、明らかに有人と思われる戦闘機や、果ては宇宙ロケットと思われる機体までがこぞって次元門に飛び込んでいく。
型式がバラバラなところを見ると、どうやら世界各国から来ているようだ。
更にミサイルや魔法などなどを穴に打ち込んでいる。
うん、邪魔くさい。なので。
「クラリスさん。さっきのガトリング砲貸してください」
「あ、はい」
俺はクラリスさんからガトリングを受け取ると、穴の周りを飛んでいる飛行物へと狙いを定めて引き金を引いた。
秒間数百発の魔力弾が意志を持っているかのように複雑な軌道を描き飛んでいく。
そして一瞬にして空に爆炎が広がった。
「ちょっ」
「大丈夫です。撃ち落としているのは、まずは無人のものだけですから」
そう言っている間にも次々と撃ち落としていくと、流石に危険と思ったのか、有人の飛行機が母艦がいるだろう方向に飛んで行った。
よし、これで時間ができたな。
もしかしたら今度はこっちを攻撃してくるかもしれないけど、その時はその時だ。
ま、そんな余裕は無くなるだろうけど。




