93 本来のレベルはこれくらいです
Side ****
世界が光と轟音に包まれる。
矢のように天空から降り注いだ数十の雷は、しかしサンシャイン達の周囲に展開された障壁によって弾かれた。
「きゃあっ」
「これは……」
「確かにさっきの比じゃないわね」
障壁の外側はまさに天の怒りと表現するのがぴったりな地獄絵図が展開されている。
「これって多分、音も光もかなり軽減されているんだろうね」
「そうね。じゃなかったらこんな至近距離で雷が落ちてたら会話なんて出来ないでしょうし」
「それより、リュージュは?」
「あっ」
みんなが視線を上空から戻すと、さっきまで居たはずの黄龍もリュージュも姿を消していた。
「いました。あっちです!」
いち早く発見したレインの指した先では、朱雀や白虎がスローに思えるほどの速度で飛び回る黄龍が見えた。
時々腕を振るったり、尾を振り回しているところを見ると、恐らくリュージュがそこに居るのだろう。
残念ながらリュージュの姿は黄龍に隠れて見えない。
ガギィン!!
まるで大質量の金属同士がぶつかり合ったような音を立てて、黄龍が吹き飛んでくる。
背中から障壁の上に落ちた黄龍は大したダメージではないようにすぐさま飛び上がった。
『GRUUUッ』
黄龍が息を吸うと、周囲の雷が集まってくる。
向こうを見ればリュージュが散歩するような気軽さで歩いてくる。
その顔にはいつの間にかサングラスがはめられ、右手には金属でできた棒を持っていた。
『GA』
「ほいっ」
黄龍が雷のブレスを放つと同時にリュージュが手に持っていた棒を投げた。
瞬間、まるで地上に太陽が出来たかのような閃光が辺りを包み込む。
障壁の中は、それでも真夏の太陽を直視した程度、つまり手で光を遮る程度で済んでいた。
光が収まった後は、まるで花火をやった後のように白い煙で何も見えなくなっていた。
「……なんというか、ほんと私たちじゃ手が出せないレベルだね」
「うん。次元が違いすぎるね」
「さっきのリュージュの話からすると、四聖獣もこれくらい強かったのかも。
もしそうだとしたら、レインの突撃は無謀としか言いようが無かったね」
「うっ、すみません」
「無事だったからよかったけど、帰ったらお説教ね」
「はい」
「まぁ何はともあれ、無事に戻ってこれて良かったわ」
項垂れるレインの頭をウィンディが優しく撫でる。
そうこうしている間に風が吹いたのか煙が晴れた。そこには高電圧によって溶けた地面が……無かった。
リュージュも黄龍も特に変化は見られない。
「え、あれだけの大爆発があったのに、何ともない!?」
「まぁぼちぼち良いぐらいだな」
サンシャインのつぶやきに見当はずれな回答が返ってくる。
その回答をした張本人、リュージュはトントンっと軽いステップを踏んだ。
すると一面に光の文様が浮かび上がる。
更にはどこからともなく巨大なモーターか何かが回り出した様な振動と重低音が響き渡った。
「今度はなに!?」
「今日のメインイベントさ。ようやく十分な電力が溜まったからね」
「電力って、もしかしてさっきから黄龍の雷撃を溜めて発電機代わりにしてたの!?」
「まぁね」
金属でできた地面は落雷やさっきのブレスを軒並み吸収していたらしい。
清々しい顔で頷くリュージュ。
更に一歩強く踏み込んだかと思えば、島の外周を取り囲むように柱が立ち上がり、柱と柱が電撃で結ばれていく。
上空から見下ろせば地面の文様と相まって巨大な魔法陣になっていることが分かっただろう。
「あとは折角だから、魔法のお手本もやって見せようか」
トンっと軽い足取りで、しかしその場の誰もが追えない速さで黄龍へと肉迫したリュージュは、まるでサッカーボールのように黄龍を蹴り上げた。
その手にはいつの間にか1本の長杖が握られており、それの先端が黄龍へと向けられる。
すると一瞬にして直径数メートルの複雑な魔方陣が3重に展開された。
「この魔法を使うのも久々だな。穿て『神々の鉄槌』」
リュージュは小さく笑うと囁くように魔法を放った。
一瞬。全ての光が消えた。
一瞬。全ての音が消えた。
世界が止まってしまったのではないかと錯覚する中、目に映るのは杖の先から飛び出した光の玉。
まるで打ち上げ花火のように飛んだそれが黄龍に接触する。
「あっ」
息をつく間もなく光の玉が巨大化し黄龍を包み込んだ。
同時に島の外周に出来た柱から光が迸る。
数10秒に渡って続いたその光が消えた後、上空には真っ黒な穴が開いていた。