91 フォーメーション
皆様良いお年を。
青龍はレインがまさかの突撃で相打ちまで持っていってくれた。
朱雀はクラリスさん、先生ペアが牽制を続けてくれている。
玄武はいまだに穴の中でもがいてる。
これらのお陰で、なんと白虎1体に残ったすべての戦力を投入できる状態になっていた。
考えうる限りベストな状態と言ってもいいだろう。
今はシリカとサンシャインの2トップにウィンディが援護に回っている状態だ。
戦力的にはようやく五分と言ったところだけど、皆から不安な様子はない。
「リュージュ、一つ聞いてもいい?」
「なんだ?」
まるで世間話をするような気軽さで聞いてくるサンシャイン。
もうさっきのショックは完全に拭えたみたいだな。
「あの白虎とコロちゃんと、どっちが強いかな?」
「ああ、そんなの。コロの圧勝に決まってるよ」
「なら余裕だね」
顔を見合わせてニッと笑いあう。
俺の裏庭で特訓するようになってからほぼ毎日コロの相手をしているみんなだ。
4足歩行の獣型に対してだけはそれなりの戦闘経験がある。
サンシャインはみんなのほうを向くと力強く宣言した。
「みんな!フォーメーションいちご大福で行こう!!」
「分かったわ」
「了解」
い、いちご大福?
ってそれで伝わるのか。
俺にはよく分からなかったけど、シリカとウィンディには伝わったらしい。
サンシャインが一人前に出る陣形へとスイッチした。
「いっくよぉ」
掛け声と共に飛び出すサンシャインがまたもや大振りな一撃を放つ。
当然さっきと同じように避けられる訳だけど、さっきと違うのはサンシャイン自身、避けられることを前提に動いていたことだ。
左に避けた白虎と対面するように、すぐさま右に一歩踏み出すことでさっきのような隙を消していた。
さらに切り上げ、袈裟切りと連続して攻撃を放ちつつ、お互いに相手の後ろを取ろうと足を動かし続ける。
はたから見ると2匹の猫がお互いの尻尾を追い掛け回してるようにも見える。
「ところでいちご大福ってどんな作戦なんだ?」
「見てれば分かる、かも。ちなみにあの二人がいちごのポジション。私はお餅役」
そう答えたシリカが魔法を発動させてサンシャイン達を囲むように石の檻を円く組み上げていく。
時折、檻を破壊しようとした白虎にウィンディの矢が牽制を行い、サンシャインの炎が迫る。
力という意味では白虎の方が上だけど、いかんせん、経験と思い切りが足りない。
コロならウィンディの矢を無視して檻を突破してきていただろうな。
「ちなみに、私はあんこ役らしいわ。あ、この作戦名を考えたのはサンシャインよ。
本当は締めのお茶役がレインなんだけど、今回はお茶抜きね」
「お茶?」
笑いながらウィンディが魔力を練り上げていく。どうやらタイミングを見計らっているようだ。
さて、名前だけだとさっぱり意味が分からないけど、そうこうしている間にシリカの魔法によってサンシャイン達は完全に壁に囲まれてしまった。
空いているのは足元と天井だけか。
その足元の隙間に向けてウィンディが風を送っていく。
「……あぁ、なるほど」
どうやら煙突というか溶鉱炉を作っていたのか。
空いた上の穴から炎の赤い光が漏れて、火山のように夜空を彩っている。
これ燃料はサンシャイン自身か。炉の中はかなりの高温になってるだろう。
まぁ強化したサンシャインの魔法服ならあの中でも無事だ。
燃え盛るサンシャインにウィンディが魔力を伴った風を送って、更に熱が拡散しないようにシリカの石窯で封じ込める。
これならサンシャインの大振りも十二分に効果を発揮するし悪くはない作戦だ。
相手が大人しく檻に閉じ込められてくれればだけど。
「配置については分かったけど、なんでいちご大福になったんだ?
3層構造なだけなら他にも色々あると思うんだけど」
「それはサンシャインが『いちご大福っていちごを噛み締めた瞬間、んん!!ってなりますよね』って力説してたからね」
それに呼応するように、煙突の中で「ドドンッ」と爆発音が響き渡ると同時に上から何かが飛び出した。
見れば炎に包まれた白虎とサンシャインが天高く飛んでいく。
「た~まや~~、あっ」
「あっ」
呑気に掛け声をかけていたシリカが驚きの声を上げたかと思えば後ろにいたクラリスさん達からも声が上がった。
なぜならサンシャイン達が飛んだ先に、朱雀が居たからだ。
まるで狙いすましたかのように激突する1人と2体。
更にはクラリスさん達が打ち続けていた魔力弾がここぞとばかりに打ち抜いていく。
「いたたたたっ」
本来ならそんな呑気な声を出す余裕はない筈だけど、そこは俺の守りと普段からコロにやられて慣れているから。
よく見れば蜂の巣にされながらも朱雀に振り下ろしを決めるサンシャイン。
結果として全員纏めて重力に従って落ちてきた。
「ウィンディ、誘導を」
「はいは~い」
真っ逆さまに落ちるサンシャイン達に風を送って落下位置を調整する。
落下先は勿論、ようやく穴から抜け出しそうな玄武の上だ。
ただ、玄武もただの間抜けな亀じゃあない。
落ちてくる火の玉を見て咄嗟に自分の上に防壁を展開している。
流石に1石3鳥とはいかないか。
と思ったところで今度は島が揺れだした。
「地震?」
「いや、違う。島の下に何かが居るんだ」
ゴボボボッッッ
突然、玄武の落ちた穴から吹き上がる間欠泉。
それに押し上げられて重量数十トンはあるだろう玄武が自分で張った防壁を突き破って宙に浮く。
更にそこにサンシャイン達が落下してきた。
ドガァァンッ!!
大爆発。
吹き荒れる爆風にウィンディやクラリスさんが吹き飛ばされる。
続いて間欠泉の水が雨となって降り注いだ。
「どう、なったの?」
蒸気が風で吹き飛ばされると、そこには大ダメージを受けて倒れこんでいる3体の魔物と、力を使い果たしたのかへたり込んでいるサンシャインとレインが居た。
「レイン!?いつの間に」
「えと、島の下から、ね。
それより、シリカ先輩。お代を!」
「任せて」
答えたシリカが魔物に向かって駆け抜ける。
そして武器を両手持ちの巨大ハンマーに持ち替えてブンブンと振り回す。
とんっ、とまるで重さを感じさせない軽いステップで飛び上がると。
「ギガントハンマー!!」
ズズンッ
魔物をまとめて叩き潰していた。
お代ってもしかして、このハンマーの事なのか。
一体どこの石器時代なんだよ。
まぁ突っ込みはともかく、無事に4体とも倒すことが出来たみたいだな。