90 戦いはひとりじゃない
「レイン!!」
「ガルルッ」
海中に消えるレインを見て、慌てて海に飛び込もうとしたサンシャインの前に白虎が立ちはだかった。
「邪魔しないでっ!」
ゴッ
叫ぶとともにサンシャインの持つ剣から炎が吹き上がる。
それを見た白虎も身を低くしつつ、全身を風の魔法で包んだ。
瞬間。爆発するような勢いで飛び込んだサンシャインから必殺の一撃が放たれる。
「ばか。焦りすぎだ」
風を司る白虎がそんな大振りの一撃を避けられない筈もなく。
残像を残してあっさりとサンシャインの後ろへと回ると、その無防備な背中に右腕を一閃させた。
暴風を伴った一撃に俺のところまで吹き飛ばされるサンシャイン。
本来ならこれだけで一発KOだが、そこは俺の張った防壁により事なきを得ている。
なおも飛び出そうとするサンシャインの肩をつかんだ。
「落ち着けサンシャイン」
「でもっ」
「レインなら無事だ。海に落ちたくらいじゃ死なないって」
「そうかもしれないけど」
「それにあの白虎は明らかにサンシャインより強い。
気を抜いて勝てる相手ではないぞ」
「うっ、うん」
今もこちらの様子を伺っている白虎に対し、改めて剣を構えて対峙するサンシャイン。
流石にさっきまでの焦りは治まったみたいだけど、どう出ればいいか攻めあぐねているようだ。
そこへ横合いから矢が飛んできて白虎を吹き飛ばす。
「ギャンッ」
「ウィンディ!?」
振り返れば、弓を構えたウィンディが居た。
「別に、1対1じゃなきゃいけない訳じゃないんでしょ?」
「まぁね」
ウィンディは確か朱雀の相手をしていたと思ったけど。
そう思って空を見上げれば朱雀が縦横無尽に飛び回り、高射砲を避けているのが見えた。
高射砲なんてどこから、と思えばクラリスさんの魔道具が高射砲というかガトリングガンのような見た目になっていて、先生と力を合わせて魔力弾を撃ち続けていた。
「致命傷は無理だと思うけど、時間稼ぎくらいは出来るわ」
「ただ、そんなに長くは魔力が持たないので急いでください」
先生の指示のもと、的確に朱雀に向けて撃ち続けられる魔力弾。
上空で飛び回る朱雀をよく追い切れるなと思えば、先生の目が光っているのが見えた。
あれは、恐らく以前取り込んだ精霊を使役しているのか。
確かにそれならそんな人間離れした芸当も出来るな。
っと。朱雀もただやられているだけじゃなく、上空から炎を纏った羽を飛ばしてきた。
だがそれらは地上に落ちる前に、別方向から飛んできた砂嵐によって吹き飛ばされて霧散する。
「ん。防御は私の役目」
見ればドヤ顔のシリカ先輩が立っていた。
そんなシリカ先輩と対峙していたはずの玄武はというと……
「あれ、どこ行った?」
「あそこ」
指示した先には小さな石山があるだけだった。
いや、よくよく見ると動いてる。もしかしなくても玄武の前足か。
ってことは。
「うん。落とし穴に嵌めてみた。
ここって浮島だから、下は海でしょ?
そのせいかご自慢の土魔法がうまく使えなくて登ってこれないみたいよ」
うわぁ。
確かに土属性を司る玄武なら、落とし穴を登るどころか土の中を泳いで来てもおかしくはない。
でもここは人工島でまだ土がほとんど無いし、落ちた穴の下は海だから足場を作ろうとしてもそこに土がない。
まさかそんな嵌め技があったなんてな。
これならだいぶ優位に事が運べそうだ。




