9.座学の時間
説明回です。
それにしても時間の流れが遅い。
ぶっちゃけ小話
「よく分かるご都合主義な歴史講座」
「鞍馬ってもしかして魔力強いのか?」
「は?」
外山は何でもないことのように『魔力』って言った。
おかしいな。元の世界って魔法はほぼ存在しなかったと記憶してるんだけど。
昨夜の魔犬といい、実は似てるだけで全く違う世界に送り込まれてきたのか?
「えっと、魔力って?」
「あーもしかして海外では詳しく説明とかされなかったのか」
「それはあるかもね、ともくん。あ、ちょうど今日の午前中の授業でそのあたりの話があるよ」
「そうだな。なら俺達が説明するよりは分かりやすいだろう」
ふたりで色々納得してしまった。
そういえば今日の授業は1時間目が「新代史」、2時間目が「法学」、3,4時間目は体育だ。
体育はともかく、前の2つは高校生にしては随分専門的な内容だと思っていたけど、これが魔力と何か関係があるってことなんだろうか。
キーンコーンカーンコーン
っと、もっと詳しく聞こうと思ったところで予鈴がなってお開きになってしまった。
まぁ、実際に授業を受けてみれば分かるか。
そして1時間目の新代史の授業が始まった。
担当教官、もとい教師はまるで軍人のように筋骨隆々の男性だ。
「さて、先週までは新代になるまでの大まかな世界情勢について話をしてきた訳だが、今日からはいよいよ新代の話に入る。
まず新代と呼ばれる原点は65年前に端を発する『第1次聖魔大戦』だ。
大小5つの特異点が発生し、そこから大量の魔物がこの世界を蹂躙。その結果、世界人口のおよそ7割が死んだとも言われている。この時の世界を救ったのが聖者クルムだ。聖者クルムも特異点からこの世界に来たと言われている。
続いて40年前の『第2次聖魔大戦』。第1次とは異なる場所に多数の特異点が発生したが1度目の経験と聖者クルムの子孫が力を合わせた結果、被害を最小限に食い止める事が出来た。
そして21年前の『第3次聖魔大戦』。これには君達のご両親の中にも参戦した人が居るだろう。私もその1人だ。
1年の君達にはまず全体を広く浅く学んでいってもらう。2年3年には選択科目としてより深く学んでいくことも出来る」
話の内容を要約すると、65年前までは魔法の魔の字も無かったらしい。
それが特異点の発生によって魔物と魔素の流入により、こちらの生態系も大きく変化。
結果として最近では強弱の差はあれどほぼ全ての人が魔力を持って生まれてくるらしい。
もちろんそれは人以外も当てはまるので、現在異界由来の魔物と地球の生物が魔力を持った魔獣が居るそうだ。
コロや昨夜あった魔犬もそういった魔獣だったんだろう。
あと、見た目通りというか、この教師は元軍人で身体強化魔法のエキスパート(?)らしい。
続いて2時間目の法学。
教科書の内容を見て驚いた。てっきり『法律学』だと思っていたら『魔法学』だった。
ただ、内容は児戯に等しいお粗末さだ。
まぁさっきの歴史から鑑みれば、この世界で魔法が使われだして100年も経っていないし、仕方無いだろう。
それにもしかしたら、俺の知っている魔法と、この世界の魔法で法則が違う所もあるかもしれないし。
あと、担当はなんとうちのクラスの担任だった。
そういえば最初会った時に低レベルの鑑定魔法を掛けてきたし、多少は魔法に精通しているって事なんだろう。
今は黒板に向って魔法の属性を書き出している。
「……先週からのおさらいになりますが、この世界に伝わった魔法の系統は7種。月、水、風、土、火、陽、空です。
流派によっては月を夜や闇、陽を光や金、空を聖や時と呼ぶこともあります。
また、水、風、土、火を自然4属性。月、陽、空を時空3属性と呼びます」
自然4属性は元の世界と一緒か。
それ以外は呼び方がちょっと違う。まぁ見た目だけじゃ表現しにくいから仕方無いか。
「魔力がある人の多くは自然4属性のいずれか1属性に適正があり、これをシングル属性と呼びます。
同様に2属性ならダブル、それ以上ならマルチ属性と呼びます。
どちらが良い悪いはなく、シングル属性は応用が利きにくく、マルチ属性は器用貧乏になりがちです。
いずれにしても正しく鍛えれば十分に実用できますので皆さん頑張ってくださいね。
また、時空3属性に適正があるのは100人に1人と言われています。希少な分、特殊な魔法が多いようですね。
さて、ここまでで質問はありますか?」
基本を話しきった先生の視線が教室をぐるっと見回して、俺の所で止まった。
「はい、では鞍馬さん」
「あれ。手、上げてなかったんですけど」
「でも目が合いましたから。さぁ何でも質問をどうぞ」
なかなかの無茶振りだ。
でもまぁ折角だしな。
「では魔法の適正はどうやって調べるのでしょうか」
俺の質問に、うんうんと頷いた先生は懐から1つの魔道具を取り出した。
「良い質問です。
適正の調べ方ですが、先日の能力試験で皆さんには実際に行って頂きましたが、この魔道具を使用します。
これに魔力を送り込むと、適正のある属性に対応した光を放つんです。
ちょうど良いので鞍馬さんの適正検査も済ませてしまいましょう。
さ、こちらへ来てください」
呼ばれた俺は前に出て先生から魔道具を受け取った。
ふぅむ。前の世界でも同じ様な魔道具があったな。原理は同じか。
俺の魔力の性質は変わっていないからきっと……。
「さ、魔力を送り込んでみてください。魔力の流し方は分かりますか?」
「はい、それは大丈夫です」
先生に促されてゆっくりゆっくりと魔力を送ってみる。
すると。
「……光りません、ね。でも魔力の流れは感じます。これはまさか」
「光らないってことは適正属性が無いって事じゃないですか?」
「いや、まさかそんな。鞍馬さんの魔力量なら普通は少なくともどれか1属性が突出してるはずなのに」
不思議がる先生に魔道具を返して席に戻った。
俺的には何てことはない。以前も無属性と笑われたものだったし。
「あ、でも気を落とさないでくださいね。適正属性じゃなくても頑張れば簡単な生活魔法は使えるようになりますから」
「はい、ありがとうございます」
慌てて補足する先生に気にしてないから大丈夫と手を振っておく。
でも何だろう。また俺を取り巻く空気が若干固まった気がするんだけど。
主人公は全属性なので上手く検知できません。
「知ってるか?オーケーって元々『All Correct』の頭文字を書き間違えてOKになったんだ。
だから歴史だって神様がうっかり書き換えちまったのさ」