87 そして決戦の火ぶたは落とされる
発生し始めた特異点に対して魔力を送り、その方向性を調整する。
そうすることで特異点から発生する魔物の種類や質をある程度調整できるんだ。
それと同時に少し離れたところに予め用意しておいた魔法陣も起動する。
こちらの魔法陣は転移門の効果がある。
それらが一瞬光ったかと思ったら、そこには新たに6人の人影が増えていた。
「うへぇ。視界がぐにゃって歪んで変な気分……」
「うぷっ。ちょっと酔ったかもです」
「ちょ、二人とも。折角の登場シーンなんだから格好よく決めようって話してたのに」
「そう言うシリカも顔がちょっと青いわよ」
「まったく。皆さんはこれがどれ程すごい魔法か分かってないのかしら」
「本当ですね。まさか地球の反対側まで一瞬で来れると聞いた時は耳を疑いましたが」
現れたのは天文部の4人+先生+クラリスさんだ。
事前に今夜呼ぶことと、移動は慣れないと酔うかもって伝えておいたんだけど、ばっちり先生とクラリスさん以外は気分が悪そうだ。
なので全員に回復魔法を掛けつつ声をかける。
「みんな大丈夫か。
今日は来てくれてありがとう。まずは気分を落ち着けてくれ。
で、それが済んだらやってほしい事はあれを倒すことだ」
そういって示した先には、今まさに特異点から出てこようとする魔物の姿があった。
それは炎を纏った鳥であったり、硬い岩山のような亀であったり、全身を鋼のような白い毛で覆った虎であったり、長大な体を青い鱗で包んだ竜であったり。
曰く4聖獣と呼ばれる姿をかたどった魔物たちは1体1体が先日の魔将とは比べ物にならない魔力を発していた。
更に特異点は、だめ押しと言わんばかりに巨大な魔物を吐き出して消えていった。
最後に出てきた魔物は、黄金に輝くからだを4足で支え背中には巨大な翼を持った龍であった。
先に出てきた魔物たちはその龍に頭を垂れるとこちらへと向き直った。
どうやら本能的に黄金龍をトップと決めたようだ。
「えっと、リュージュ。あれを倒すの?」
「ああ」
「今まで見てきた魔物とは比べ物にならないくらい強そうです」
「そうだね」
「半年前の私たちじゃ倒すどころか戦いにすらならなかったんじゃないかしら」
「間違いなく」
「それを倒せというリュージュは鬼畜」
「その評価は酷いと思うな」
「これがリュージュ君が言ってた魔王なの?」
「いや、魔王はもう1段階上です」
「……」
前の世界のランク分けで言えば、最初の4体がBランク。黄金龍がAランクと言ったくらいか。
世界中の魔素を極力集めて、俺からも魔力を送ってもAAランクには届かなかったか。
俺もまだまだってことか。
そんな的外れな感想を抱いている内に、魔物たちが動き出した。
最初に動いたのは青龍だ。
身震いしたかと思ったら海中へと飛び込んだ。見た目通り地上よりも水中の方が得意なんだろう。
続いて朱雀が上空へと飛び上がり甲高い鳴き声を上げた。
玄武と白虎はそれぞれ左右に分かれながらこちらを値踏みしている。
「敵はバラバラに分かれたか。
さて。呼んでおいてなんだけど、今回俺からは特に指示は出さないから、みんなの思うように戦って」
「「はい!!」」
本来の実力だと、4人で1体を相手にするくらいがちょうど良いんだけど、そこは俺がバフを与えることでサポートする。
これで戦力的には拮抗するはずだ。問題はまだみんなの戦闘経験が少ないことくらいか。
こればっかりは皆のセンスに賭けるしかない。
無理だったら、俺が直接介入するけど。
『GRRRRU……』
そんな俺の思惑を知ってか、黄金龍が俺を見てうなり声をあげた。
「はいはい。俺の相手はお前な」
別に黄金龍の言葉が分かった訳ではないけど、お互いに邪魔はさせないという意味では同意見だ。
俺たちは皆の頑張りをここで見ていることにしようか。
っと……ん?
レインだけ顔が険しいな。見ている先は海に潜った青龍ってところか。