86 会場作り
そうして部室を出て皆と別れた俺は飛行魔法で東へと飛んでいた。
陸地が見えなくなって2時間。視界に映るものは360度海と空しかない。
さて、お目当てのものは海上に浮かんで見えるはずだけど。
もしかしたら、過去の大戦などで海流が変わって別の場所に移動したか?
そう心配した頃に、ようやくそれは見えてきた。
上空から見たそれは、テレビ画面越しであれば海にモザイクが掛けられたと錯覚したかもしれない。
実際には色とりどりのプラスチック類を中心としたゴミだ。
通称「太平洋ゴミベルト」
産業革命以降、数百年に渡って捨てられてきたゴミが海流の関係で滞積する海域。
その広さはオーストラリア大陸の数倍とも言われている。
「この一帯を有効利用させて貰ってもいいよな?」
俺は日本からずっとついて来ていた無人探査機に向かって声をかけた。
といっても外部スピーカーが付いているようにも見えないので返事は期待していない。
ただ、チカチカと無線通信のランプが明滅しているから無事に話は通っているだろう。
どっちにしてもやることは変わらないが。
「さて、じゃあやりますか」
そう一声気合を入れて眼下に広がるゴミに対して魔法を行使する。
分野で言えば錬金術に該当するだろう。
物質を大まかに選別、分解、変形、時に燃焼させたり、結晶化させたりしていく。
そうして分かったのは、ここにある資源がすべて有効活用できれば、日本で消費される金属や燃料の数年分が賄えてしまうということだった。
もっとも、錬金術が使えなければ分別だけで相当な時間と労力が掛かるために割に合わないだろうが。
そうして5日。
黙々とゴミを有効活用した結果、表面を金属で覆われた島が出来上がった。
広さは東京都が丸ごと入るくらいだろうか。
海底側には浮力を生み出すために腐食耐性を付与したプラスチックで覆ってある。
また、東西南北に複数のモーターを取り付けておいたので、移動させることも可能だ。
さらには島の周囲に魔道具を搭載した浮きを浮かべることで、海流を制御して大シケになっても大丈夫なようにしてある。
後は土を盛って地形を作り、海水をくみ上げて真水化すれば生き物が生存できる人工島の出来上がりだ。
「ん、お客さんの到着かな」
海上を見渡せばそこかしこに船影が浮かんでいる。
上空に飛び上がってみれば空母に戦艦、巡洋艦などなど。総勢30隻ほど。
恐らく海中にも潜水艦が数隻いることだろう。
揚がっている国旗を見る限り複数の国から来ているようだ。
ただこれから起こす事を考えると危ないから避難してもらわないといけないな。
そう思って俺は上空に向けて光球の魔法を連続で打ち上げていく。
パン、パパン。パン、パン。パパン、パパン。……
モールス信号なんだけど、現代でも意味が伝わるだろうか。
そう危惧したところで戦艦の1つからサーチライトを使って返信が来た。
チカ、チカチカ……
おぉ。無事に伝わったみたいだ。
ちなみにこちらから送ったのは『海底魔獣接近。危険。避難せよ』だ。
返信の内容は『了解。情報感謝する』だった。
ただ、すぐには避難する様子は見せない。
恐らく上と相談したり、こちらの情報が正しいか調査しているってところか。
お、返信をくれた船を含め全体の1/3が海域を離脱していく。
向かう先は西と南西。方角から考えて日本か東南アジア方面の船なんだろう。
残った船に関しては、自己責任で頑張ってもらおうか。
離脱していった船が見えなくなったころ。
太陽が水平線に沈み始めたのをみて、俺は作業を次段階へと進めることにした。
俺は地面に手を当てると大気中に拡散されている魔素を引き寄せる魔法陣を設置した。
さらにその上にアイテムボックスから魔力が空になっている魔石を大量に取り出して積み上げる。
たったこれだけで簡易版集魔の塔の完成だ。
これによって世界中の魔物の発生や特異点を少しは抑えられるだろう。
前の世界で同じことをするなら正式版の塔を世界中に100か所くらい建てないと効果が見込めないけど、この世界ならまだまだ魔素が薄いからな。
ただ、当然その魔素に引き寄せられて海底の魔物たちがやってくるし、いくつか特異点が発生したり、大型の魔物が生まれたりする。
そうして陽が沈み切る頃、俺の目の前に巨大な特異点が発生していた。