83 魔王じゃない証拠なら
代表と思われる金髪の彼女の一言で全員に緊張が走る。
もっとも彼女たちとサンシャイン達では理由が真逆だろうけど。
周囲に配置されていたロボットたちも目と思われる部分を光らせて臨戦態勢へと移行していた。
唯一の例外は俺が触ってしまった1体だけ。
その腰元に手を触れて状態をスキャンしてみたところ、俺が触れて魔力を流した回路がショートしてしまっているようだ。
というか、よくこんな細い回路で動かせてたな。そっちに関心してしまうぞ。
さて、これならここをこうして、ついでにこっちも直してやれば……
「あ、あなた。周りが見えていないの!?」
「よし、できた。っと」
と、修理を優先してたら怒られてしまった。
銃を突き付けて非難の声を上げる彼女に向き直る。
「そういえば、まだ名前を聞いてませんでしたね」
「ルミナよ。そんなことより、日本の自衛隊やアメリカ軍から流れてきた情報は間違いではなかったようね。
まさか最新型の対モンスター用殲滅機体アンタレスがいとも容易く行動不能に陥るとは。
彼女たちに取り入り、聖女に近づいたのは裏から彼女たちを操る為なのね!」
律儀に名乗ってくれる女隊長改めルミナさん。
なかなかに想像力たくましいな。
サンシャイン達を見ればあきれた表情を浮かべている。
シリカなんかは「がんばれ~」って口パクで言ってくるし。
ただ、どうしてそんなに俺は魔王だと疑われているんだろうか。
この世界に転生してきてから、そんなに目立つこともしていないはずなんだけど。
「一つ聞いていいですか?」
「なにかしら」
「俺、日本に来てからそれなりに慎ましやかに高校生活を満喫していたはずなんですが、どこから魔王疑惑が出てきたんでしょう?」
「はぁ!?あなた馬鹿なの?」
全力で呆れられてしまった。ちょっと凹む。
「あなたが現れてから世界中で魔素の流れが活性化しているし、それがあなたの周りが特に顕著だし、あなたと一緒に居る彼女たちが通常では考えられないほど魔力的に急成長してるし、先日の突発的な特異点の発生だってあなたが関わっているという話だし、先日観測されたヒマラヤ高地での魔力爆発は既に人の到達できるレベルを遥かに逸脱しているのよ。
今だって、触るだけでアンタレスを破壊したじゃない。本来なら魔将級の攻撃にだって耐えられるはずなのよ。
どう?これだけ言ってもまだ自分が魔王ではないと言い張るのかしら」
ものすごい勢いで捲し立てられた。
うーん、こうして並べられると確かに俺が疑われる事象ってたくさんあるのが分かった。
でも本物の魔王が現れたらその比じゃないんだけど。
やっぱりこの世界では長いこと魔王が現れなかった影響でイメージばかりが先行しているんだろう。
そして一番の問題は、このままじゃ俺の平穏な高校生活にも支障をきたすってことだな。
こうなったら本物の魔王に来てもらうか。
それなら俺にちょっかいを掛ける必要もなくなるだろうし。
「あの、俺が魔王じゃないって証明したいのですが」
「あなたも大概強情ね。ここまで証拠があるというのに。
でもいいわ。どうやって証明するかくらいは聞いてあげる」
「ありがとうございます。要は魔王が俺と違うって証明できればいいのですから、なら本物を召喚してみせようかなと……」
「!?総員全力攻撃」
俺の言葉を遮って、全員が俺に向けて武器のトリガーを引いた。
瞬間、秒間数百発の銃弾が全方位から俺に浴びせられる。
更には魔石を使った爆弾やらロケット弾やらが撃ち込まれてくる。
結果、あっという間に俺たちの姿は爆炎に包まれた。
「……撃ちかた止め!」
30秒ほどして、隊長の合図でようやく射撃音が止んだ。
もうもうと立ち込める土煙。
それもすぐに潮風で吹き飛ばされると、傷どころか汚れ一つない姿でリュージュが立っていた。
「くっ、正真正銘化け物ね」
苦虫を嚙み潰したように呻くルミナさん。
他の隊員からも恐れのような感情が見て取れる。
サンシャイン達は……あ、居た居た。
攻撃が始まる直前に地面に伏せたから大丈夫だろうとは思ってたけど、いつの間にか包囲の外側に逃げていた。
まったく置いていくなんて酷いな。
この場を俺一人で納めろってことなんだろうけど。
仕方ないので頭を掻きながらルミナさんに向き直った。
「突然攻撃してくるなんて酷いですね」
「あなたが魔王を召喚するなんて言うからよ!!」
「まだ召喚してないんですが」
「してからじゃ遅いのよ。それに、その様子からして本当に召喚できるのでしょう?」
「ええ、まぁ。いくつか条件はありますけど」
「ならその条件がそろう前にあなたを抹殺するのが私たちの使命よ」
その判断は評価に値するけど、いかんせん火力不足だな。
俺は頭を掻きながら小さくため息をついた。
「さて、ルミナさん。俺は元々のんびりと高校生活を満喫できれば十分だったんです。
放課後魔法の特訓をしたり、夜に魔物退治するアクセントあっても部活動の延長って思えば楽しめました。
でも日本の自衛隊しかり、アメリカ軍しかり、イタリアマフィアしかり、国連軍しかり。
思惑はそれぞれ違うにしても、俺に手を出そうなんてよっぽど暇なんですね」
「ひ、ひま?」
俺の言葉にムッとするルミナさん。
でも俺だって、せっかくの旅行を台無しにされて少し頭にきている。
「例えば隣国と戦争してたら、第4次聖魔大戦でも起きていたら、俺に構っている余裕なんて無かったでしょう?
だから俺の事なんてどうでも良くなるくらいの出来事を用意します。
もちろん俺の考えうる限り安全な方法で、ですけど。
そんな訳で俺はこれから少し忙しくなりますので、どうぞお帰りください」
俺はパンパンっと手を叩きつつ周囲に魔力を展開すると、たちまちロボットたちの制御権を奪取した。
ロボットたちは俺の指揮のもと、ルミナさん達を捕獲し始める。
ちょっと手荒な感じになるのは我慢してもらおう。
「なっ、ちょっと止まりなさい!」
「指揮系統を書き換えたので無駄ですよ。
この島を出たら戻るようにしてあるから大人しく帰ってください」
抵抗むなしくロボットに捕まったルミナさん達は脱出しようと藻掻くけど、俺の魔力で強化されたロボットに力負けしていた。
これなら後は輸送機が帰ってきて彼女らを回収してくれれば終わりだろう。
はぁ。せっかくの旅行だったのに半日しかゆっくり出来なかったな。