79 どうやら世界は敵に回るようだ
そして数ある個別ルートを外し、魔王ルートに進むことになりました。
いつか各ヒロインルートを書きたい。
その後は、俺が居なくなった後の話や、最近の暮らしなど、色々と話をして、気が付いたら11時を過ぎていた。
午後からは皆で海に行く予定だからそろそろ買い物から戻ってくる頃だろうか。
そう考えていたのにやって来たのは招かれざる客人だった。
その騒々しい気配にクリス達も気付いたようだ。
「これは……囲まれている?」
「ええ。どうやら光学迷彩の完全武装のようね」
屋敷の庭を取り囲むように、約3000人の兵隊が潜伏している。
その中で司令官と思われる40代の男性が数人の部下を連れて俺たちの前にやってきた。
それに対し、クリスが静かに、しかし怒りを伴った問いかけを行う。
「何事ですか。人の庭に無断でしかも武装して踏み入るなど、失礼では済みませんよ」
「これはこれは。初代聖女様におかれましてはご機嫌麗しく。
我々は用が済めばすぐにでも立ち去りますよ」
「どのような用でしょう?」
「そちらの少年、リュージ・クラマの身柄を引き渡して頂きたい。
彼には現在、魔王の幹部ではないかという嫌疑が掛けられています」
魔王の幹部か。
そういえば一番最初の頃に南野さんからもそんな風に言われてたな。
まだ2か月くらいしか経ってないのに懐かしい。
俺自身はそうやってのほほんとしていたんだけど、クリス達はそうはいかなかったようだ。
怒りに顔を赤くしてぷるぷる震えている。
ミーちゃんなんて抑えてないと飛び掛かってしまいそうだ。
「魔王の幹部とは。一体何の証拠があってのことでしょう?
彼は正式な私たちの客人です。
返答次第ではただでは済みませんよ」
静かに湧き上がる殺気のこもった魔力は、しかし彼らではその脅威度が正しく認識できないだろう。
発現すれば彼らの首が物理的に飛ぶんだけど。
その証拠に彼らはまるで取り合う様子がない。
「そう睨まないで頂きたい。勿論疑うだけの証拠は揃っているのです。
一つは彼の家ですが、一見普通の家に見えますが実際には難攻不落の要塞と化していました。
更には敷地内に強力な魔物の存在も確認できています」
魔物……コロのことだろうな。
昨夜襲撃があったって連絡があったし、その時の話だろう。
「続いて彼の出自についてですが、我々の総力を挙げても今年の4月頃に日本に居た、というあやふやなものしか分かりませんでした。
生まれはどこなのか、去年まではどこに居たのか、どうやって日本に来たのかまるで分らない。
何らかの移動手段を使ったのであれば記録が残るはずなのですがね。まさか海を走って来たとは言わないでしょう?
なら考えられるのは一つ。特異点を通ってやってきた以外に考えられない」
なるほど。
あの神に転生されてきたんだから、あながち間違っていないな。
「そして彼の学友。天文部でしたか。彼女らの成長速度は異常の一言に尽きる。
度々彼の家に出入りしていることからも、何がしかの洗脳やドーピングなどが行われていると見て間違いないでしょう」
「それは大外れだな。全て彼女たちの努力の結果だ」
「ほぉ」
俺が口を挟んだのをみて口角を挙げる男性。
いまの、どこか面白かったか?
「やはり、彼女らに相当入れ込んでいるというのは正しい情報だったようですね。
であればあちらをご覧なさい」
そう言って一歩横に避けると、その後ろから兵隊たちに銃を突き付けられた南野さんたちが顔を出した。
南野さんと東さんは顔を青くしてビクビクしてるけど、先輩たちはいつも通りだ。
「く、鞍馬くん!」
「っ!?」
「ただいま~」
「面倒だから大人しく付いてきたの。後よろしく」
「あ、はい」
最後の北見先輩の言葉からして、何か酷いことをされた訳ではなさそうだ。
というか、先輩の場合、本当に面倒だから丸投げしただけかもしれないけど。
ただ先輩たちはもうちょっと緊張感は持ってほしいかな。
銃を持っている人たちもこめかみがピクピクしているように見えるし。
「ふむ。銃を突きつけられてもこの反応。やはり洗脳されているか」
ほら誤解を受けてる。
実際には銃で撃たれても大丈夫だって信じてるからだろう。
実際何ともないしな。
そうとは知らない隊長は、鬼の首を取ったように得意げだ。
「さて、我々も手荒な真似はしたくはない。
君についても大人しく投降するのであれば強引な取り調べはしないと約束しよう」
「古今東西、人質を取って『助けてほしければ大人しくしろ』って言われて大人しくして、本当に助かる事なんてまずないんだよ。
それにさ」
そう言って俺が立ち上がると、兵隊たちに緊張が走った。
「俺はいま、かなり怒っているんだけど、分かってる?」
「なに!?」
突然その場に居た兵隊たちがバタバタと倒れる。
ここからでは見えないだろうけど、周りで包囲している兵隊たちも軒並み倒れているだろう。
無事なのは俺たちの他は隊長のみだ。
最初は余裕を見せていたのに、突然の事態に焦っている。
「貴様!!いったい何をした!?」
「単純に殺気を飛ばしただけ。
そもそもさ。この世界のヒエラルキートップの家に土足で踏み込んで無事で済むと思っているの?
はっきり言っておくけど、俺が動かなくてもクリスとミーちゃんだけでもあなた方を抹殺できるんだよ。
二人ともやさしいからしないだけで」
老いたとは言え、彼女らもまた第二次以降の大戦を前線で駆け抜けてきたんだ。
たかだか多少魔力を扱える兵隊に後れを取ることはまずない。
「それでだ。
今すぐ尻尾を巻いて逃げかえるなら今日の事はなかったことにしてあげるけど、どうする?」
「くっ、後悔することになるぞ」
捨て台詞を吐いて立ち去る隊長。
って、気絶した部下たちを放置しないで欲しいんだけど。
仕方ないので、敷地の外に出た辺りに投げ捨てておくか。




