77 失われた記憶たち
ご無沙汰しております。
約1か月ぶりの投稿ですm(_ _)m
本当は完結させてから投稿しようと思ったのですが、間に合わず。
10話くらいは書き溜めてますので順次出していきます。(そのあとまた止まりそうですが)
頬に手を当てたミーちゃんは、ほぅっと息を吐いた。
「手に手を取って救済に駆け回るクレア様とリュージュ様は、本当に仲睦まじく、私たちは地上に舞い降りた天使かと思ったほどです」
「ミーちゃんにそう言われるとちょっと恥ずかしいものがあるな」
実際にはそんな優雅な時間はなかったけど。
「兎に角俺は最初に降り立ったこの島の復旧を急ピッチで進めたんだ」
「なぜ急がれる必要があったのですか?」
「それは勿論、魔神の残党狩りに向かうためさ」
この島に降り立った時、魔神の配下は数える程しかいなかった。
次元の穴に落ちた魔物の数を考えれば、半数が別の次元に落ちたとしても千を超える魔物が残っている計算だった。
それを裏付けるように療養中、世界各地から魔物に関するニュースは途切れる事無く流れていた。
多分何もせずに居たら1年と掛からずに地上から人間がほとんど居なくなっていただろう。
「だから魔神戦での傷が癒えた後は、文字通り世界中を飛び回って魔物を倒していったんだ。
その結果、良くも悪くも世界中に俺の存在が知られることになったんだけど」
一部の国では報道規制を行おうとしたところもあるそうだけど、それ以上の速度で俺が飛び回っていたから、当時のありとあらゆるメディアに俺の事が載っていたはずだ。
「ほんと、なぜ今の今までなぜ忘れていたのでしょう」
そう悲しげにつぶやくミーちゃん。
だけどそれは仕方ないと思う。
「当時俺はこの世界から前の世界に戻る際に、この世界から自分についての記憶を封印していったからな」
「なぜ、そのようなことを?」
「この世界に後遺症を残さないためさ。
魔神と直接戦った俺の存在は新たな魔神を生み出してしまうんだ。
その証拠に『リュージュ』の記憶と同様に『魔神』の記憶も残ってはいないだろう?
記憶は存在の欠片だから、魔神クラスだとそれを基に再創生されることがあるんだ」
それを言われて初めて気が付いたという顔をするミーちゃん。
「言われてみれば。
あれ程破壊をまき散らし、私たちを恐怖のどん底に陥れた魔神の姿が全く浮かびません。
確かに私はこの目で見たはずだというのに。
今まで深く考えようとすらしていませんでした」
「そうなるように仕向けたからね」
最初の半年で世界中の魔物を倒していった。
次の半年で世界中の人々の記憶から魔物の存在をぼかし、記録を改竄していった。
ただ、それでも世界に刻まれた傷跡は深く、このままでは空虚感で満たされる心配があった。
「だから『聖者クルムに救われた』という記憶だけを強く残すことで生き残った人達に心の拠り所を提供したんだ。
まぁ、その弊害もあったけど」
「弊害、ですか」
「ああ。能力の高い人、とりわけ指導者層に次の対策を考える人が何人も出てきたんだ。
一度こんな災厄が起きたのなら、次もあるかもしれない。その時に聖者クルムは居ないかもしれない。ってね」
「確かに、その考えに至っても不思議ではないですね。それで、どうなさったのですか?」
「それは……その、子孫を残すことになった」
「「はっ?」」
クリスもミーちゃんも驚いている。
ま、当たり前か。
「今の世の中に、聖者クルムの血を受け継いだ一族ってそれなりに居るんだよね?」
「あ、はい。そう、ですね。……ということは」
「そう。世界中から嫁候補、正確には子作りの為に15歳~25歳の女性が合計15人、送られてきたよ」
そこまで聞いてクリスがガタっと立ち上がった。
「あの、それではお母様もそのうちの一人だったということでしょうか」
あーそうだよね。
自分が愛された結果生まれた存在じゃない、なんて聞いたらショックだよな。
でもクリスに関しては大丈夫だ。
「その話が上がった時には、既にクレアのおなかの中には5か月目のクリスが宿っていたよ」
「そうでしたか。ですがそれならお母様は反対されたりしなかったのですか?」
「うん、内心思うところはあったかもしれないけど『何があっても私の愛は変わりませんから』って笑ってた。
他の女性陣もクレアの事を正妻として扱っていたから変な軋轢も起きなかったのは幸いだったね」
その頃が一番こっちの世界で安定していた日々だったと思う。
でもこっちに来て3年目。
俺の存在がこの世界に歪みを与え始めた。
だから俺はみんなに別れを告げ、記憶を消し、元の世界へと去ることを決めたんだ。
ハーレムというより、種馬なリュージュ。
精子バンク、なんて手もありそうですがそれらの設備は破壊されてしまってます。




