76 そして異世界人は異世界へとやってきた
お待たせしております。
人それを黒歴史と呼ぶ……
向こうの時間で70年ほど前。
当時の俺は確か25歳前後だったか。
異世界に飛ばされて約10年。
何とか武力も魔力もトップクラスに手が届いたところで、次元魔法を扱う魔神が現れた。
仲間たちと共に魔神の軍勢を撃退し、あと1歩で魔神の居城に迫っていたところで、魔神が次元に穴を開ける暴挙に乗り出した。
その結果、居城を含む一帯が別次元へと消えていった。
『どうする?』
『いや、どうするも何も、この穴塞がないと。
このままじゃ最悪、この世界が崩壊しかねないわ』
『今もぐんぐん周囲のものを飲み込んでます!』
『第一大隊、第二大隊は左右に展開!
周囲の魔物を排除して魔導士隊を援護せよ。
魔導士隊は穴の封印に全力を尽くせ』
『『はっ!!』』
後詰めで来ていた連合軍に指示を出して急ぎ穴を塞ぎにかかる。
そんな中、俺は一人穴の中を覗き込んでいた。
『リュージュ?ひとまず封印は何とかなりそうよ』
『そうか。それは良かった』
『何か気になることでもあるの?』
『ああ。穴の向こうは大丈夫かなって思ってな』
『そうね。でも私達がこちら側から出来ることはないわ。
私達では次元の向こう側では生きていくことすら困難でしょうし』
次元の向こう側……つまり異世界か。
俺自身、異世界からこの世界に来たんだ。
俺なら更に別の行ったとしても何とかなるかもしれない。
『マリナ。ちょっと行ってくる』
『て、なに散歩に行く感じで言ってくれちゃってるのよ』
『俺も次元魔法は多少は使えるし、まぁ何とかなるって。
こっちにアンカーも残してあるし、戻り先がわからない事もないだろうしな。
じゃあ、こっちのことは任せるな』
『ちょっ、待ちなさい。こらっ』
マリナの制止する声を聞きながら、俺は次元の穴へと飛び込んだ。
そして出た場所は逃げた魔神の目の前。
ちょうど何かに攻撃を行おうとしている場面だった。
『おっと』
『ぐっ、きさま。いったいどうやって』
咄嗟に奴の一撃を受け止めた俺を見て目を見開く魔神。
あまりの突然の出来事に周囲も含めて時間が停止したように静まり返った。
その一瞬で周囲の状況を確認する。
……ふむ。どうやらどこかの島か海岸近くと言ったところか。
そこにある町を襲撃中に俺が出てきたと。
受け止めた剣の先を見ればあと一歩で切り殺されていたであろう女性が腰を抜かしていた。
『そこの人。言葉は通じるか?
もし動けるなら出来るだけ離れてくれ』
『え、あ。はいっ』
よろよろと躓きながら逃げる女性を見送り、改めて魔神と向き合う。
『まさかここまで追ってくるとは予想外だったぞ』
『お前たちの事だから、次元を渡った先で暴れまわるだろうって思ったからな。
案の定、急いで来てよかったよ』
『だが分かっているのか。
我が造った穴は一方通行。戻ることは叶わぬぞ』
『それについてはお前達を倒してから考えるさ』
『ふ、貴様ひとりで神である我に勝てると思っているのか』
『神って自称だろ。まぁやってみるさ』
そこから三日三晩かけて何とか消滅させることに成功した。
「その時助けた女性が、クリスのお母さんのクレアだったんだ」
魔神を倒した後の俺は、心身ともにボロボロになっていた為、休息が必要だった。
そこで手を差し伸べてくれたのがクレアだった。
彼女の献身的な介護のお陰で1週間で動けるようになった俺は、リハビリを兼ねて町の復興を行った。
「焼け野原になった町で何とか生き延びていた所を保護したのがミーちゃんだね」
「はい、あの時のことは今なら鮮明に思い出すことが出来ます」
ミーちゃんは当時出会った場所を見るように遠くを見ながら微笑んでいた。
この辺りはさらっと流します。
というか、帰ってきて、高校生活!!