72.イタリア紀行
すみません、遅くなりました。
そして今週もまだ遅くなりそうです。
舞台裏小劇場
「社長、イタリアに取材に行ってもよろしいでしょうか」
「ああ、かまわんよ。ただし自費でな」
ヒマラヤ高地を越えた後は何事もなく飛行機はイタリアへと到着した。
「無事に着いて良かったな。
って、みんな大丈夫か?」
タラップを降りて後ろを振り返ると、疲労困憊な皆が居た。
「あはは、なんとか、ね。
鞍馬君、途中休憩を挟んだとは言え、4時間も魔力供給をさせるんだもの」
「普段の魔石を使った鍛錬より魔力が流れにくかったし、何より循環させるんじゃなく、一方的に送ってた訳だし、そりゃ消耗するってもんでしょ」
「むしろ私達以上に休みなしでやってたはずの龍司が何ともないのがおかしい」
うーむ、みんなからのじと目がキツイな。
「そんな事より、ほら。
イタリアだよ。いい天気だし、早く降りてきなよ」
そう言って伸びをしながら深呼吸をする。
うん、日本は真夏で蒸し暑かったけど、こちらは同じ暑さでもカラッとしていて気持ちいい。
よろよろとタラップを降りてきた皆も、最初こそ暗い顔をしていたけど、晴れた空を見上げるとみるみる明るくなってテンションが上がっていった。
「空ひろ~い。
同じ空のはずなのに、日本とは全然違うね」
はしゃぐ南野さんからは既に疲労の色は消えていた。
まぁ、元々魔力的な疲れであって肉体的には元気だったからな。
気の持ちようである程度は無視できるんだよな。
そして俺達が降りた後に、機長達とマルサさんも降りてきた。
「皆様、この度は誠にありがとうございました。
皆様が居てくださらなければ今頃ヒマラヤの雪の下に埋もれて居たことでしょう。
本当にありがとうございました」
「ありがとうございました」
そう言って頭を下げられたので、こちらからもお礼を伝えて、後は帰りもよろしくお願いしますと握手を交わす。
機長達はこの後、機体をドックに運んで修理や点検整備を行うらしい。
そして俺達はマルサさんの先導のもと、マイクロバスへと乗り込んだ。
「さて皆様。ここからはイタリアの町並みをご覧頂きつつ、港へと向かいます。
港に着きましたら、今度はクルーザーに乗り換えての移動になりますので、酔い止めなどが欲しい方は早めに仰ってくださいね」
なるほど。飛行機にバスに船にとなかなかに乗り継ぎが大変だな。
それに飛行機で6時間、車1時間、船も1時間はかかると考えるとほぼ1日が移動で使われることになる。
「マルサさん。クラリスさんっていつもこんなに移動に時間をかけているんですか?」
「いいえ、本来なら島に直接飛行機で向かいますよ。
今回は皆様に旅行を楽しんで頂こうと言うことで、こちらを経由致しました」
「なるほど、そういうことだったんですね」
「はい。ですので港まで少し寄り道しながら向かう予定です」
そうして向かった先は丘の上のレストランだった。
オープンテラスからは町並みと地中海が一望できる絶好のロケーションだ。
案内された席に着くと食前酒というのか、赤ワインが運ばれてきた。
「って、これ、お酒ですよね。みんな飲んで平気なのか?」
「あー、残念ながらダメよ。
この中で飲めるのは私と葛西さん、あとギリギリ北見さんね」
先生のジャッジにより、年少組はフルーツジュースになった。
ちなみに現代の飲酒は18歳かららしく、誕生日を過ぎてる北見先輩も飲んで大丈夫だそうだ。
余談だけど今は成人は日本でも18歳からに変更になったらしい。
続いて出てきたイタリア料理を堪能していると、にわかに町の1区画が騒がしくなってきた。
「マルサさん、あれは何ですか?」
「あれはイタリア名物とでも言いましょうか。
マフィアの抗争です。
時々ああして衝突してお互いに力を見せ合っているんです。
幸い、昔と比べて早々死人が出ることはないんですよ」
そう穏やかにマルサさんは言ってくれるけど、次第に銃声も聞こえ始めてきた。
って、だんだんこっちに近づいてきてないか?
お陰で話している内容も聞き取れるようになってきた。
あー……何故か魔法少女がどうとか言ってる気がするんだけど。
「マルサさん、若干きな臭くなってきたので、早めに移動しましょう」
「そ、そうですね」
どうやらマルサさんもあれがただの抗争ではなさそうだと判断したらしく、少し慌ててみんなをバスへと誘導した。
ただ、港は今まさに銃撃戦が行われている先にある訳で。
「皆様、少々荒っぽい運転になりそうですので、シートベルトの着用をお願いします」
ぱんぱんぱんぱんっ。
言ってるそばから、車体に銃弾が当たる音が響く。
とは言ってもこのバスも特注製の防弾ガラス仕様らしく多少傷が付く位で大丈夫そうだ。
そして港が見えてきたと思ったところで道路をトラックが塞いでいた。
後ろからもジープが2台追ってきていて逃げることも無理そうだ。
「そんな!?」
「マルサさん、そのまま真っ直ぐ進んで。シリカ、いけるよね?」
「うん、任せて」
焦るマルサさんを宥めて、念のため変身してもらったシリカに視線を送る。
小さく頷いたシリカは魔法でトラックを跳ね上げた。
そうして出来た隙間にバスを滑り込ませると、落ちてきたトラックに後ろのジープは足止めを喰らうことになった。
その間に俺達は用意してあった船へと乗り込み、陸を離れる。
バスは後で回収する手はずになっているらしい。
「イタリア名物、マフィアの抗争ね」
まさかここまで身近に体験できるとは思わなかったけど。
船尾から未だに埠頭でこっちに何かを叫んでいる人たちを眺める。
こうしてみるとこっちを狙っているのは若い人が多いように見えるな。
……一応後でどこのファミリーか調べておくか。
イタリア=パスタとかよりもマフィアなイメージな私。
「社長。先週はどちらに?」
「イタリアに取材にだよ。やはり社長自ら動かなくてはな」
「あのー、この領収書は……」




