64.聖女様がやって来た
新章突入です。
そしてここでまさかの真のヒロイン候補の登場です?
そんなことはないぞ小劇場
「ふふふっ。皆さん、私の為の前座どうもありがとうございました」
「ちょ、魔法少女がヒロインに決まってるでしょ!?」
魔法少女大会も無事に(?)終わり、翌日の月曜日。
今週で1学期も終わりとあって、教室の中は夏休みにどこに行くかで話題1色、とは行かなかった。
というのも、まず今日から期末試験が返ってくるのだ。
赤点が心配な人や、お小遣いの増減が掛かっている人、友達と点数を勝負している人などから緊張が伝わってくる。
残りの約2/3の人は概ね平和だ。
あ、一部異様にテンションの高い奴がいるけど。
「おっはよう!鞍馬!!」
「ああ、おはよう」
「いやちょっと聞いてくれよ。週末のあれ、めちゃくちゃ凄かったんだぞ。
急遽予定が入って来れなくなったなんて、残念過ぎだ」
そう言って机をバシバシ叩く北山。
週末のっていうのは魔法少女大会の事だろう。
俺は当初一緒に行く話をしていたんだけど、予定が入ったから行けないことにしたんだ。
実際には選手として会場には居たんだけど。
「やっぱ魔法少女は凄いわ。
しかもその、なんだ。どこのとかは言えないんだけど、とにかく聖女様に匹敵するんじゃないかって位の凄い魔法少女も居たんだよ。
ってそうだ。聖女様も会場に来ててさ。俺初めて生で聖女様見ちまったよ。
あれは凄いわ。もう同じ人とは思えないくらい綺麗だし、とにかく凄かったんだよ」
「ちょっと落ち着け、北山。
お前さっきから何回『凄い』って言えば気が済むんだよ」
「いや、それくらい凄かったんだって!!」
まるで残念な子のように凄いを連発する北山。
と、そこで北山の頭に鞄が振ってきた。
「~~~」
「ちょっとは落ち着きなさい、ともくん」
「あ、おはよう、内川さん」
「うん、鞍馬君おはよう。
ごめんね、ともくんが朝から迷惑かけて」
「いや、気にしてないよ」
見れば北山程ではないにしても、内川さんも若干興奮が冷めてないようだ。
その証拠に北山がまだ悶えている。
「あははっ。だめね。
どうもあれを見た後だと、私も出来るんじゃないかって思って魔力の箍が外れるみたいなのよ」
「そうみたいだね。いつもの3割増ってところか。
おーい、北山。生きてるか」
「ぐっ、何とかな。
はぁ。それにしても大会の内容を話せないのは辛いわ」
「話せない?」
「ああ、大会の規定でな。観客は試合の内容を含め、ステージで起きた事は話せない事になっているんだ。
だから、どこの魔法少女がどうだったかとか、どんな魔法が飛び交ってたのかとか一切言えないんだ」
「今回は更に緘口令が敷かれちゃったしね。だから悪いんだけど、詳しい話は聞かないでね」
「そっか。なら仕方無いな」
緘口令ね。つまり特異点が発生した事とか一切口外するなって事なんだろう。
俺達、競技参加者にはそんなお達しは無かったけど、それは別にいいんだろうか。
「ま、ともかく大会を楽しんでくれたのならチケットを渡した甲斐があったな」
「ああ!ほんとありがとな。この礼は必ず。来週から夏休みだし、そこで何かするっていうのもありだな」
「そうね。でもともくん。今日から返ってくる期末試験は大丈夫なの?」
「ぐっ、多分赤点はない、はずだ」
「そうだな。じゃあ北山が赤点取ってなかったら皆で旅行にでも行くか」
「そうね。大丈夫よね、きっと」
「ちょ、お前ら。いきなりフラグ立てるんじゃねえよ」
あせる北山を見て笑っていると、央山先生が教室に入ってきてホームルームが始まった。
「おはようございます。
さて皆さん、今日はビッグニュースがあります。
どうせ蜂の巣を突いたような騒ぎになるのは分かりきっていますが、出来るだけ興奮し過ぎない様にお願いしますね」
「??」
なぞの前置きを話す央山先生。
この話し振りからすると悪いことでは無さそうだけど、なんだろう。
「実はですね。今日1日だけの特別留学生がうちのクラスに来ることになりました。
では、クラリッサさん、中へどうぞ」
「はい」
先生の呼び掛けに鈴の音のような声で応えて教室内に入ってくる女の子。
その子を見た瞬間、教室中が驚愕と興奮で満たされた。
「「うおおぉぉぉぉ!!!!」」
「せ、せ、せ、聖女様だ!!!!」
「聖女様が降臨なされた!!」
「なんて神々しさだ」
「きゃ~~~」
「くぁwせdrftgyふじこ」
「みなさーん。静かに、お静かにしなさい!そこ、机の上に立たないで。
あと、影野くんが昇天してるから誰か起こしてあげて!」
まさに大混乱である。
「あの、みなさん?」
しーん。
聖女様が一言発しただけで教室中が静まり返った。
え、もしかしてみんな練習してたの?ってくらい息ぴったりだ。
「歓迎してくださるのは嬉しいのですが、先生もお困りのようですし落ち着いて下さい」
ぶんぶんぶん、しゅたっ。
聖女様の言葉に無言で首を縦に振ると、迅速に着席していた。
昇天していた影野くんも意識を取り戻している。
「ありがとう、クラリッサさん。それでは簡単に自己紹介をお願いできるかしら」
「はい。
みなさん、初めまして。
クラリッサ・クルム・ファクトと申します。どうぞ、クラリスとお呼びください。
本日は無理を言って1日こちらにお邪魔させて頂きます。
ほんの短い時間ではありますが、よろしくお願い致します」
そう言って綺麗なカーテシーで礼をする。
それを見たクラス中が万雷の拍手で包まれた。
「それではクラリッサさんは窓際の後ろ、南野さんの後ろに空いてる席を使ってください」
「はい、ありがとうございます」
お礼を言って静かに席に向かう姿も実に洗練されていて、確かにどこかの姫様だと言われても納得できる立ち居振る舞いだ。
そんな彼女と一瞬視線が合うと、にこっと俺に笑顔を向けてくるのだった。
本当はもっと深窓の令嬢っぽくしたかったんですが、前線にも出ないといけない聖女様なのである程度活発な性格になりました。
「真のヒロイン?(ちらっ)」
「わんっ」




