63.VS 魔将級 4
これでこの章も終わりになります。
次の章は方向性だけ決まっているのですが、具体的なところは空っぽという。
少し投稿に間が空くかもしれません。
茶番な小劇場
「俺と一緒にこいつを撃て!!」
「くっ、お前の犠牲は忘れない。さらばだ」
さて、皆が魔法を準備できるまで1分くらいかな。
それまでこいつには俺に付き合ってもらおう。
「…………」
「…………」
お互いにギリギリ間合いの外に立って睨み合う。
やっぱり。なまじ剣技に長けている分、下手な踏み込みが出来ずに止まるか。
そうして10秒20秒と過ぎていく。
こいつに汗をかく能力があれば、今頃額から汗が滴り落ちているんじゃないだろうか。
体感時間で数十分、実際には1分と経っていないだろう。
魔物が痺れを切らせて動きを見せた。
「ガッ」
キンッ
鋭い呼気と共に振るわれた切り下ろしを、俺は剣の腹を合わせて受け流す。
その力に逆らわず反転、切り返す剣を俺が上体を下げてかわせば、再び足目掛けて斬撃が飛んでくるので半歩下がって避ける。
バックステップからの突き。更に下段蹴りで視線を下げさせておいて首薙ぎ。
……やっぱり。
一連の流れは転生前の剣術の流派の1つと全く同じだ。
偶然なのかもしれないけど、恐らくこの魔物は転生前の世界から流れてきたのだろう。
この感じからして元人間が魔物堕ちでもしたのか。
ま、そんな事情はどうでもいいか。
「リュージュ!」
後ろからサンシャインが俺を呼んだ。
どうやら準備が整ったらしい。
それならばと、俺は大きく1歩踏み込んだ。
「ッ!?」
「逃がさないよ」
俺は持っていた剣を、間合いを取る為に下がろうとする魔物の顔目掛けて放り投げれば、魔物は咄嗟の反応でガードしてしまうので、更に踏み込んでそのガードしようとした右手を掴んだ。
続いて掴んだ右手を軸に相手の後ろへと回り込み首根っこを捕まえて引っ張る。
魔物であろうとも、人型であれば関節などの稼動域はほぼ同じだ。
その為、後ろから首を掴まれて、踏ん張りがギリギリ利かない位置へ引っ張られると身動きが取れなくなる。
そして後はそのまま皆が狙いやすいように魔物を皆の方に向けた。
多少暴れるのは背骨を蹴り飛ばして大人しくさせる。
さて皆はというと。
サンシャインが皆の中央で上段の構えで立ち、その前にシリカが片膝立ちで盾を構え、右手にレイン、左手にウィンディがそれぞれ武器を構えている。
4人ともが自分の得意属性の魔法を最大限に高めつつお互いの呼吸を確認している。
ぶっつけ本番の合体技だからな。少しでもずれると合わさる前に大爆発だ。
まあ皆なら上手くやってくれると信じてるけど。
「リュージュ、離れて!!」
「俺のことは気にするな。今手を放すと避けられる」
「でも」
「心配するな。その程度じゃ死なないから。俺を信じろ」
「っ、うん。信じるよ、リュージュ。
じゃあ、行くよ、みんな!!」
「「『エレメンタル・ショット』」」
4人が放った魔法が1メートル先でぶつかり混ざり合い大きな球になった。
「いっけぇ~~~」
魔法の球は爆発するような勢いで飛ぶと俺と魔物を包み込み大爆発を起こした。
あまりの出来事に司会の声も震えていた。
『こ、これは……
神門学園大将が捨て身で魔物を取り押さえた所に、魔法少女4人による大魔法が炸裂した!!
現在は爆発による土煙で状況が掴めませんが、流石の魔将級でも今の一撃はひとたまりも無かったのではないでしょうか!?
くっ、自分を犠牲にして仲間を守る、まさに大将の鑑。
彼の勇姿は後世まで語り継がれることでしょう。
っと、お待ちください。土煙の中で何かが動いているのが確認出来ました。
まさか、あの一撃を受けて生きていられたとでも言うのでしょうか!?
まさに化け物。信じられません』
「げほげほっ。誰が化け物だってんだ。それと勝手に殺すな」
土煙から出てきた俺を見て、会場中が騒然とする。
風魔法で土煙を吹き飛ばせば、そこには崩れたステージだけが残っていて、魔物も特異点も消えていた。
あと。バキッという破壊音と共に俺が付けていたダメージ計測用の魔道具が壊れた。
まるでその音がきっかけだったかのように、会場の声が驚きから称賛へと変わっていった。
「すげーぞ、神門学園!!」
「まさに正義のヒロインね」
「大将も無事だったし完全勝利だ!!」
「バンザーイ」
まさにお祭り騒ぎというか、観客席との間に防壁がなければみんなステージに踊りこんできそうな勢いだな。
皆も俺の姿を確認して駆け寄ってきた。
「リュージュ」
「サンシャイン。それにみんな。よくやったな。最後の一撃は100点満点だ」
「無事で良かったです」
「ただ、私達4人掛かりでもリュージュに傷1つ与えられないっていうのも悔しいわね」
「リベンジは帰ってから。それより大会はどうなるのかしら」
「あ、そういえば」
決勝戦が始まる所で特異点が発生してしまった為にうやむやになってしまった。
流石に今からやり直しって訳にもいかないだろうから後日に持ち越しかな。
「まぁひとまず控え室に戻りましょうか」
向こうを見れば、ムーンライトの方もチームメンバーが集まってきて撤収を始めるようだ。
ん?ムーンライトと目が合ったから手を振っておく。
まあ、またどこかで会うこともあるだろう。
結局、その後は現場検証やらなにやらで大会どころじゃなくなったので、俺達は帰宅するのだった。
合体の必殺技にもっと格好いい名前が欲しいなと思ってしまった。
でも突飛な名前だとイメージ付きにくいですし、悩ましい所。
「って、なんで生きてるんだよ。死ねよ」
「うわっ、ひどっ!」