50.新たな魔法の練習 後編
そんな訳で3話目はこの方の話。
まぁ多分皆さんの想像通りですね。
「真のヒロイン 参上☆(嘘)」
さて、残るは。
「さぁ先生。先生の傷も大分癒えましたし、もう変身しても大丈夫だと思いますよ?」
「え、ええ。そうね。……じゃあやってみるわ」
流石にちょっと不安なのか、気を引き締めた先生が自分用の魔道具を取り出した。
「装身:マジリリ・クロノス」
静かに言葉を紡ぐと先生の全身が光に包まれた。
そして一瞬後には白い法衣を身に纏った先生が立っていた。
「ふぅ。無事に変身出来たみたいね」
「はい。その姿の時はクロノスって呼べば良いですか?」
「ええ、それでお願い。それで、私にもなにか魔法を授けてくれるのよね?」
そう言って何故か上目遣いの先生。
魔法少女の名の通り、変身したら心も若返るって事なんだろうか。
あ、いや。先生は元からこういう性格だったか?
「先生の得意属性は、時間と空間、ですよね。そうじゃないとあの魔法は使えなかったでしょうから」
「ええ、そうね」
「なら代表的なのは加速と減速の魔法ですけど、既に扱えてたりしますか?」
「……それが上手く扱えているとは言い難いわ。
魔法を掛けられる相手は常に1人だけですし、魔力の消費量が多すぎるのか維持できるのは良くて3秒なの」
「なるほど。その話だけで問題が見えたのですが、魔法を掛ける対象が間違っていますね」
「味方、もしくは敵の魔物に掛けるんじゃないの?」
「出来なくはないんですがそもそも動くものに掛けるのが難しいんです。
自分以外の離れた相手に掛けようとすると、特に加速時は相手を見失いますよ」
「あっ」
どうやら心当たりがあるらしい。
個に魔法を掛けるのであれば、正確に相手を把握しなければならない。
それなのに時間的に加速させた相手は、加速させたがゆえに見失ってしまうんだ。
さらに離れた相手に魔法を掛ける訳で、制御も消費魔力も厳しいものがある。
「なので、おすすめは自分自身を加速させるか、空間に加速または減速のフィールドを生み出す方法です。
例えば相手が矢を撃ってきた時に、その軌道上に減速空間を配置すると、こんな感じに矢の動きが遅くなって避けられるようになります。
ただ、これの欠点は効果を与えたいものの全身を空間内に入れないといけない事です。
なので大きい相手には効かせづらいですね」
どういう原理かは知らないけど、加速空間、減速空間はどちらも連続した物体の一部だけが入った状態では特に影響をあたえられないのだ。
だから使うとしたらかなりの広域を対象にするか、小型の相手を対象にする必要があったりする。
「あと、加速の魔法を自分に掛け過ぎると、早く年を取ってしまうから気を付けてくださいね」
「うっ。それは怖いわね」
物凄くいやそうな顔をする先生。
まあ、気持ちは分からなくはないけど。
「まぁ適度に減速の魔法も掛けて行けばいいですよ。
ただやり過ぎると副作用があるから注意してください」
むかしそれで寿命を引き延ばそうとした魔法使いが何人も居たんだけど、一定以上の遅延魔法を掛け続けると脳に障害が起きてぼけてしまっていた。
さてと。
あともう一つ先生にお勧めの魔法がありはするんだけど、どうしようか。
先生のトラウマを抉りかねないんだけど。
「うーん」
「?どうかしたのかしら」
「いや、先生が使えそうな魔法がもう一つあるにはあるんですけどね。
嫌な思いをさせないかなってちょっと不安で」
「あの子達を守れる力になるのよね?なら教えて欲しいわ」
「……分かりました。
伝えようか迷ってた魔法は召喚魔法なんです」
「召喚魔法……あ、もしかして、先日の魔物を封印したあれに近いものって事?」
「はい。召喚する対象は全く違いますけど、原理は同じです」
「なるほど。でもリュージュくんが紹介してくれるんだから安全なのでしょう?」
「ええ、それは保証します」
「ならお願いするわ」
「分かりました。では少し待ってください。いま呼びますから」
「よぶ?」
先生が首をかしげているのを横目に、俺は軽く目を閉じて裏庭の空間内に意識を飛ばす。
さて、この裏庭を作ってからそれなりに時間が経っているし、時々見かけるんだけど。
っと、居た。
『おいで』
俺の呼びかけに応じて手のひらサイズの光の球が飛んでくる。
俺はそれを両手で包むと先生に差し出した。
「さぁ先生。この光の球に魔力を送ってあげてください」
「ええ。分かったわ。
ところでこの光の球は何なのかしら。とても暖かい感じがするけど」
「俺は精霊って呼んでます。簡単にいうと魔物と対を成す存在ですね。
魔物も精霊も魔素が集まって生まれるんですけど、魔素って陰と陽の極性があるんです。
陰が多ければ魔物になりますし、陽が多ければ精霊になります。
精霊の多くは穏やかな心を持っていて生き物の味方です。
なのでそうして魔力をくれる相手をサポートしてくれるんですよ」
俺がそう説明すると先生が頭を抱えだしてしまった。
あれ、なにかまずい事を言っただろうか。
「リュージュくん。ちょっと待って。
魔素に極性があるとか聞いた事もないし、精霊の存在も初めて聞いたのだけど?」
「そうなんですね。じゃあ聞き流してください。
っと、もう良いみたいですね」
「いや無理だから」って呻く先生を無視して精霊から手を放すと、精霊は先生の周りをクルクルと回り出した。
これは先生の魔力を受けて、先生を守護対象と認めた証だ。
「さぁ先生。掌を上向きにしてその子を受け止めてあげてください」
「ええ、こうかしら」
先生の出した手にふわっと着地する精霊。
さらにそこから小さく明滅を繰り返す。
『……』
「これは、この精霊の声なのね」
「ええ。基本的に精霊の声は心を許した相手にしか聞こえません。
そしてこの状態になった精霊はその相手を傷つける事はありませんから、安心して取り込んであげてください」
「分かったわ。えっと、私の中へお入りなさい」
精霊はその言葉を聞いてスッと先生のお腹に潜り込むように入って行った。
「なんだかちょっとくすぐったいわね」
「すぐに慣れますよ。あと、呼べばいつでも出てきますから」
「そうなの?じゃあ、出てきて」
その言葉と共にスゥっと出てくる精霊。心なし形が変化しているのは先生の魔力を吸収して成長したからか。
「今のままでも簡単な魔弾の魔法くらいは使えますけど、より先生の魔力を食べて成長したらコロみたいに生き物の形を取って一緒に戦ってくれるようになりますよ」
「そうなのね。じゃあ、魔力が余っている時は積極的にこの子に食べさせてあげるようにするわ」
そう言って先生は精霊をひと撫ですると体内へと仕舞いこんだ。
先生のキャラが崩れそうで怖い今日この頃。
鞍馬の裏庭は基本、鞍馬の魔力で満たされています。なので、そこで生まれた精霊は例外なく鞍馬を精霊王として絶対の忠誠を誓っています。
「くっ、あれが永遠の17歳……」
「時魔法恐るべし」