38.ご褒美タイム
実は今回の話、最初の10行までしか予定通りに進みませんでした。
どう脱線したかは読んでからのお楽しみですが。
ちょっとした息抜き回です。
「ねぇ、ここって何部だっけ?」
川原での戦いから数日が過ぎた。
あれ以来、周辺の魔素は安定していて、魔物もほとんど発生していない。
南野さんに確認した所、普段は月に1,2回くらいしか魔物は発生しないらしい。
なのでこの1ヶ月くらいは本当に異常事態だったとのこと。
今日は火曜日。
ということで放課後に部室に来ていた。
「そういえば、俺まだ天文部の活動って見たことないぞ」
「ズズッ」
先に来てお茶を飲んでいた北見先輩がピタッと止まった。
ついでに視線が横に泳いでいく。
「それは、魔王の幹部騒動のせいね」
「それって俺のことですか?というかそれは冤罪だったじゃ無いですか」
「冗談よ。でもそれくらいから魔物の活動が活発になってたから、天文部の活動どころじゃなかったのも確かよ」
「そうやって考えると、鞍馬君が実はお忍びでやってきた魔界の使者だって可能性も出てくるわね。
それだったら、鞍馬君の能力が異常なのも納得できるし。
いっそのことそっちの方向でキャラ付けしてみる?」
葛西先輩が面白そうに弄ってくるけど、キャラ付けって。
「俺、元々は普通の高校生活がしたかったんですけどね」
「あ、確かに転校初日に言ってたね」
「前のところでは高校には通ってなかったんですか?」
「そもそも高校自体なかったから。
こっちで言う小学校はあった(正確には創った)んだけど、そこを卒業したらすぐにほとんどの人が働きに出てたし、残りの人も専門の研究機関に行ってたからな。
もちろん、かなり優秀な人だけだけど」
俺が元の世界の知識を元に小学校制度を創らなかったら、今でも家庭教師と丁稚奉公と徒弟制度のみで教育が行われ、識字率も3割を切っていただろう。
っと、かなり話が脱線してしまったな。
「話を戻しますと、高校生活の醍醐味って言えば部活動だと思うんですよ」
「それはまた極端な考えだとは思うけど」
「そうね。もっと青春しないと。
男の子なら彼女の1人や2人欲しいでしょ?」
「いや先輩。彼女って2人も作っていいんですか?」
「あら。あらあら?もしかして鞍馬君は一夫一妻制の古風な考えなのかしら」
「え、それが普通じゃないんですか?」
俺の質問に、そこに居た全員が首を横に振った。
まじか。まさかそんな所まで常識が違ってたとは。
「おじいちゃんの時代は、鞍馬くんの言う一夫一妻制だったらしいんだけどね」
「あの第一次聖魔大戦で大勢人が亡くなったでしょ。
そのお陰っていうと悪いんだけど、それまであった人口問題がそれで逆転したの。
更に第二聖魔大戦以降くらいから新生児の魔力保有率が大幅に上がったのもあって。
その結果、産めや増やせやのベビーラッシュ。
その流れを世界最大宗教のクルム教が容認したのも大きいわね。
以来、甲斐性があるなら彼氏でも彼女でも自由に作ってオッケーって言うのが今の常識よ」
「もちろん、双方の合意は必須。レイプまがいの強引な人は即訴えられるわ」
なるほど。そんな事になっていたのか。
……ん?なら外山のハーレムルートも無くはないのか。
まぁあいつは既に嫁さんの尻に敷かれている気がするけど。
「ちなみに葛西先輩は彼氏は何人居るんですか?
先輩くらい気さくで美人なら男性陣が放っておかないと思いますけど」
「あははー。ありがと。でも残念ながら彼氏は居ないわよ。今までピンと来る男子って居なくて」
「先輩の100人切りはこの学園の伝説」
「仕方無いでしょ。どいつもこいつも私の胸ばっかり見てくるんだもの。
それに初対面で『好きです、付き合ってください』って言われてもね。
下心としか思えないわ。
男子ってどうしてそれでOK貰えると思うのかしら」
まぁ、どっちの気持ちも分からなくはない。
俺だって思春期だったら先輩の胸には目が行ってしまってただろうし。
と思ってたら葛西先輩の目が怪しく光った気がする。
「その点、鞍馬君からはいやらしい視線を感じないのよね。
もしかして私って魅力ないのかしら」
「もしくは、男の子のほうが好きとか」
「えっ、鞍馬君そうなの!?」
「(わくわく)」
「ちょっ。違うから。俺は普通に女の子が好きです。
東さんも目をキラキラさせないでくれ」
「ん~それならもうちょっとドキドキしてくれてもいいと思うんだけど。
自分で言うのもなんだけど、天文部って学園内でもトップクラスの美少女が集まってるのよ?
央山先生も合わせれば5人の美女に囲まれてるんだから、ね」
そう言って椅子に座っている俺を後ろから抱きしめてくる先輩。
思いっきり俺の頭に胸を押し付けて「当ててんのよ」をしてくる。
「って先輩、なにそんなうらやまし、じゃない、けしからんことをしてるんですか!?」
南野さんが顔を真っ赤にしてプルプルしてる。
東さんもその反対側で喋る余裕すらない感じでしきりに頷いている。
いや、どう考えても葛西先輩のお遊びだろうに。
「あら、今ならまだ両手が空いてるわよ」
「……私はサイズ的に膝上が最適ね」
「あらあら」
北見先輩まで面白がって俺の膝の上に座って、南野さん達に「来ないの?」って視線を送ってる。
これが年上の余裕って奴かな。
「あーもう!!こうなったら女は度胸ね。水希!」
「う、うん。鞍馬君、失礼します」
そう言って結局二人も俺の両腕に抱きついて来た。
身動きが取れない。ナニコレ。どうしてこうなったの?
と、そこで部室の扉が開いた。
「……みんななにしてるの?」
そこには央山先生が呆れた顔で俺達を見下ろしていた。
「いやぁその~。今月頑張ってくれた鞍馬君を労う会?」
「はぁ、まったく。鞍馬君が大人しいからって、みんなで弄らないの」
「はぁい」
先生の掛け声でやっと解放された。
「ほら。鞍馬君はこっちに来て」
「?はい」
なんだろう。
と思って先生の前に行ったら、ぎゅっと抱き寄せられて頭を撫でられた。
俺の顔は思いっきり先生の胸に埋まってしまう。
「ちょっ。先生ずるい!!」
「そうです。職権乱用です」
「ふふん、これが大人の魅力ってものよ」
なぜかドヤ顔の先生。
そこからはなぜか俺の取り合いみたいになった。
……ほんと。どうしてこうなったんだ?
「決まってるじゃん。夜の部活だよ(意味深)」