37.リベンジ
前書き後書き小劇場
「みんなの仇は必ず取ってみせるわ」
特訓を始めてからあっという間に3日が過ぎ、週末になった。
今日は前回逃がした魔物が潜んでいるであろう、川原へと向かう予定だ。
夜になり部室で変身を済ませた俺達は、まずは前回の公園へと向かっていた。
しかし。
「……魔物、居ないね」
「はい、どこに行ったんでしょう」
「最近の傾向から考えて少なくとも数体は居ると見ていたのだけど」
「これは、いよいよあれかもしれないわね。気を引き締めて行きましょう」
「「はい!」」
全員が気合を入れて公園を抜けていく中、俺は改めて後ろを振り返った。
……静かだな。虫の羽音1つ無い。
空を見上げれば月は雲に覆われて見ることが出来ない。
まさに嵐の前の静けさという奴だろう。
そして、川原へと辿り着いた俺達の前にそいつらは姿を現した。
「うそっ。ちょっと多すぎない!?」
「どこからこんなに」
「上位種も相当数居るわね」
「きっと近隣から集まってきたのね。見て、奥のあれを」
シリカが指し示す先には上位種よりさらに頭1つ出た存在が居た。
「まるで、あの時の再現ね」
小さく震えるシリカ。その肩にそっと手を置いて頷いてみせる。
「なら、今回は勝ちましょう」
「そうですよ先輩。特訓の成果を見せてやりましょう」
「悪い夢は早く終わらせるべきです」
「それに、コロちゃんに比べたら、あんなの可愛いもんでしょ」
「みんな……うん。やろう」
みんなに励まされて力強く1歩前に出るシリカ。
それに合わせて俺達も魔物へと向かっていった。
「グルルルっ」
「ガルッ」
向こうもこちらに気が付いたようだ。
小手調べだとでも言うように小型の魔物だけがこっちに向かってきた。
「舐められたものね」
小さく笑いながらウィンディが弓を構える。
「『マルチショット』」
名前の通り複数の矢が同時に飛んでいくと、次々と魔物を撃ち抜いていった。
「ガアアァ」
それを見て警戒を強めたらしく、今度は中型の魔物がこちらを包囲してくる。
ボスとその取り巻きは相変わらず様子見のようだ。
じわじわとこちらの隙を伺う魔物たち。
数の少ないこっちとしても受けに回る方が楽なんだが、さて。
「ウィンディ。ボスまで攻撃は届く?」
「届くけど、多分威力は落ちるわよ。ってそういうことね。
任せて!『ブラストショット』」
ヒュンッ
「ガルッ。ガアッ!!」
見事ボス魔物までウィンディの攻撃が届いた。
とは言っても軽く叩き落とされたけど。
それでも無事に挑発にはなったようで、部下達が突撃してくる。
「サンシャインは右を、レインは左の魔物を対処して。絶対に突出しないようにな」
「「はい!」」
「シリカは正面を守りながらボスから目を離さないように」
「分かってる。あいつの相手は任せて」
「ウィンディは全体のサポート。余裕があれば積極的に攻撃を加えていって」
「おっけ~」
サンシャインとレインが武器に魔力を籠めて切りかかる。
もう最初の頃のあぶなっかしさは微塵も感じさせない、堂に入った戦いっぷりだ。
シリカは正に鉄壁と言った感じで正面から来た魔物たちを弾き飛ばし寄せ付けない。
さらに体勢が崩れて隙だらけになったところにウィンディの矢が突き刺さる。
みんなこの1週間でだいぶ強くなったな。
と、そろそろか。
魔物の数も減って、業を煮やしたボスが重い腰を上げてこちらへと向かってきた。
「サンシャイン、レイン。分かっているね?」
「もちろん!」
「雑魚は任せてください」
2人が残っている魔物たちを牽制して引き離していく。
それによりシリカの前にはもう、ボスしか居ない。
「ふたりとも、ありがとう。
あなたがあの時の魔物ではないのは分かってる。
それでも、もう二度と大切な人達を傷付けさせないって決めたから。
だから。絶対に倒す!!」
「グルルルァァ」
ボスの振るった右腕とシリカの盾がぶつかり、まるで自動車事故のような音が響く。
続いて振り上げられた左腕。その根元に次々と矢が刺さっていく。
「私だって。あの時は救えなかったけど、今なら!!
あなた達の好き勝手にはさせない!」
更に腕から顔へと狙いが移り、たまらずボスが仰け反った。
「今よ!」
「ええ。『ストーンパイル』」
小柄なシリカがボスの懐へと潜り込む。
次の瞬間。振るわれたメイスから石の柱が伸びてボスを貫いた。
「グルァr」
断末魔と共に消えるボス。
残った魔物も散り散りに逃げていく。
そして後にはシリカの魔法がまるで墓標のように立っていた。
「ちょ、私達まだ死んでないから。
アーメンじゃないから!!」




