31.古傷の治療(前編)
(次回予告ならぬ今回予告)
北見先輩から話された過去の事件。
それにより北見先輩と央山先生は魔法が使えなくなってしまったという。
鞍馬は2人を救うことができるのか!?
さて。
俺だって万能な訳じゃないし、治療行為で言えばランクAが精々でランクSの死者蘇生とかは無理だ。
とは言っても今回はそこまで大げさな話でもないだろう。
「正確なところは診察してみないと何とも言えないけど、聞いた感じだと北見先輩については今ここで治療できると思う」
「本当!?」
「ああ。以前のように自由に魔法を使うまでには多少リハビリ期間は必要かもしれないけどな」
「だそうですよ、先輩!良かったですね」
「う、うん。じゃあよろしくお願いします」
「分かりました。じゃあ、ちょっとじっとしていてくださいね」
一言断ってから北見先輩の前に立って抱きしめられるくらい近づくと、先輩のおでこと丹田に手を当てて魔力を流し込む。
……やっぱり。ディフェンダーによくある症状だ。
過度のダメージを受け続けて魔核が傷ついてしまっているんだ。
これなら魔力操作による治療で回復できるな。
そう思って慎重に魔力を流し込んでいく。
「んっ、ぁっ。ぅぅっ」
先輩から声にならない小さなうめき声が漏れる。
「すぐに済むのでもうちょっとだけ我慢してください」
「ん。だい、じょう、ぶ」
そうして3分ほどで治療は無事に終わった。
「はい、終わりました。っと」
「はふぅ」
力が抜けて倒れこんでくる先輩を抱きとめると熱い吐息が漏れた。
「先輩、大丈夫ですか?」
「何とか。でもこの治療はちょっと危険。
すこしそっとしておいて欲しい」
くてっとなってる先輩を葛西先輩に手伝ってもらって椅子に座らせる。
さて、お次は先生、なんだけどこっちは同じようにはいかない。
なぜなら治療以外にもやる事があるからだ。
「先生の方は怪我というより呪いに近いものだからちょっと特別な処理が必要です」
「……その様子だと呪いの内容も分かっているのね」
「はい。初日に鑑定を掛けてましたから」
「あぁ、そうだったわね」
俺の言葉に先生の眉間にしわが出来る。
本当は知られたくなかった。そんなところだろうか。
「あの時は呪いとは別の可能性があるかもしれないって思ってたんです。
だからそれを勝手に解消してしまうと怒られるんじゃないかなって何もしませんでした。
呪いだとしても学園内でどうこうする訳にも行かないですからね」
「そんな……でもそうね。周りへの影響を考えるとそうよね」
「なので先生。この後、俺の家に来てください。そこで解呪します」
「鞍馬君の家って。大丈夫なのよね?迷惑にならないかしら」
「はい、大丈夫ですので任せてください」
珍しく不安そうにする先生に力強くうなずいて見せる。
まぁ心配になるのも仕方ないか。なにせ半年以上だもんな。
皆も俺たちの並々ならぬ会話を聞いて、内容は分からずとも心配そうに見ている。
「ねぇ、鞍馬くん。私達も手伝えることってあるかな?」
「南野さん。残念だけどこれに関してはない、というか皆の前では出来ないが正解だな。
さっき北見先輩が言ってただろ。先生のこれは奥の手で禁じ手の結果なんだって。
それは解除するときにも危険が伴うからっていう意味合いも含むんだ。
残念だけど、その場に居られるのは、この中では俺だけだよ」
「そう、なんだ」
「ああ。だからみんなは無事に先生が元気になるのを祈っててほしい。
時間で言うと峠を越えるまで今日中には終わるから、終わり次第結果はみんなにメールするよ」
「うん、待ってる。メール忘れないでよ」
みんなに見送られながら先生を連れて家へと帰った。
家に着くなり、先生を風呂場の脱衣所へと案内した。
「さて先生。まずは服を全部脱いでこれに着替えてください」
「これは?」
「ただの真っ白な貫頭衣です。この後切ったり汚れたりするので」
「切る?」
「外で待ってますので着替えたら出てきてください」
まだいまいちピンと来てないようだけど、とりあえず貫頭衣を渡して脱衣所を出る。
程なくして着替えて来た先生を連れて裏庭に出た。
「わんわん」
「コロ、ただいま。この人は央山先生だ。仲良くな」
「わんっ」
「ひぃぃ」
あれ、先生って犬苦手かな?
ってそういう問題じゃないか。
「くくく、鞍馬くん!?この犬って……」
「先日怪我してるところを連れ帰ったんです。
先生なら見て分かったと思いますが、ただの犬じゃないですけど、危険はないんで安心してください」
「大丈夫、なのよね」
「ええ。さて、コロ。俺達はちょっとやることがあるから。
後で呼ぶからちょっと待ってて」
「わん♪」
俺の指示を聞いて大人しくお座りして待ってるコロ。
こうしてみると普通の犬と変わらないよな。
先生もそんなに怯えなくていいのに。
一応伏せては居ますが、先生の状態はあれです。
ちなみにSランクでも瀕死から回復は出来ても完全に死んだ人は蘇りません。