23.それぞれの特訓風景3
その3は先生です。
ドキドキ!央山先生の個人レッスン♪
Side 央山 京子
私は今日の業務を終えると、急ぎ教会へと向かった。
『クルム教教会』
世界を魔物の手から救ってきた対魔物の中心的組織。
その歴史は第1次聖魔大戦の末期から始まる。
嘘か本当か聖者クルムまたはクルム神と呼ばれる存在が降臨してたった一人で魔物たちから世界を救ったとされている。
その後、その神の子孫と言われる人たちが興したのがクルム教。
しかし、その者がこの世界を去った後、誰一人その姿を思い出すことが出来ないという。
魔法学の教師になるためには最低でも半年間教会で修行を積む必要がある為、私にとってここは馴染みの深い場所だ。
門と礼拝堂を抜け、まっすぐ書庫へと向かう。
この教会は中堅規模のサイズなので蔵書もそれなりにある。
中に入るとすぐの所に検索用の魔道具が置いてあるので目的のものを探すのは難しくないのが有難い。
『ジャンル:魔力学』
『キーワード:魔石 魔球 鍛錬法』
『ヒット数は7件です』
「(たった7件……)」
蔵書の数から考えればかなり少ない。
それでも私は表示された書籍を集めて閲覧机に向かった。
「……魔石を使った魔力の瞬間的強化法、違う。
魔石を的にした鍛錬法、違う。
これも……これも違う。やっぱり無いわ」
どの本にも鞍馬君が紹介した鍛錬法は書かれていなかった。
もっと大きい教会の禁書庫にならあるかもしれないが、教会の司祭クラスじゃないと読むことは出来ないだろう。
そしてもしあったとして、教会がそれを秘匿する必要がどこにあるというのだろうか。
この世界を魔物の脅威から守るのが教会の総意なのだから。
それに、鞍馬君が見せてくれたあの魔力量。あれは既に司祭クラスに匹敵していた。
しかもあれはまだ全力では無さそうだった。
そんな人が一般にいるとは到底思えない。
では彼は何者なのか。
最も考えられるのはクルム教の使徒の隠れ子孫である可能性。
過去の大戦で活躍した使徒たちの子孫であれば、並外れた魔力量も説明が付くし、一般には公開されていない技法があっても不思議じゃない。
でも彼の転校元地域にはクルム教の教会すらないと聞いている。
使徒は全員、教会で身元を管理されているし旅先の1夜の過ちであっても見落とされている可能性はほとんど無いという。
後は特異点を通って異界から渡ってきた可能性。ただこれは最近特異点が発生したという報告はないからないでしょう。
他に考えられるとしたら魔物が人の姿を取っているか、北見さんが冗談で言っていた魔王の幹部説。
でもそれなら私達を洗脳するなりして支配することも簡単でしょう。あれだけの魔力があるのだから。
また魔王の存在自体ただのおとぎ話としてあるのだから、その幹部が堂々と表舞台に出てくるわけもない。
「……結局、ここで幾ら調べても分からないことが分かるだけみたいね」
「あら、そこにいるのは央山さんかしら」
そう声を掛けて来たのは、シスター宮星。
既に60歳を過ぎている彼女は2度にわたる大戦の経験者だ。
彼女なら何か知っているかもしれない。
「お久しぶりです。シスター」
「ええ、教育訓練以来でしょうか。ここに来たということは何か調べごと?」
「はい。魔力鍛錬の方法について何かあたらしいものはないかと思いまして。
先日魔石を使うと効率的じゃないかと閃いたのですが、シスターは何かご存じないですか?」
「魔石を使った鍛錬法ね。
……残念だけど聞いたことが無いわ」
「そうですか」
「ですが、試してみる価値はあるかもしれませんよ。
この世界に魔法が生まれてまだ100年も経っていないのですもの。
まだまだ私達の知らないことが多く存在すると考えるべきです。
あなたはまだ若いのですから、色々と挑戦してみては如何ですか」
「はい、ありがとうございます」
私はシスターにお礼を言ってから本を戻し、帰路に就いた。
シスターもああ言ってくれたし、これで本当に鞍馬さんが言っていた方法で効果があったら、世界を揺るがす大発見になるかもしれないわね。
ただ1つ心配なのは、こういうのって若い方が効果が高いのが一般的よね。
アラサーの私でも効果はあるのかしら。
ううん、いけないいけない。私だってまだまだ若いわ!
こういう作品の先生って、あれな事が多いですよね。でもそれすると本作のボリュームが倍増しそうで怖い。
「おう、兄ちゃん。兄貴の女に手を出してただで帰れると思っとんかい」




