22.それぞれの特訓風景2
ここまで順調に連続投稿できてますが、30話くらいで今度こそ失速します。
それまでに続きが待ち遠しいって思ってもらえると良いのですが。
意味深小劇場
「きれいなお姉さんは好きですか?」
Side 葛西 風子
家に帰ってきた私は自室に入るとベッドに倒れこんだ。
昨日今日と衝撃的なことが続いて頭がいっぱいいっぱいだわ。
頭の中を占めているのは当然、先日転校して来たというあの子の事だ。
いや『あの子』というのは若干違和感があるが。
最初、学食で見かけた時は陽子ちゃん達と変わらない普通の男の子だと思ってた。
そこから陽子ちゃんから相談を受けて面白半分でいたずらを敢行。
「……デッキブラシで叩いた時、絶対こっちに気付いてたわね」
視線も意識も一切こっちに向けていなかったから、あの時は半信半疑だったけど、今なら確信を持って言える。
痛がったそぶりもきっと演技ね。その後は普通だったし。
ならなぜそんな演技をしていたのかしら。
今日教えてもらった訓練方法といい、彼には秘密が多いわね。
でも幸い、今のところ悪い人とは思えない。彼から伝わってきた魔力の波動はとても心地よいものだった。
あれは悪人が出せるものじゃない、と思う。
それに昨日渡した変身用魔道具。
旧式のあれは、見ただけだとただの仮面だ。
それを一瞬でどういうものかを解析し理解して使いこなしていた。
もしかして以前居た所でも使っていた?何の為に?
彼は一体何が目的でこの学園に来たのかしら。
「うーん、ダメね。情報が足りなさすぎる」
私は気分を入れ替えて、今日教わった訓練法を開始した。
「余分な魔力を逃がさないように。
……あぁダメだわ。集中しきれてないのもあるけど、竜巻をイメージすると魔力が吹き飛んでしまう。
竜巻がダメなら台風?つむじ風?どれも違う気がするわ」
そう思考が錯綜したところで携帯に着信があることに気付いた。
『特訓は順調ですか?』
彼からだ。シンプルに一言。
色々考えてしまう私には出来ない芸当ね。
『言われた通り竜巻をイメージしてみたけどダメね。
そもそも風を閉じ込めることなんてできるのかしら』
いけない。ちょっと弱音を吐いているように伝わったかも。
『ああ、やっぱり。竜巻では勢いがあり過ぎたかもしれないですね。すみません。
そうですね……風を閉じ込める最も身近なものは呼吸です。
葛西先輩にはこちらの方が分かりやすかったかもしれません。
少しの間息を止めて、目を軽く閉じながら魔力の動きを感じてみてください』
自分の非も認めて下手に出る、か。ますます年下の男の子っぽくないわね。
あの年頃って見栄を張りたくなるんじゃないのかしら。
もしかしてそういう性格?私に叩かれても笑って許してたし。
まあ兎に角言われたようにやってみよう。
「すぅーー、ん……はぁーー」
あーなるほど。
息を止めて集中すると魔力を感じやすい。
あと吐く時のほうが吸う時より魔力の放出が多いのね。
今まで魔法を使うときにこんなこと考えもしなかったわ。
ほんと、年下の癖になんでこんなに物知りなのかしら。
っと、またメールだわ。
なになに、『特訓とは別に学食のことで相談があるので明日の朝時間をください』か。
何かしら。まぁ特に用があるわけじゃないしOKと返しておきましょう。
Side 北見 英子
家に帰ると先に帰っていた弟が居間で寛いでいた。
彼は2歳年下で今年から魔法の専門学校に通っている。
「ただいま」
「お、姉ちゃん、お帰り。今日は早いんだな」
「ええ。この後部屋でやることがあるから」
「ふぅん。あ、冷蔵庫のプリン食っていい?」
「好きにしなさい」
年齢で言えば龍司たちと同い年なのに、どこか言動が幼く感じてしまう。
いや、どちらかと言えば龍司が落ち着いているのか。
きっと弟だったら、売店の最後のあんぱんを女の子に譲るなんてしないでしょうね。
身長ばかりが大きくなって中身は幼いままなんだから。
「あ、そうだ。あなた専門学校に通ってるんだから、魔力の鍛錬とかも重点的にしてるわよね。
どういう事をしているか聞いてもいいかしら」
「ああいいよ。といってもそっちと同じじゃないかな。座禅組んで瞑想するだけだぞ」
「魔球を使った鍛錬とかは?」
「何だそれ。もしかして姉ちゃんの学校になると3年には新しいこと教えてくれるのか?」
「そうでもないわ。ごめんなさい、忘れて」
そう言って自室に移動する。
さて、彼は私の魔力を見て硬いと言った。それじゃ良くないと。
この3年間、土属性の私はずっと硬い方がいいと教わってきたから、彼の言い分は真逆と言っても過言ではない。
そして学園の授業内容は全世界ほぼ共通のはず。
なら彼は一体どこで誰に魔法を学んだのかしら。
まぁ考えるのは後ね。今は教えられた通りやってみないと検証もできない。
「えっと、砂時計、ね。どこやったかしら。
あ、あったあった。
ふむ、なるほど。確かにこの澱みない流れを保ちつつ静かに流れ続ける姿は参考になる」
もし以前からこの鍛錬を続けていたら……そう頭を過ぎったけど慌てて打ち消す。
そして私は無心になって砂時計を視線の高さに置いて鍛錬を続けるのだった。
4人の中でえっちゃんだけ短めになってしまいました。
その分はこの後挽回できる予定ではありますが。
現段階で一番仕込が多いのもえっちゃんだったりします。
「綺麗ならな」
「え? あっ」
ドカバキッグシャッ!




