2.3度目の人生に突入します
連載開始記念で本日2本目。
なんと15話までストックがあるという快挙。
何故か始まる小劇場
神「お前の願いを何でも叶えてやろう」
そこは「俺」という存在以外なにも無い空間。
どっちを向いても何もない。手を動かしても足を動かしても何かに当たる事すらない。
今立っているのか、はたまた逆立ちしているのか。それすらも分からない。
そんな俺の目の前に突如として光と共に人の姿をした何かが現れた。
俺はそいつに本来なら不敬なんだろうなと思いつつ気軽に声を掛けた。
「よっ。久しぶりだな。80年ぶりってところか」
「はい」
「俺はあなたの依頼を十二分に果たしたと思っているんだが」
「はい」
「なら多少は報酬の方もはずんでもらえるんだろうか」
「はい」
俺の言葉に淡々と答える目の前の人物。
曰く神と呼ばれるそれは、感情の見えない目で俺を見た。
「リュージュ・クルム。
80年前にあなたをこの世界に呼び出した時の契約は、
『あなたには地上に降りてこの世界の闇を滅ぼし、光をもたらしてもらう。その代わり、死後。その活躍の対価としてあなたの望みを叶える』
でした。
私では闇と光は視えても、その原因となるものが診えなかったから」
そう言う神の言葉には若干の憂いが滲んでいる気がした。
神にも多少なりとも感情があったのか?でも。
「そりゃそうだろう。あなたは創ったはいいものの、そこに生きている者たちの感情はまるで理解できていなかったんだから」
「はい。ですからあなたを呼びました。
そして、確かにこの世界は光で溢れるようになった。
それにあなたを視ていたお陰で感情というものが少し理解できた気がします」
「そう言ってもらえると頑張った甲斐があったってもんだ」
なにせ最初は酷かった。
ほとんど普通の人と変わらない状態で送り込まれたのに、次から次へとトラブルはやってくるし、死にもの狂いで生き延びてる間に、癇癪を起して周りを壊す事しか頭にないガキみたいな思考回路の魔王を何体か倒したり、疫病の撲滅の為に新薬の研究をしたり、飢饉が起きないように農業改革に力を入れたり、邪教集団をつぶして回ったり。エトセトラエトセトラ。
あと1つの大陸の初代統一国王になったりもした。
流石にその頃には60歳を超えてたから後継者を育てまくって後を継がせていったけどな。
お陰で3世代くらいは平和な状態が続くだろう。
最後は95歳で子供たちに囲まれて死んだんだ。
これでまだ足りないとか言ったら神だろうとぶん殴るところだな。
「それで、俺の望みを叶えてくれるんだよな」
「はい。望みを言ってください」
さて、どうするか。
この世界に強制的に呼び出された時は「異世界転移だやっほー。最強の肉体と魔法が使えるようになりたい」とか「毎日美女に囲まれて過ごしたい」とか考えた事もあったけど、ある意味どっちも自力で叶えてしまったしな。
最初こそ元の世界に戻りたい、ってのもあったけど、流石にこっちで人生丸々やり終えた後だと向こうに戻ってもな。親に会いたいっていう歳でもなくなっちまったし。
……ああ。
そう言えば一つ中途半端で終わってたことがあったか。
「決まりましたか?」
「ああ。高校生活を満喫したい。よく思い出してみれば高校1年目の6月にこっちに来たから、花の高校生活って奴を味わってなかった。
こればっかりはこっちの世界じゃ再現出来なかったしな」
もしかしたら今更高校生活なんて送っても意味ないかもしれなけど、そん時はそん時だ。
思い出せそうで思い出せないモヤモヤが、思い出したら大したことなかったけどスッキリした、みたいな感じだ。
やっぱり遣り残したことは無い方がいい。
「分かりました。ではあなたを高校生として元の世界に送ります。
肉体年齢などもそれに合わせてその世界の16歳に調整しておきます」
「それはありがたい。流石に赤ん坊からやり直すとか、死んだ時の老人のまま送られても困るしな」
「あと、追加報酬として、あちらの世界をあなたが過ごしやすいようにしておきます」
……うん?なにか不穏当な発言だった気配がするが、大丈夫か?
「それでは。あなたがその高校生活というものを満喫するのを、陰ながら見守っておきます」
「あ、ああ。ありがとう。色々世話になった。じゃあな」
そうして俺は、鞍馬龍司として実に80年ぶりに日本に戻って来たのだった。
ここに来るまでに色々頑張って来たんですよ~というオハナシ。
リュージュ「じゃあ神様をピーーしてください」
神「いや、それはちょっと」