18.課題だらけの初陣
この作品は基本、ヒロインが大怪我をして退場するなんてことはない、安心設計になっております。
……修羅場が少ないとも言いますが。
前書き後書き小劇場
「あ、あんなところに怪しい奴らが!」
学園を出てふと辺りを見回す。
……おかしい。さっき来た時より魔素が薄くなっている。
これは実体化して移動したと見るべきかな。
魔素の流れからして、これから向かう先の公園方向か。
「サンシャイン。もしかしたら公園には予想以上の魔物が居るかもしれないから気をつけて」
「はーい、任せて。魔物が数匹増えたくらいじゃどうってことないって」
意気揚々と先頭を歩き続けるサンシャイン。
それとは対照的に不安げな表情を浮かべるレインが俺に質問してきた。
「あの、何か気になることでもあったんですか?」
「ああ。学園周辺の魔素がさっきより減ってるみたいなんだ」
「つまりその分、他の地域で魔素が増えている可能性があるということですね」
「そういうこと。っと、やっぱり。この先の公園に魔物が出現しているな」
「それなら周囲に被害が出る前に退治しましょうか」
「はい」
俺達はのんびり歩いてた所から駆け足に切り替えて公園に向かった。
そしてそこには。
「グルルルr」
「ガルル」
「うわっ、いっぱいいるよ」
公園の広場には魔犬がたむろしていた。
こちらには気付いていないところを見ると気配察知などの能力に乏しいのかもしれない。
「魔犬が10体以上。これは骨が折れるわね」
「正確には16体。みんな戦闘準備」
「「はい」」
シリカの合図で全員が変身用の魔道具を手に取った。
すると魔道具自体が武器へと形を変えていた。
武器の形状もそれぞれの魔法適正に合わせているのか、中型の盾とメイスを持ったシリカを先頭に、大剣を持ったサンシャインが右手に、細剣を持ったレインが左に展開。
後方に居る俺の隣でウィンディが弓を構えていた。
これが彼女らの基本フォーメーションなのだろう。
「って、あれ?俺の魔道具にそんな機能なかったぞ」
「え、ああ。ごめんなさい。リュージュに渡した魔道具は1世代前のものなの。
男性用ですぐに渡せるものがあれしかなくて。
後日改めて新型を渡すことになると思うから、今日はそこで見てて」
そういうことらしい。
ま、いざとなったらアイテム空間から適当な武器を取り出せばいいか。
そもそもこの魔犬相手に武器なんか無くても何とでもなるしな。
「さて、じゃあいつも通り、私が先制するから近づいてきたのをお願いね『ブラストショット』」
ウィンディは風の魔力で矢を生み出すと、魔犬の群れに向けて連続で放った。
……ふむ。狙いは悪くないな。ちゃんと魔犬の胴体にきっちり当たってる。
ただなぁ。
ウィンディの矢を受けた魔犬も受けてない魔犬も、こっちに気付いて我先にと走ってきた。
そう。矢を受けてもまだピンピンしてるんだよな。
一応1体だけ、矢を3発受けたのが倒され消滅したけど、逆を言えば3本当てないといけないらしい。
これは距離による減衰が酷いんだな。
近づけば威力も上がるだろうけど、それじゃあ遠距離攻撃の意味が無い。
そして魔犬の先頭がシリカに飛び掛った。
「動きが単調」
ガンッ
左手の盾で受け止めて右手のメイスで殴る。
ディフェンダーの基本的に忠実な動作なんだけど、いかんせん身長が低いので半分圧し掛かられている。
魔犬程度ならそれで十分対処できてるんだけど、中型の魔物になったら押しつぶされそうだな。
「や、やぁ!『ウォータースラッシュ』」
横から飛び出した魔犬に対し、レインがやや腰が引けた姿で細剣を振りつつ、その先から水刃の魔法を飛ばした。
本来ならザシュッと真っ二つにするはずのその一撃は、魔犬の左足にキズを負わせるに留めた。
幸い動きを鈍らせることは出来たので、更に3回追加で攻撃することで何とか1体倒せたようだ。
そして反対側ではサンシャインが大剣をバットのように横なぎに振り回している。
「うりゃあ!!」
「ギャイン」
大剣に"殴られた"3体が吹き飛ばされて1箇所に固まった。
そこにすかさず剣の先を向けると。
「いっくよぉ『フレイムバースト』」
剣から火炎放射器のような炎が噴き出すと魔犬達を包み込んだ。
数秒燃えた後、火が消えた時には3体とも消滅していた。
「ふひぃ、どうよ」
魔法を撃ち終えると同時にへたり込むサンシャイン。
どうやら今の1撃で魔力のほとんどを使い果たしたらしい。
うーん、俺的にはどうもこうも無いんだけど。
良くこれまでこんな戦い方で大丈夫だったなと思ってしまう。
魔物もまだ半数以上が元気だし。
その後はシリカが敵を引き付けつつ、的確にウィンディとレインが少しずつダメージを与えていくのが続き、後半にまた回復してきたサンシャインが大技を決めて、何とか魔犬を撃退できたのだった。
何ともこの先が不安になる初陣だ。
初陣なんてこんなものです。
俺TUEEEは無いですが、ヒロイン最強でもないのです。
「はいはい、君たち。夜遊びは禁止だよ。ほらそんなおもちゃ仕舞って仕舞って」




