100 一方的な外交交渉
俺たちは揃って島の外が見える場所までやってきた。
視界いっぱいに広がる船と飛行機。
よく見れば国ごと纏まっているようで規格が綺麗に分かれている。
「1,2,3……ざっと20か国ってところか。
よくまだこんなに軍隊が残っていたな」
「そうね。魔物対策っていう意味合いもあるけど、どうしても人ってある程度共通の脅威が無くなると人同士で争いたくなる生き物だからね」
こっちの軍隊を初めて見たアルファ達も興味津々に眺めている。
「へぇ。鉄の塊を飛ばして勝負するなんて、こっちの世界は面白い事を考えるんだな」
「実際には勝負というより殺し合いだけど。
魔法で言えば流星弾みたいなものだし」
「なるほど。魔法なしで流星弾を再現していると考えると凄い話だな。
Cランク以下の冒険者たちでは勝負にならないだろうね」
「逆に言えばAランクの冒険者なら余裕で対処できるって事だけど」
そのお陰でもし万が一、軍事技術が向こうの世界に流れたとしても国を転覆させるほどの事態には発展しないはずだ。
逆にこっちの世界は魔素が薄いせいで、向こうの冒険者たちは1ランク程度能力が下がる事になるから、向こうの勇者がこっちに来て俺TUEEEしようとするのも難しい。
魔王クラス、魔神クラスにまでなると色々無視出来てしまったり出来るけど。
少なくとも、俺が知っている限りで向こうの世界からわざわざこっちに来てそれをしようとする奴はいなかったから当面は大丈夫だろう。
「それで、これからどうするんだ?
あいつら全部ぶっ潰せばいいのか?」
ちょっと過激な発言をするアルファの頭を軽く小突く。
「馬鹿。それじゃただの侵略者じゃないか。
さっき話し合ったように、両方の世界にとって有益な関係を築いていかないと意味がないんだ」
「え~、じゃあどうするのさ」
「そこはほら。アルファにひと肌脱いでもらうのさ」
「うげっ」
そう言ってニィっと笑う俺を見て、アルファが嫌そうな顔をした。
それから数分後。
さっきまで青空だったのにいつの間にか現れた雲によって太陽は隠されていた。
母国から緊急出撃要請を受けてやってきた最新型高速空母【北海】の艦橋では双眼鏡を持った男たちが空に浮かぶ島を観察していた。
「艦長。総員いつでも総攻撃に移れます」
「司令部からの指示は待機だ。
万が一にもこちらから攻撃しないよう、徹底させろ」
「はっ。それにしても、島一つを丸ごと空に飛ばすなんて、実際にこの目で見ても信じられません」
「それは儂もだよ。第1次第2次と大戦を生き抜いてきた儂でもあれは初めて見る。
だが問題は今回やって来た彼らが我々の敵か否かだ。
敵だった場合に勝ち目があるか、また敵でなかった場合に友好な関係を築けるかどうか。それこそが重要だ。
頼むから他国の艦隊も早まった真似だけはしてほしくないものだ」
「そうですね」
つい先ほど、島の他に空中戦艦が4隻、空に開いた次元の穴から出てきて島に着陸したとの報告もある。
それはつまり、いつ向こうの気が変わって侵略に舵を切ってもおかしくないということだ。
この静寂がいつまで続くのか。
そう思った矢先。何かの計器を見ていた男性が声を張り上げた。
「艦長。島の周囲に高レベル魔力反応を検知。メーターが振り切れいています!!」
「対魔法防御を艦隊前面に展開。総員警戒を怠るな!」
緊張が走る艦長らの視線の先では、島の輪郭がぼやけだしていた。
かと思えば、突然、島の周囲に巨大な人の姿が現れた。
「これは、巨大なスクリーンと言ったところか。
投影機の類が見えないということは、これも全て魔法か」
「スクリーンより、音声流れます。自動翻訳システム作動開始……翻訳成功。流します」
全員が緊張するなか、スピーカーから翻訳された音声が流れる。
『あーあー、こちらマイクのテスト中。ごほんっ。
島の周囲に集まっている者たちに告げる。
我は魔導王クルマルファである。
まず最も気になっているであろう事から伝えるが、我々に侵略の意思はない。かといって従属する気もない。
我々はこの世界の良き隣人としての立ち位置を望んでいる。
幸いにして魔法に関する知識は我々に一日の長があるようだ。
そちらが望むのであれば知識の開示するのに吝かではない。
その分、我々もこちらの世界の知識を学べればと考えている』
そこまで言い終えた魔導王クルマルファは、じっくりと周囲の様子を伺うしぐさをした。
そして数分間を置いた後、再度口を開いた。
『もう一度言おう。我々に侵略の意思はない。
だが、敵対するならば相応の覚悟をするがいい。
望みとあらば大陸一つくらい海底に沈めてみせよう。
……ふむ。少し脅しが過ぎたか。軽いジョークのつもりだったんだがな。
さて。
海上を見てもらえれば人工の島があるのが分かるだろう。
それはこの世界の協力者によって造られたものだ。
今後の交流はその島で行っていく。
ただ、見ての通りまだ設備が整っていないようなのでな。
我々と交流を望むのであれば、1月後にまたここに訪れて頂きたい』
一方的に話を締めくくったクルマルファの映像がぷつりと消えた。
辺りには波の音だけが響き渡る。
「……どうしますか?」
「どうするもないだろう。
先ほどのジョークと言ったが、実際にやろうと思えばできるのだろうな。
各員撤収準備に移れ。本艦および護衛艦【雪雲】を残し、本国へ帰還する。
帰還の指揮は【宗谷】の鏑艦長に任せる」
「よろしいのですか?司令部からの連絡はまだですが」
「そんなもの待っていたら間に合わん」
「は?間に合わないとは……」
「分からんか。我々は見られているのだぞ。
ここで誠意ある行動を取るかどうか、それ次第で今後の関係性が大きく変わる。
急げよ。どの国よりも先に行動に移せ!!」
「はっ!!」
くっ、100話で終わらなかった。