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とある場所にて

作者: 本山紫蘇子

やあ、はじめまして こんにちは

はじめまして、ですよね

私とあなたは初対面のはずだ

ああ、よかった、私の記憶は確かだった

どうしました、こんなところまで、私に会いに来るなんて

私の

姿を見て

つい気になって

嬉しいことをおっしゃってくださる

そんな風に思ってくださってとても嬉しいです

さあ、ここに掛けて

少しお話しましょう

それともあなたのおうちまでご一緒しましょうか?

どうしました

私に会いに来てくれたんですよね?

なになに?

私とおしゃべりして楽しいかどうか不安だ?

学校の先生は

私とお話するなんて時間の無駄だと言っていた

ふむふむ、なるほど

あなたのお友だちはどうですか?

え、私とおしゃべりしたことがある人はいない

それは残念ですね

参考にできる人は先生だけ

でもあなたは私のことが気になっている

じゃあ、あなたは私とおしゃべりしてみるしかありません

少しもおしゃべりせずに私とのおしゃべりがつまらないと決めつけるなんて

失礼じゃあありませんか

そうすることでしか、私とのおしゃべりが楽しいかどうかは分かりませんよ

ねえ、ちょっとお話してみましょう

さあ、ちょうどあいている席がある

さあさあ、座って座って

どうですか?

私とのおしゃべりは楽しいでしょう

目が輝いているから分かりますよ

そうですか、それは良かった

私も嬉しい

え、どうしてそんな不安そうな顔をしているんですか

え?

お友だちやお父さんやお母さんは、私とおしゃべりしてもきっと楽しくないだろうって?

私とのおしゃべりについて、お友だちやお父さんやお母さんとおしゃべり出来ないって

きっとあなたを馬鹿にするだろうって?

ふむふむ

最近の人は不思議なことを言いますね

だってそうでしょう?

私はあなたとおしゃべりしていて

私はあなたとだけ向き合っているのに

あなたは、私とおしゃべりしている自分が他の人にどう見えるかが気になっている

ああ、あなた

それが一体なんだって言うんです?

私はあなたとおしゃべりして、あなたは楽しくて、私は嬉しくて

それ以上一体何が必要だって言うんです?

ああ、そういうことじゃあありません

私とのおしゃべりは楽しいんだって周囲に言いふらしたり、私とのおしゃべりを、みんなに押し付ける必要はないんです

私とおしゃべりしなくたって、その人たちとあなたは仲良くするべきです

あなたはその人たちが好きなんだから

ええ、仲良くするに越したことはありません

そういうことではありません

たとえ最初に言った学校の先生が、あなたのお友だちが

お父さんがお母さんが

私とのおしゃべりなんて

つまらない

くだらない

と言ったって、あなたはそれに言い返す必要はないんです

その人たちと喧嘩する必要はないんです

私は喧嘩なんてして欲しくありません

ただ

世界中の人が私とのおしゃべりをつまらないと声高に叫んでいたって

あなたは心の中で

そうです

口に出す必要なんてないんです

言いふらす必要なんてないんです

心の中で

でも、自分は、自分だけは、私とのおしゃべりがとても楽しかった

と思っていてくださるなら

私はあなたの友だちです

ええ、そうです

今この瞬間からずっと友だちです

あなたが

男でも

女でも

子どもでも大人でも

頭が良くても悪くても

意地悪でも優しくても

たくさんお友だちがいても

誰一人お友だちがいなくても

どこの国の人であろうと

ああ、残念ながら私自身は日本語しか喋られないのですけれど

あなたが日本語さえある程度理解出来るなら

あなたが貧乏でもお金持ちでも

幸せでも不幸せでも

私はあなたの友だちです

世界中の誰もが私を投げ捨てたとしても

あなたが笑ってくれるなら

私は幸せです

ねえ、考えてください

世界中の人が私とのおしゃべりについて

面白い

つまらない

噂していたとして

それが一体あなたと私がおしゃべりすることに、一体どんな関係があるっていうんです?

あなたが笑ってくれるかくれないか

私にとって大切なのはそれだけ

さあ、おしゃべりを続けましょう

あ、おうちに連れて行ってくれるんですか?

ああ、嬉しい

さあ、早く早く



はじめまして

私は本

あなたが、今、ここで、手に取った本

さあ、おしゃべりをしましょう

あなたと私だけのおしゃべりです

あなたが私とのおしゃべりを好きになってくれたなら

私はこれからずっと

あなたのお友だちです


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