スキルのせいでパーティーを追放されました……が
なんとなく思いついた設定で、なんとなく短編を書いてみました。
寝付けない中の変なテンションで書いた作品ですが、少しでも楽しんでただけたら幸いです。
「アクセル、お前は俺たちのSランクパーティーに相応しくない。さっさと出て行け!」
この一言で、俺は五年間組んできた仲間たちからパーティーを追放された。
冒険者として活動を始めてから数年後、合同クエストで出会って意気投合して組んだパーティーで、これまで色々な失敗とそれを上回る成功を収め、ようやく超一流と認められたその日の出来事だった。
「これまで俺たちに寄生していい思いをしてきたんだ。文句はないよな」
リーダーである剣士のガイがそう言うと、
「お前に何度足を引っ張られた事か……清々するぜ」
重戦士でタンクを担っているゴウが頷く。
「何をするにも中途半端で、使えないスキルしか持たないあんたを養ってきてあげたんだから、ありがたく思いなさいよ」
とガイの幼馴染で盗賊のキャラが俺を指差して笑う。
「仕方がないわよ。ゴミ虫なんだから、才能がないのは当たり前でしょ」
最後に、神官でビッチなライラが俺を見下した目で馬鹿にした。
「そうか、分かった……」
俺はこのパーティーから追放される事に対し、何も言わずに受け入れた。一年ほど前から、こうなる事は予想していたからだ。
「最後の最後でいい事をしたな、アクセル。それと、装備と金は全て置いていってもらうぞ。寄生虫に必要のないものなんだから当然だよな」
目の前でいやらしい笑みを浮かべるガイを見ながら、俺は黙って身につけていた装備と金の入ったバッグ置いて宿を後にした……出会った頃からは想像がつかないくらい、あの四人は変わってしまった。それもこれも、俺の『スキル』のせいなのかもしれない……
俺は、元パーティーメンバーと別れ軽くなった身体でギルドを訪れた。
「ようこそ冒険者ギルドへ……って、どうしたんですかアクセルさん?」
いつも世話になっている受付嬢に、俺はパーティーを追放された事と、金がないのですぐに収入が得られる仕事を斡旋してもらいに来た事を話すと、受付嬢は驚いた顔して固まっていた……
「……その話、マジですか?」
「マジだ。だから、仕事をくれ」
「へっ、あっ、ちょっとお待ちください!ギルド長!早く来てーーー!」
受付嬢は慌てながら俺に待つように言うと、大声でギルド長を呼んだ。
「うるさいぞ、全く……昨日飲みすぎたせいで、頭がガンガンするんだ……先に薬くれ、薬」
「ほらよ。俺のお手製でよければ使え」
「ん?おお、アクセルか!つあっ!」
ギルド長は急に頭を上げたせいで頭痛が酷くなったみたいだが、それでも俺の差し出した薬をしっかりと受け取り、一気に飲み干していた。
「くあぁ~~~!やっぱ。アクセルの薬はよく効くな!で、何があった?」
「ギルド長、実はですね……」
多少持ち直した様子のギルド長に、受付嬢が先ほど俺が話した事を伝えると……
「マジで?」
「マジだ」
先ほどの受付嬢と同じような表情で、俺に確認してきた。
「あいつら、何を考えているんだ?」
「多分、俺の『スキル』を知らないんじゃないか?効果が分かったのはこの街に来てからだし、その頃には俺を疎ましく思っていたみたいだからな」
『スキル』を知るにはギルドなどに置いてある『鑑定石』という道具が必要で、詳しい『スキルの効果』を知るには『上級鑑定』というスキルを持つ者に頼まないといけないのだ。
『上級鑑定』を持つ者はこの大陸に五人しかいないと言われており、『上級鑑定』を持つ者に『鑑定』を頼むには、多額の謝礼金を支払わないといけない。俺はいつか自分の『スキル』を鑑定してもらおうと、冒険者を始めた頃からコツコツと金を貯めていたのだが、一年ほど前にたまたまこの街を訪れていた『上級鑑定』のスキルを持つ者に鑑定を頼む事が出来たのだった。
俺のスキル名は『人の為ならず』といい、一般的に通常のスキルとは違う『ユニークスキル』と言われるものだったのだが、その名前から効果を予想する事が出来なかったのだ。
ガイたちも初めのうちこそ、俺のユニークスキルに期待していたみたいだが、『人の為ならず』は目で見えるような効果はなく、時間をかける事で効果が発揮するものだったのだ。
「まあ、頭を使わん奴らだからな。だが、アクセルに回せるような仕事か……最近いいのがないんだよな……ん?そうだ!」
ギルド長は、受付の方を見ながら何かを思いついたようだ。
「なあ、アクセル。お前さえよければ、私に雇われないか?結果が出るまでそれなりの期間が必要だろうから……そうだな、取り敢えず半年の契約でどうだろう?もちろん、それに見合う金は出すぞ。最初はソロで依頼を受けていない時だけでもいいし」
「内容を聞いてからだな」
にやりと笑うギルド長に仕事内容を聞いた結果、俺は臨時のギルド職員としても活動する事になった。
それから半年後……
「そこ、油断しすぎだ。お前は焦りすぎ」
「「はい!」」
俺はギルドで雇われの指導員をしていた。
一回の指導で最大五人を一週間ほど見るというものだが、新人の冒険者にはなかなかの評判で、指導した新人のほとんどが次回の指導を予約していくほどだ。
今度は前のパーティーでした失敗を繰り返さないために、事前に俺のスキルを簡単に説明した上での指導だが、一部の新人を除いて俺の言うことをしっかりと守っているおかげで、この半年における新人の死亡率が明らかに減っていた。詳しく言うと、これまでの冒険者デビュー半年での死亡率が三割超なのに対し、俺が指導し始めてから一割以下になったのだ。
「アクセル様々だ!新人の生存率が上がったおかげでギルドの収入も増えたし、私の評価も上がって万々歳だ!」
ギルド長は、俺が指導した新人のあげた成果が書かれた書類を読みながら、ガハガハと笑っていた……ちなみに、ギルド長はれっきとした女性だ。よく忘れそうになるけれど……
「それに対して、こちらは酷いな……まあ、予想できた事ではあるがな」
ギルド長が急に冷めた目をして掴んだ書類には、以前俺が所属していたパーティーのここ最近の成果が書かれていた。
読ませてもらうと、確かに酷いものだった。俺が追放されてからのガイたちは、Sランクパーティー向けの難易度Sの依頼達成がゼロで、A・Bランクの依頼でなんとかSランクに食らいついていたが、それも俺と入れ替わりで加入した冒険者が脱退して以降、BどころかCランクの依頼でも苦戦しているようだ。
それに対し、俺が最初の方で指導した新人たちは、指導された同士でパーティーを組み、ついこの間Cランクの依頼を達成した。そこでギルドの判断で、今度Bランクの依頼を経験させてみようかと検討されているところだった。これはデビュー半年の成果としては破格であり、依頼の難易度の違いがあるにせよ、達成率で言ったらガイたちは比べ物にならない。つまり、SランクなのにBランクで失敗続きのガイたちより、Dランクを確実に成功させる新人たちの方が、ギルドからの評価は高いのだ。
「そろそろあいつらに、降格の決定を伝えるとするか」
ギルド長が言う降格とは、ガイたちのパーティーがSランクから落ちるという事だ。しかも、ガイたちは普段の態度とBランクでの失敗続きという事もあり、一気にCランクまで落とす事が決定しているらしい。ランクが落ちる事自体は珍しくなく、メンバーが抜けたり入れ替えたりした場合には当たり前の様に起こる事で、周りの冒険者も明日は我が身の立場から滅多な事では馬鹿にしたりはしない。そう、『滅多な事では』だ。
「今回の降格は、そうそうない事じゃないですかね?私もそこそこ、この仕事は長いですけど、流石にSランクパーティーが一気にCまで下がったのは、見た事も聞いた事もないですね」
俺の給金の計算をしていた受付嬢が、一ヶ月分の給料が入った袋を持ちながら話に加わってきた。
「ああ、流石に長い歴史を持つギルドでも、前例は一件だけらしいぞ。最もその一件は、五人いたパーティーが一人を残して全滅し、残った冒険者が将来有望な新人を育てる目的で組んだだけらしいな。普通は完全に違う名前で作り直すが、その新人たちが死んだ仲間の血縁者だったから、意思を引き継いで欲しくて以前の名前をそのまま使ったそうだがな」
つまり、ただ単に実力不足で三つもランクを落としたのは、ガイたちが初めてという事になるのだそうだ。
この日以降、ガイたちは周りの冒険者たちから馬鹿にされ続けた上に、四人の中も完全に壊れてしまったそうで、パーティーは解散となったそうだ。最も、冒険者として残る事ができたのはゴウだけであり、それも頑丈な装備で身を固めていれば、長く使える壁としての価値しかないと判断されての事だそうで、一年ほどで体と心を完全に壊してしまい、ギルドから強制的に冒険者を引退させられ、しばらくして故郷に帰ったそうだが、その時にはすでに冒険者時代の話が故郷にまで伝わっており、いつの間にか故郷からも姿を消したらしく、それ以降どこでどうしているのか誰にもわからないそうだ。
そしてガイとキャラだが、冒険者を辞めた後、なんと二人揃って盗賊に転職していた。シーフと言われる冒険者の役割的なものではなく、犯罪者の盗賊の方だ。二人は冒険者を辞めて三年後に討伐されたが、二人を討伐したのは俺だったりする。別に盗賊の正体が二人だと知っていて討伐したのではなく、たまたま他の依頼を受ける為に訪れた時に、丁度村に襲いかかってきたのが二人が率いていた盗賊団だったというわけだ。
規模的には二十人程だったが、二人が率いる事が出来るくらいだったので、俺にとっては赤子の手をひねる感覚で討伐したのだった。一応盗賊団のボスである二人は生きたまま捕縛し、数年ぶりの再会となったのだが、その時の二人の顔は忘れる事が出来ないだろう。なにせ、足でまといと思ってパーティーから追放し、結果的に自分たちをギルドから追い出す事になる俺との再開だ。しかも、たった一人相手にボロ負けして捕まった、というおまけ付きの状況で。
二人は俺だと分かると必死に命乞いをしてきたが、そもそも俺に許す権利はなく、ギルド経由で司法へと委ねた結果、即日死刑が執行されたそうだ。
最後にライラだが、ある意味冒険者を辞めて成功したのがこいつだ。ライラは冒険者を辞めると、それまでの行いのせいで神官も辞めさせられ、生活費を稼ぐ為に娼婦へと身を落としたのだが、娼婦はライラの性格に合っていたのか、そこそこ人気となり、他の三人とは比べ物にならない暮らしをする事が出来たそうだ……若い頃は、の話ではあるが。それでも、若い頃の蓄えのおかげで、死ぬまで一般家庭よりちょっと劣る程度の生活を続けられたのだから、ライラだけは冒険者を辞めて正解だったのかもしれない。
それで、元仲間たちがこうなってしまった原因とも言える俺の『スキル』だが、名前を『人の為ならず』といい、効果は『自分の能力を半減させる代わりに、パーティーメンバーの能力を増加させる。この効果は、パーティーを長く組むほどに高くなっていく』と、『パーティーを解散すると、『人の為ならず』の恩恵を受けていた者が、効果中に成長した分の何割かが自分に還元される』というものだ。
簡単に言うと、一時的に自分の能力と引き換えに仲間を強くする代わりに、その間に仲間が強くなった分の何割かが自分の能力にプラスされるというもので、この効果のせいでパーティーを組んでいる最中の俺は本来の実力を発揮する事が出来ず、ガイたちに足でまといだと思われていたのだ。
この能力はある意味反則とも言えるほど強力ではあるが、パーティーを組めば俺は足でまといと言われるので、ソロで冒険者をするしかない。つまり、新人の頃にガイたちとパーティーを組めたのはある幸運であったと言えるが、スキルの効果が分からない状況では、ガイたちが不満を持つのも当たり前ではあったのだ。まあ、俺も効果を知ったあとで、故意に教えなかったのだが、ギルドにはちゃんと伝えていたので、その気になればガイたちでも知る事ができたのだ。昔の事なので、今となってはどうでもいい事だがな。
そんな俺の最大の幸運といえば、俺のスキルの効果を正しく理解した当時のギルド長に、新人冒険者の指導員を任された事だった。
能力が落ちた状態でSランクまで上がったパーティーメンバー(『人の為ならず』の恩恵あり)について、A・Bランクの依頼を数多くこなしてきた俺はどちらかというと技巧派であり、ガイたちからは評価されなかったが、事情を知っているギルド職員たちからは「仕事が丁寧で手際がいい」と言われていたのだ。その経験を持つ俺なら、新人が受けるような仕事は能力が落ちている状態でも問題なくこなせるし、能力は低くても成長が早い新人たちを数多く世話すれば、塵も積もればで俺の能力の伸びがいいのだ。
これだけだと俺が一方的に得しているように思えるが、新人たちにスキルの効果を事前に(多少能力を強化する事が出来る程度と)教えた上でパーティーを組んで依頼を受ければ、新人たちは経験者の指導受けながら金を安全に稼げるのだ。その他にも効率的な訓練方法を指導する事で、生存率は格段に上がる。ついでに俺の能力も。
パーティーを解散した後も、解散すれば能力が少し下がると理解していれば、ガイたちのような失敗はしない。まあ、中には俺の説明をきちんと理解せず、俺がいない時に無茶をして命を落とした者もいたが、それは他の新人にはいい教訓となったようで、何組目かを指導する頃には、『俺の言っている事をしっかりと守っていれば、大抵の場合は大丈夫』という風潮が生まれていた。
最初の俺は、自分が一人でも安全に冒険者を続けられるくらいまで強くなったら、指導員は完全にやめようと思っていたのだが、いつの頃からか新人に指導する事に楽しみを覚え、ソロでの依頼をほとんど受けなくなった頃、俺は正式にギルドへ就職した。まあ、指導員として新人の依頼について行く事もあるので、あまり変化はなかったがな。
二十代の半ばを過ぎた頃にギルド職員になった俺は、三十代の初めに結婚し(相手はよく俺の担当をしていたの受付嬢……と、教え子の一人だ。この国ではある程度の稼ぎがあれば、複数の女性(男性)と結婚しても問題はない)、四十代に入る前には五人の子供に恵まれ、五十になると同時にギルド長へと就任した頃には、俺の教え子は数百を超えており、冒険者業界に一大勢力を築いていた。まあ、その頃になれば俺が直接指導する事はほとんどなくなり、俺と同じ道に進んだ教え子の教え子という形が増えていたが、周りからすればそれらも派閥の一員との事だった。
七十でギルド長を引退した俺は、二人の奥さんと孫・ひ孫に囲まれて余生を過ごし、八十手前で受付嬢だった妻を看取ってからすぐに体調を崩し、そのままポックリとこの世を去る事になった。
そして俺の死の数年後、俺の一生を題材にした本が教え子だった妻の編集で発表されたのを皮切りに、俺を主人公、またはモデルにした話が続々と出される事になった。
何故俺が自分の死後の事まで知っているかというと、死んで幽霊(決して悪霊ではない)となってしまった俺は、数十年単位で家族や教え子の事を見守っていたからだ。
そして、幽霊としての第二の人生?を終えた俺が、新たな生を受けて第三の人生を歩んだのは、また別の話。