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5-6 水の王

 

 一七番出口『水龍の渦』近辺行き


 目の前にある白い門の先には遠くからでも見えていたあの水のアーチがかかっている。

 この水霊神殿にかかっていた水のアーチはウィンディーネ、獣人・魚用の長距離移動通路でもあったのだ。ウィンディーネの水泳速度ならば全力疾走の6倍は出るし、操水持ちならさらに速いだろう。


 使用するには受付の人に一言かけなければならないが無料である。この水のアーチから神殿に入ってくるのは神殿の巫女と御子を除いて許可されていないが、俺は帰ってくる時も使っていいって許可貰った。


「では行ってきますね」

「お気をつけて!」

「どうかご無事で!」

「「またねー!」」

「無理しちゃダメですよ!」

「「頑張って!」」


 ……以下省略。



 ああ、うん。見送りは良いんだけどさ、この神殿に入ってから12時間ちょいだと言うのになぜここまで多いのだ。


 水探知で人数数えたら70人はいた。野次馬も多いので実際にはそれ以上である。


 振り向いて手を振りつつ水のアーチへと潜り、前を向いた瞬間から高速で移動開始。死神様のホットパンツのおかげでAGIが上がりに上がっているため実に速い。

 さらに操水を使用して水流を作り出して加速、シアの全力飛行よりかなり速いと思うよ、これ。


 超絶広い湖を眼下に広げ、なぜかついて来ちゃってる水精霊の子たちを連れてぐんぐん進む。





 ……見えた、あれは渦潮といっていいんだろうか。渦潮っていうより海の下から竜巻が起きているとかいっていいくらいの規模だ。東京ドーム200個分は確実にある。ウォータースパウトとはまた違って水上に竜巻があるわけではない。


 さらに音も酷い。この近くには例えウィンディーネや獣人・魚であったとしても誰も住みたがらないだろう。


 ……だいたいここら辺から跳べば渦の中心に入るかな。

 操水による水の生成で水を纏い、アーチから外に出て操水の力で宙に浮く。


 水精霊は纏った水の中にいるし、現界しきっていない非常に小さな精霊たちは滅多なことでは死なないと巫女が言っていた。

 ところで精霊さん。水凍らせてもいい?……いいらしい。


 纏った水と体を急激に冷却。マイナス120度程度でいいだろう。さらに手元に絶対零度まで冷やした氷の槍を生成して出来る限り強化して重くする。


 これを巨大な渦潮の中心目掛けて全力で投擲、槍投げなんて慣れてないと難しいが、他のゲームで慣れているので問題はない。


 その槍の冷気を以て渦を凍らせ支配下に置く。名づけてブライニクル。現実に存在するブライニクルとほぼ一緒であるが凍らせる範囲が非常に広い。


 探知開始、……問題はなさそうだが、ある境界で支配が切れているのは迷宮の影響だろう。外から知れれば迷宮に侵入する時も安全で済んだのだが。


 なぜこんなに慎重になるかって言われたら、HP回復手段があまりにも乏しい上に囲まれた際に対処する術が全く無いからだ。


 黒神のネグリジェのHP回復に頼るにしても、ネグリジェ着て、その上にローブ着るとネグリジェのHP自動回復が4s1にまで激減してしまう。

 さらにはホットパンツもゴミとなり、その他の装備も普通の服となってしまう。


 なのでネグリジェのHP回復はあてにできない。


 まあ、水に濡れて張り付く上に透けるネグリジェ着て戦う痴女にはなりたくはないので検証しただけに過ぎないんだけどね。


 ふともも丸見えのこの格好の時点で結構恥ずかしいというのに。







 凍った渦の中を抜けて渦潮の底へ到達。支配の境界を越えた瞬間に景色が切り替わり、水中というのは変わらないが水温が劇的に上昇しマイナス20度から26度へ変化した。


 急速に水温を低下させているが敵に場所教えてるのと同じだな。


 だが温度が低ければ低いほど操りやすいし、俺以外の生物は基本的に体調を崩す。


 なのでメリットの方が今の所多いと言える。火属性攻撃をする相手なら水の操作に専念した方がいい場合もあると最近シアのせいで思い知ったが。


 感知に何か入った、水流が巨大な蛇を模って食らいつこうとミサイルのように直進してくる。

 あれが水龍なのかそれともただの攻撃なのかわからないが、取りあえず凍らせながら操水でいなし近くの岩へぶつける。ぶつけた岩が轟音を立てて砕け散り、残った塵さえも水流に飲まれて消滅する。


 水龍みたいな水流は……消えていないか。めんどくさいから水龍でいいか。


 冷凍に全力を注ぎ、水龍を凍らせていく。

 突撃してきたなら操水でいなす。水の攻撃であるのは間違いないのでダメージを受けるかどうかはわからないが、とりあえず受けないようにする。


 試練的に多分ダメージくらうし。ウィンディーネの試練なのに対象の敵からダメージを受けることはない、なんてことはありえないからな。






「……はぁ」


 ため息をつくのも無理はないだろう。水龍を完全に凍らせたというのに動く。動きやがる。

 水の下位精霊が凍っても動けるように、あの水龍も恐らく精霊か何かだ。精霊の気配はしないが龍神ちゃんの気配が少しする。


 龍神ちゃんの気配はいいとして水の精霊ってことは水属性ダメージを無効化するってこと、試しに氷の剣で裂いてみたが何の効果もなかった。物理(斬撃)属性+水属性攻撃なので物理属性耐性も100%なんだろう。


 頼みの綱のスキルはこの特製の礼装のせいで全て使用不可。


 できるのは凍らせるのと水を操ることのみ。意味はない。

 どうするかなぁ、地上に出て火を持ってこようにも上がればこのダンジョンから出てしまう。


 ……祈りでも捧げようか。


 いつの間にか4体に増えている水龍を受け流しながら胸に手を当て、死神様に力を乞う。この停滞した状況を打破する力を、思案を。


『あ、来たね。久々だから手加減間違えたらごめんよ』


 うっわ、通じちゃったよ。祈り捧げて1秒経ってないよ。



 そんな事を考えた瞬間、眼前に闇が落ちた。

 光が消え失せ、氷も水も消滅し、俺の体内に入っていた水の下位精霊達以外はこの世から消えた。


 ……あの。


『……てへっ』


 てへっ、てなぁ。


 いつの間にか迷宮から外に出てるし、さらには水龍の渦自体無くなっちゃったみたいだし。未だに光が見えないし、試練続行可能なのか?これ。


 水が存在せず、光もなく、月明かりなどない。ただただ闇が支配するのみ。

 周りの状況が暗い、そして水が存在せず、魔力も精霊もいない。ということしかわからないため調べるために操水で水を生成するが片っ端から消滅していく。


 何にもできない。


『あ、あと10分もしたら消えるはずだから!』


 10分ですか。わかりました。


『おかしいな……輪廻界に比べてここまで脆かったか……?』


 死神様が間違っただけなのか、脆くなっているかのどちらかですね。


『まあ、多少張り切っちゃった感は否めないけど』


 ……呆れて物も考えれなくなっていると突如闇が晴れた。


『だよね!呆れちゃうよね!……ごめんなさい』


 そして目の前に立っているのは龍神ちゃん。


 大丈夫ですよ、死神様。そんなところも可愛いですから。


 精神に直接語りかける死神様の声に力が無くなり、シュンとなった黒い少女が要石の上で膝を抱えて顔を埋めている姿が浮かんだ。


 これは神託のイメージなのか。それとも声から俺が妄想した産物なのか。


 っていうかこの思考も死神様ってば見てるんだよね。できる限り奥底で考えるっていうか無意識で考えるようにしているが。


『うん。いつも見てるよ。本来の姿が男の子なのも知っているし、布教するのをちょっと忘れてるのも知ってる』


 えっ、いや、その、男だってのは兎も角、布教は。


『下手に布教すると君が危ないからそれが正しいんだよ。だって私はイーリス教の宿敵、それどころか色の神々全てに恨まれてると思うから』


 そうでもないと思うけどな……それだったら本に何かしら悪い形で載ってなきゃおかしいし。


「……そろそろいいかしら?」

「ひゃ!?」


 龍神ちゃんのこと目の前にいるのに忘れかけてたよ。っていうか近い。めっちゃ近い。


『無視されたらすぐ怒ってたのに、我慢強くなったね、レイメア』

「ッ!?真名で呼ばない!アレティモル!」


 あだ名じゃなくて真名なんですか。あと龍神ちゃん、俺の首掴んで下からガン飛ばしても俺が怖いだけだと思うんです。

 電話相手にキレたから電話を壊すみたいなもので意味ないので、だから、あの。


 おどおどして童女にビビっていると横から龍神ちゃんの手が抑えられた。


 なんだなんだと思い横を見ると。


「……黒神、あんた現界できるなら、なんで、今まで……!」


 龍神ちゃんが震える声でそう言う。


 うん、そうなんだ。今の今まで神託で会話していた、あの死神様が、黒いワンピースを着た少女がそこに居た。

 なんの気配もなく、エフェクトもなく、いつの間にか降臨していたのだ。

 

 何この超展開。


「こっちでやる仕事がないから、私がいる必要はないから、それじゃダメ?」


 死神様が龍神ちゃんの手を握り、微笑み、軽く首を傾げる。

 龍神ちゃんは目を潤ませ、口を震えさせて嗚咽を漏らす。しかしその表情は実に嬉しそうで、神とは思えない姿だ。


「ダメに決まってるでしょ!このバカ!」


 すわ百合展開か?と身構えた瞬間、死神様に握られていない手で拳を作り、空間を破砕し、死神様の纏う闇を切り払いながら光速を超えて(・・・・・・)、唸る。


 そんな恐ろしい過程に対し結果は伴わず、何事もなかったかのように死神様は手で受け止め抱き寄せた。


「……ごめんね」


 それは死神というにはあまりにも優しい、慈愛に満ち溢れた悲しげで儚げな表情だった。


「ひぐっ、あやっ、ふぐっ……まるくらいなら」


 嗚咽を隠そうともせずに龍神ちゃんは死神様に抱きつき、薄い胸に顔をグリグリと押し付ける。


 ……そこから顔を上げて黒ワンピースから伸びた鼻水のアーチをズズッと啜る。


「いなくならないでよ。バカ」


 ……やはり百合展開だった。しかし龍神ちゃんの泣き顔見るのこれで二回目だな。



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