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第四章 「新居」

長崎での新しい生活が始まった永久子。

慣れない新居に戸惑いながらも親しい女中の梅に支えられ暮らしていたが・・・

永久子の新しい生活が始まった。

今までの東京の父の別邸の暮らしとは違う。長崎の豪邸での生活だ。


田舎田舎と初めは馬鹿にしているところもあったが、思ったよりも快適であった。

富田の家の女中は数えきれないぐらい雇われており、久子の身の回りを世話を任された女中達だけでも顔と名前を覚えるのに一苦労だった。

永久子は自分が用事がある時以外にも女中達の話を聞き、誰がどんな名前で呼ばれているかしっかりと記憶していった。

早くこの家に馴染まなくてはという思いからだった。


これは自分が自ら望んだ生活ではない。

だが、もう決まってしまった以上変えることはできない。


変える資格などない―これは三度目の結婚だ。恐らくこれが最後の結婚だろう。

ならば骨を埋める覚悟で望まなければならない。

どれほど耐えがたい環境になろうとも、自分には意志がある。

その意志を捨てなければどんな過酷な状況となろうとも、きっと自分の周りも未来も良くなるはずだ。


改めて強く意志を心に刻んだ永久子は、少し丸めた背中をすっと伸ばす。

さて…と思った瞬間目の前に浅く皺が刻まれた手がお茶を出してきた。

梅だった。


「もうそろそろ夕飯ですけぇ、お待ちくだしぁ。」


「ありがとう。」


例を言って永久子は一口お茶を口に含む。

渋味のないまろやかな甘味が口いっぱいに広がる。なんと美味しいお茶なのだろう。

永久子にとってはこれだけでも女中達の作る夕飯に負けないくらい満足な味だ。


「本当にあなたの入れたお茶の美味しいこと。素晴らしいわ梅。」


「めっそうもなかでしぁ。そんな事言ってくださって嬉しぁす。」


梅は耳まで真っ赤だ。突然永久子に誉められたのがかなり恥ずかしいらしく照れながら袖で口元を隠した。

袖に隠された口元がちらっと見えると、梅の小さな八重歯が少しだけ顔を出す。

若い頃はさぞにこやかな笑顔の似合う可愛らしい少女だったに違いない。

梅は年こそそろそろ五十に届くかという見た目だったが、静かに刻まれつつある皺の入ったその顔は適度に丸みをおび幼い頃の面影をまだ十分に残していた。


「あなたは何でも出来るのね。お茶の煎れ方から何から私の周りの事でも何でも。」


梅はますます赤くなり答える。


「いえいえそがぁな事困りますけぇ言わんさってくだしぁ。私はぬか床なんか作るのは得意ですが文字とかはからっきし読めないでぁすから…」


梅は、永久子の結婚のためにわざわざ富田家がよこした永久子専用の傍女中だ。

公家の娘の世話をさせるくらいの女中なのだからよほど自信を持って送り出したのだろう。

そしてその富田家の選択は間違ってはいなかった。


「文字なんていくらでも努力すれば出来るものよ。あなたのその才能は私にはないものだわ。大切になさいね。」


梅はまだ赤みをおびた顔で深々と手をついて頭を下げた。

しかし梅と過ごして一月が経とうとしているが、まだまだわからない事は多い。

他の女中とはこの家の人間からの扱いが明らかに違う。

年からいってもこの家の事をよく知る人間に違いないからそのせいかもしれない。


しかし何か…何かが…


その時後ろでカタンッと音が鳴る。部屋に入ってきた初五郎だ。


「今しがた仕事が終わったんだが…お取り込み中でしたか?お義母かあ様。」


梅の赤かった顔がさぁっと血の気が引き一気に青ざめた。


「い…いえ、申し訳なぁでぁす。只今夕飯の支度しますけぇお待ちくだしぁ。」


梅が慌てて立ち上がったので畳を擦る音がいつもより大きく聞こえた。


「ふん、あの女…どうせこの後親父の所に顔を出すんだろう。」


そう 蔑んで目で皮肉たっぷりに言い捨てた初五郎の目を永久子は見る。

まるで親の敵とでも言いたそうに梅が去っていった方向を憎らしげに睨んでいる。


永久子は理解した。

梅は…重造の妾だ。

更新は波がありますが週1くらいでやっていこうかと。。。

初五郎のキャラ設定に苦労してますorz

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