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第二十二章 「手紙」

静枝に家に行った日から八夜の事が頭を離れない永久子。

そこに八夜から手紙が来てー

ぼうっと窓の外を眺める。もう秋が来る。それとももう来たのかもしれない。

そんな事を考えながら永久子は先日の出来事に耽っていた。


そう、八夜の家に行った時のあの出来事だ。

八夜の家で詩を詠んでいる時永久子は心の底から静枝に対して嫉妬をした。

何の苦労もせずただのうのうと駄々をこねて生きている静枝を妬み、恨み、羨ましいと思った。

そして同じ態度をとることが許されず毅然(きぜんに振舞わねばならない自分が心底惨めだった。


何故自分だけ―


そう思う事がどれ程愚かであるか分かっている。

その思いを態度に出せばああ、何て可哀想な自分なのだと不幸に酔う薄っぺらな女と同じだ。

だから出せない。出してはいけない。

だが、心の隅に巣食うその哀れな自分は確かに永久子自身である事も事実だ。

永久子の心には強く気高き精神と打ちのめされ消え入りそうな位弱い感情が複雑に入り混じっていた。


そして八夜―あの男こそあの日永久子が今までひた隠しにしていた女の部分を露出させた張本人だ。

あの日永久子は人の妻としてあらざる態度を八夜にとった。

誘惑する様な態度と言葉で八夜を見つめ八夜の誘いにのったのだ。


八夜の詳しい意図はわからない。

だが、永久子に何か別の感情を抱いていることは確かだ。

友人の妻以外の感情の何かを・・・


そう思うと八夜はやはり危険な男だ。

自分と永久子の立場を理解しているにもかかわらずあの様な態度を取るのだから。

しかし、永久子からはやっぱりやめようか?などと怖気づいた感情は出てこなかった。


八夜は優秀な男だ。静枝の夫にしておくには惜しすぎる。

八夜を選ぶために具体的に何かをしようとはまだ考えられないが、少しぐらいの憂さは晴らしていいのではないか?

そんな疚しい考えが今永久子の頭の中にあった。

普段の自分であれば決してこんな事は考えないだろう。

しかし、長く富田家の重圧に蝕まれた永久子にとって八夜からの誘惑は暗く重く病みきった永久子の心を浮き立たせるのに十分だった。


「永久子さん、今大丈夫でぁすか?」


梅の声だ。


「えぇ、大丈夫よ。どうぞ入って頂戴。」


秋になり、着物の色を変えたのだろう。

秋のいちょうの葉よりも少し暗めの着物を着ている。

梅は大きい音を立てないように静かに襖を閉め、ある封筒を永久子に見せた。


「失礼しぁす。野本八夜様からお手紙でぁす。」


「まあ、八夜さんから?」


噂をすれば、とはこの事だ。

茶色い封筒の中には二枚の手紙が入っていた。


「・・・学会のお誘いだわ」


一枚目は、来月開かれる学会の日程などの詳細が書かれた紙だった。

二枚目はその学会で自分が発表する事になったので、時間があれば是非来て欲しいと書かれていた。


「八夜さんが来月学会で発表なさるんですって。もし良ければわたくしもって・・・」


「まあ、それはそれは・・・本当に八夜様は勉強熱心な方ですぁね。」


「そうね、そういえば梅。貴方静枝さんと親しかったのなら八夜さんとも顔見知りなのではなくて?」


「いえいえ私は全くそんな立場でぁなくて。確かに静枝さんは昔から重様になついてらっさったから私も知ってぁおりますが。八夜様と静枝さんの結婚はほんの2年ばかし前の話ですし。八夜様のお父様の幹成様は重様と仲が良いんで良く知っておりぁすがね。昔から八夜様はお忙しい方だったんでこの家にも一度位しか来てねえと思いますぁ。なんで、私も八夜様の事はお顔もあんま良く知らねえんでぁすよ。」


「ああ、そうなの。」


それは都合が良い、と永久子は思った。

この屋敷に八夜は滅多に来ないなら、初五郎と接触する機会も少ないだろう。


「せっかくのお誘いだし行ってみようかしら。難しそうなお話かもしれないけれど色々知っておくのは良い事だから。」


「そうでぁすね。永久子さんは勉強熱心じゃから。」


そう言って梅は夕飯の支度に外に出て行った。


梅が出て行った部屋で永久子は、梅がいる間ずっと指で隠していた文の一部を見た。

二枚目の紙の一番下に男の人の字らしいはっきりとした字で書かれたほんの一行の文。

そこには詩が書かれていた。


「育つ秋 いちょう葉落ちる かの時に 再び見ゆる 夏の残り香」


永久子は一目でこの詩の意味を理解した。

この手紙は、あの乾いた夏に会った日からの再会を望む八夜の手紙だった。

半年以上も更新を放置していてすいませんでした;

しかもそのわりに話進んでない;;

前の章のミスもあらかた直したし、ぼちぼちちゃんと更新していこうかと思っています。

よろしくお願いします!

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